もち粉
2025-12-21 00:57:41
22379文字
Public
 

起死回生ヒロイン―クラノム家家宝由緒書き―


カブミス クラノム姉弟
※ホルム姉の名前を「フロル」と捏造しています

「っあ〜〜」

ホルムは腹の底から鬱憤を吐き出すように大きく息をつき、小脇の箱を抱え直した。

実家から荷物が届いたと姉に言われて、取りに寄った帰りだった。
母も姉とホルムの家と、別々に送ってくれればいいのに。その都度姉の家に行く手間と、ぶすくれた顔を拝む羽目になる苛立ちを母は取り合わない。「だって送料がもったいないじゃない、あんたたち同じ街に住んでいるんだし」といつも姉の家にまとめて送ってくる。
別に仲良し姉弟でもないので、「ほらよ」「どうもね」で終わり。
「せっかく来たんだから、お姉ちゃんのご飯食べて行きなさいよ」なんて決してならない。いつもなら。

それが今日はどうだ。エプロンをつけた姉に迎えられた。ホルムとしては、この時点で顔が引きつったものだ。背筋に冷たいものが走る。
さあさあと肩を押されんばかりに食卓につかされて、覚悟を決める間もなく手料理を振る舞われた。

「で、どう!?」

「なにが?」
一匙目を口に放り込んだ瞬間に聞かれても、うまいかまずいかなんてまだわからない。せめて飲み込み終わるまで待ってほしい。

だが姉は、何か悪いものでも入っているんじゃなかろうかとばかりに警戒している弟の様子には目もくれずに、頬を両手で挟んでいやに艶っぽく上目遣いで首を傾げた。

「だからぁ、カブルーが好きそうな味かってことよぅ」
「はぁ? なんでカブルー?」

カブルーとは、ホルムが冒険者だったころ所属していたパーティーのリーダーだったトールマンの青年だ。ノームのホルムを始め、ドワーフ、トールマン、ハーフフット、コボルトと人種バラエティ豊かなメンバーをまとめ上げていた。
老若男女を誑し込む類稀なる人たらしだが、彼の場合、その天性の社交術を意図的に発揮するのでたちが悪い。
そう、カブルーはいっそ変態的なまでに人間関係というものが好きであった。あらゆる人と人との関係、人間がある状況に置かれた時にどういった反応をするかということに飽くなき興味を惹かれる。
隠された本音を聞き出すことに苦労を厭わない。人の懐に入るためならなんでもする男だ。

そんな彼は、ホルムの姉と時折文通したり、彼女の家を訪ねたりしている。
決してホルムが紹介したわけではない。どうやって近づいたのかは不明だが(聞きたくもない)気づいたら姉はカブルーにメロメロであった。

「カブルーが手紙をくれたのよ!『最近は城勤めが忙しくなかなか会えませんが、また食事にでも行きましょう』って♡」
赤くなった頬に片手を当て、肩をすぼめるような恥じらいのポーズを取りながらも、残った片手は「読め」とばかりに便箋を突き出してくる。

「海沿いの素敵なレストランとかもいいけど? 忙しくて疲れてるなら、私の家で手料理を振舞ってあげるのもいいかな〜なんて!」

今にも「きゃっ」とでもいいそうな姉を見て、ホルムはこっそり舌を突き出して胃のあたりをさすった。
いつも仏頂面の姉をここまで変えてしまうとは、カブルー恐るべし。

ってゆーか、姉ちゃんにちょっかいかけるの止めろって言ったのに、まだ文通してたのかよ!

こちとら姉の「女」の顔など見たくないのだ。彼もようやっと本命ができたのかと思えば、何をやっているのか。わざわざウチの地雷を踏みに来るのは止めてほしいね。


ため息を漏らし、小脇の荷物を胸の前で抱き直した。荷物からかすかに漂う故郷の香りと夕暮れ時の光が郷愁を誘う。
あと少しで家だ。今日はさっさと寝てしまおう。陽がすっかり傾き、煉瓦の壁が赤く染まっていた。
ふと顔を上げると、自宅の前に誰かが立っている。

「やあ、ホルム。よかった、入れ違いにならなくて」

――カブルーだった。