朔文小説まとめ

朔文の短めの小説(最大でも2000字)をまとめました。




【このあと熱中症になった】



「さく、暑いから離れて」
「いやだ」

照りつける日差しが眩しい夏の放課後。
じっとりした汗が伝い、クーラーの涼しい風や冷たいアイスを欲したくなる季節だというのに、文花ふみかは幼馴染の朔叶さくとにべったり抱きしめられていた。人肌の温かさは冬だとありがたいが、夏だと暑すぎて迷惑極まりない。
引き剥がそうと腕に力を込めるが、朔叶の身体は微塵も動かない。背中をポカポカ叩いても同じく。

……さっきの女には抱きつかれても抵抗しなかったのに、僕には抵抗するの? あの女はふみちゃんにとってそんなに特別な存在なの?」

間近で目を見開きながら、呪詛のようにボソボソ問い詰められる。背中に回された手に不意に力が込められ、ギリリ……と嫌な音がわずかに聞こえた。
確かに文花は先ほどまで、彼女より頭一つ分小さい見知らぬ女子生徒に抱きつかれていた。脈絡もなく突然だったというのに、文花は顔色を変えることなく素直に受け入れていた。
その一部始終を離れた場所でバッチリ見てしまった朔叶は、女子生徒が去ったあとすぐに文花の元へ行き……現在に至る。

「あの子は最近部活に入った新入生の子だよ。特別も何も私はあの子のこと、まだあんまり知らないよ」
「ふぅ〜ん……距離感がおかしい子なんだね」

お前が言うなランキング一位に入りそうなブーメラン発言だが、朔叶は自分の大切な文花に簡単に触れた女子が許せなくて、それどころじゃない。
男子が論外なのは前提として、女子であっても文花には指ひとつ触れてほしくないのだ。朔叶という男は、文花にはとても甘いが、それ以外の人間は性別問わずものすごく厳しい。どんな理由があっても絶対に、絶対に許さない。

(あの下級生には後で先輩として説教してやらないとね。でもその前に、ふみちゃんの身体についたあの女のにおいを僕ので上書きしないと)

暑さで溶けかけてる文花のことはお構いなしに、すでに密着している身体をさらにぎゅうっと抱き寄せ、肩口に顔をうずめる。
この柔らかくて甘い香りは、気軽に他人が堪能していいものじゃないのに。僕だけが知っていればそれでいいのに。
薄暗い感情に思考を包まれている朔叶の腕の中で、文花はもう抵抗する気力も無く、ただされるがままに抱きしめられることしかできなかった。