ロマン君がぬくぬくとしたお布団から出て行きたくなくてうだうだする話

BLではありませんがこの生産ラインではマーロマ(順不同)も生産されています


 頻繁に夢を見る。

 何かが勝手に部屋に入ってくる夢だ。
 或いは、気づいた時にはもうとっくに入り込んでいる夢だ。

 その夢を初めて見たのは引っ越して来たその日の晩だった。
 深夜に突然インターホンが鳴ったので目をこすりながら必死にむくりとベッドから起き上がるという、現実の延長線極まりない始まり方をしたものだから、ボクは最初それは夢ではなく現実だと錯覚していた。リノベーションしてもなおその古さからやや軋む床板をギィギィと鳴らしながら(これのせいで本に囲まれた実家の生活とは正反対に電子書籍生活に鞍替えする羽目になった。床が抜けるのは怖いからね)やや薄汚れた玄関の前に立った所で、なんとなしに違和感を覚えた。その日ボクが眠りについたのは、深夜の一時の筈だった。眠る前のネットサーフィンの相棒のスマートフォンで時間を確認してから瞼を閉じたのでこれははっきりと断言できる。そこからインターホンが鳴るまで具体的に何時間寝たのかは覚えていないが……、十分や二十分なような短い時間ではないと思う。オカルト方面には詳しくないが、それでも一般常識として「丑三つ時という単語くらいは知っていたのでごく自然に不穏な考えに至るまでさして時間はかからなかった。

 さて、考えよう。
 こんな夜更けに、誰がボクに何の用なのか。
 というかそんな存在が本当にこの玄関の前にいるのだろうか?
 この考えに至って、ボクはようやくこれが夢かもしれない、或いは現実ではないという可能性もあることに気がついた。

 そこに辿り着けば話が早く、深夜の静けさをも意に介さない時計が時を刻む音が嫌に耳につき始める。普段は全く意識しない音だ。というのもこのアパートはボクと同じ夜型の人間が多く、また防音もイマイチであるため、時間帯を問わずひっきりなしに生活音がする。ペットを飼っている人間もいるのでたまに猫の鳴き声なども聞こえてくる(愛らしくて実に結構、元気でよろしい)くらいには賑やかなのが常なのだ。ボクと、玄関の向こうでインターホンを鳴らした何か以外は誰もいない世界の音が耳に刺さり、段々と今この状況がどれだけ現実離れしているかどうかに焦点があっていく。
 いっそインターホンなど無視してまた寝てやろうか。これは夢であってもなくても、特に問題はない行動の筈だ。
 玄関の向こうにいる存在が人間であってもなくても、こんな深夜に訪ねてくるのは一般的に不躾に相当する行為として無視を決め込んでも許されると思うのだ。
 そう、思えたのに、夢の中のボクは玄関の前で立ち尽くし続けたままだった。
 寝るでもなく、玄関を開けるでもなく、ただただ立ち往生していた。
 そうして何も決断できないまま、目が覚めるまで玄関の覗き穴から外を覗き込むでもなくただ見つめ続け、そして朝になった頃に鳩の鳴き声と共に目を醒まし、アレが夢だったのだという確信を得た。

 本当に不思議な話なのだが、今となってはボクは玄関の向こうには誰かがいると信じて疑っていない。
 悪戯でもなく、また心霊の類でもない何かがインターホンを鳴らし、ボクが立ちながら呆けている間にも扉の向こうでみじろぎ一つせず、ボクを待ち続けていたのだと確信している。その待ち続けているものの正体が何なのか、何故待つのかを知るのが、今一番怖いことだ。
 
 いや、怖いというのもちょっと違うか。
 きっとこれは躊躇だ。

 何せボクは優柔不断で、臆病者だから。