ロマン君がぬくぬくとしたお布団から出て行きたくなくてうだうだする話

BLではありませんがこの生産ラインではマーロマ(順不同)も生産されています


 まだ、夢がやって来る。
 もうすっかり癖になってしまったので今日も今日とて頭の上まで布団を被っていたのだが、そうしているのがそろそろ息ぐるしくなってきてちょっと勘弁して欲しいかもしれないというこの時期に、それでもまだ夢は追ってきた。ソレは相変わらずボクの部屋を散々品定めした末に、ベッドの傍らに立ちボクを見下ろしている。オタクであるボクの部屋はボクなんかよりももっと見応えのあるものしかないのだが、ソレはいつもボクを見る。
 毎週金曜日になるとカレーの匂いを漂わせてくる上の住人のお宅に居候なんて凄く楽しそうだがどうだろうか。左隣のお宅が毎晩引いているギターの腕は相当なものだと思うが、そちらもどうだろうか。コレってなんとか他人に押し付けられないかなぁとうだうだ考えている間も、ソレは黙ってボクを見下ろしている。
 そう、そんなにボクがじゃなきゃダメかぁ。
 コイツはボクに一体全体どんな用事なのだろうか。いい加減に好奇心と、それとちょっとの責任感がボクの中で湧き始めていた。もういい加減にそろそろ布団から出るべきかと思っていたのもある。いつまでもこうしちゃいられないのだ、きっと。
 そうしてゆっくりと、何よりも重い掛け布団を下ろすと、ソレとようやく目が合った。

 虹色でもなくボクのように緑色でもない金色のソレは、それでも間違いなくボクの瞳であり、そして昼間見つけたアイツの瞳ではなかった。
 灯一つつけていない部屋に同化するような黒モヤの中に金色の瞳だけがわざとらしいくらいに爛々と輝いている。それを綺麗と讃える人もこの世にはいるのだろうけれども、ボクには眩しすぎるように感じた。どんな所でも良く見えそうだけれども、でもやっぱり、疲れてしまいそうだ。
 それがキミの本体なのかい? 難儀だなぁ。……ボクは違うよ?

 ソレは熱の籠っていない弾頭台のような眼差しをボクに向かって降ろし続けている。何か言いたげだ。いいよ。もう早く言いなよ。
「もう思い残すことはないのかい?」
 ソレはそれだけを問うてくる。なんて言い分だ。扉を叩いてきたのはお前で、そして叩く側が運命に決まっているだろ。
 この瞳はボクの部屋の何を見ていたのだろうか。思い残すことなんてそんなの、あるに決まっているじゃないか。人間なんてのはな、明日のお昼ごはんはボクもたまにはC定食を頼んでみようかなんて、くだらない悩みすら捨て置けずに抱えて生きる生き物なんだぞぅ。
 でもそんなこともわからないからお前はそういう目ができるのだ。見るだけができてしまうのだ。なら、そうだね。キミは仕方がないね。
 でもほら、例えばボクが今日大学で出会ったマーリンとかいう男。見るのに退屈しないトラブルメーカーの気配がするけれども、ボクの代わりにアレはどうだい? 1番ダメ? そうかい。だろうねぇ。
 うーん。
 こうやって実物を目にすると、その瞳はアイツのそれとは似ても似つかないように感じてくるから不思議だ。やっぱりなんでも実際に体験してみるに限るね。
 明日もしもキャンパスで出会ったら、コレと一緒にしたことを謝ることにしようか。ほらね、またくだらない用事ができただろう?
 コレが人間なんだよ。毎日だって、明日のことを考えて走って、眠るんだ。
 キミもこんな部屋にばかり這入ってこないで、もっと色んなものを見なさい。
 ——さて。
 また布団を頭のてっぺんまで被ってふて寝してやろうと思ったけれども、もうそうしているのも息苦しい頃合いなので、やめておいた。

 ○

「というわけでゴメン」
「黙って聞いていたら不穏でよくわからないけれども確実に失礼なことをベラベラと……
「だから謝ってるだろう」
「別にいいけどさぁ。というか! それよりも! 引っ越さないのかい、その部屋。聞けばそこそこボロそうだし防音もイマイチなんだろう? オタク的にはそれは引っ越し理由には十分だと思うけれども」
「まぁ……、うん。今のところは……
「ほらぁ。今の条件に満足してるだなんて言い訳してないでさっさと引っ越ししたまえ。それで解決だ。怠惰はいけないぞぅ!」
「それは、うーん」
「なんだい、この期に及んでまだ何かあるのかい? もののついでに聞いてあげてもいいけれど」
「えーっと、逃げちゃダメだから?」
「エヴァンゲリオンに乗る使命を背負ってる人?」
「そんなわけあるか。ボクは普通の人間だぞぅ! ほらもうこんな話はおしまい。ボクの気が済んだからキミもどっか行っていいよ」
「えー、今のままだと本当につまらない話じゃないか。面白くないね、本当に。——だからそうだね、今晩にでも泊まりに行ってあげよう。キミの夢を散々面白おかしく引っ掻き回してやるぞぅ。このマーリンお兄さんに任せなさい」
「やかましいから来るな、馬鹿」
「ちなみに私はソイツと違ってパソコンにも強いぞぅ!」
「出禁!」