はいで
2025-11-16 13:32:02
24560文字
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鏡合わせの挑戦者

文字数:約22,000文字(本文のみ、あとがき含まず)
もしもサバージオスが分離に成功して、オデュッセウスと試合をしたら?
「俺と戦ってくれ」
軽やかな徒手空拳。躍動する四肢。飛び交うファンネル。
相対する二つの巨大ロボット。
「「終焉の大木馬(トロイア・イポス)!!」」
よく似た、しかし異なる意思を持った声が、輪唱する様に唱和する。

筆者は観戦したい。
…この激熱展開、どうやったら見られる?
「せや!!六騎目の霊基にサバジ移したろ!!」
つー訳で形にしてみました!
俺の考えた最強のバディ・バトル展開を食らえ!!





 紆余曲折あって数時間後。
 シミュレータールームの中央で、オデュッセウスとサバージオスは向かい合っていた。
 サバージオスがため息を吐く。
「試合をするだけだというのに、随分とゴタゴタした事態になったものだな」
「ははそれだけ期待されているって事だ、そう思おう」
「ただ戦うだけだというのにな」

 さて、二人の試合が決まってから、数時間の間で色々な事があった。
 マスターが一気にサバージオスを強化しようとして、サバージオスが「おい、その場の勢いで資源を浪費するんじゃない!オデュッセウスの強化分もあるんだろう?」と抵抗を示してひと悶着を繰り広げたり。
(結局「ちゃんと素材の余裕の範囲だし、お祝い分だから受け取って!」という言葉と共に押されてしまったがサバージオスという神霊は人間の心からの捧げ物には弱い傾向がある)
 カルデアの技術部が「同じ霊基のサーヴァント同士の戦闘だなんて!データを取りたい!」と盛り上がり、平に頭を下げてデータ収集の協力を願い出て、許可を出したら嬉々として機材と設備の準備を始めたり。

 また、上記の一連の騒ぎを聞きつけた他のサーヴァント達もお祭り気分で盛り上がってしまった。
 例えば、血気盛んなサーヴァント達が観戦を希望したのだが、まだそれは可愛い方で。
 熱気を見て取って賭博を開こうとした商売人達が「話がまとまるまで勝負は暫く待ってくれないか?」などと、二人へ話を持ち掛けてくるのである。
 一方で、軍師達は同霊基対決という事で興味津々に予想を語らい、議論が白熱していた。また、軍師達はオデュッセウスと交流が深い事から、面白半分、激励半分で発破を掛けられたものだ。
 それが道端で繰り広げられるのだから否が応でも衆目を集めた。

 あわや収拾が付かず「トンチキ騒ぎになるか?」と危ぶまれた所で、マスターが鶴の一声で場を切り上げた。
「ごめんね、二人には戦いに集中して欲しいから、観戦は最低限にするつもりなんだ!
 その代わり、撮影はしっかりしてくるから皆は待っててくれないかな?
 賭け事は止めないけど、お小遣いの範囲を超えないようにしてね!」

 こうして場が一旦落ち着いた後。
 二人は「更に騒ぎが広まってしまう前にさっさと決着をつけてしまおう」と決めてシミュレータールームへ駆け込み、マスターと技術部の準備完了を待ちながら今に至る。
 シミュレータールームとマスター達の控えているモニタールームは分厚い強化ガラスで区切られているのだが、そろそろ準備が終わるだろうか?と言った所だ。

 オデュッセウスは苦笑しながらサバージオへ返事をする。
「まあカルデアでは前例がないからな、同じ宝具と霊基の持ち主が相対して戦うなんて。物珍しいんだろう」
「同じ霊基、かそうだな」
 サバージオスは静かに呟いた。その辺りについて、サバージオスには思う所があった。
(同じ霊基でどれだけの違いが出せるのか俺にも興味はある)
 サバージオスの胸中には静かな決意が存在していた。
 今回の戦いの中で試してみたいと思う戦い方があった。
(そして、戦いの中で問いたい事もある)
 だからこの勝負に乗ったのだ。




 ダ・ヴィンチのアナウンスの声が響いた。
『待たせたね二人とも!漸く計器の準備が整ったよ、そっちはどうだい?』
 二人は軽く手を振って応える。
「準備万端だ」
「早く戦いたくてウズウズしている」
『OK!じゃあ今からフィールドの設定を反映するけれど、いいかい?』
「いいぞ」
『ではこれが今回のフィールドだ!』
 ダ・ヴィンチの声が響いたその瞬間。
 サァッ!と草原を駆け行く風の音が、二人の耳に響いた。

 見渡す限り果てのない草原。
 遠くには薄っすらと山が見えている。
 流れる風、風に揺れてサラサラと音を立てる青草。昼間の太陽は遮る物がなく遍く光を投げかけ、広大な空間を照らし出していた。

 広々とした青空が天高く。
 二人の大型宝具を展開したとしても悠々と受け入れる大自然が、此度の戦いのフィールドだった。
 遮蔽物は基本的に存在しない。イネ科の植物を主体とした高原であり、岩はなく、木は生えていない。所々に所々背の高い草が纏まっているものの、人ひとりが隠れるには小さすぎる。
 技術部が限りなくフラットな状態で、しかし大型宝具を展開しても可能なフィールドを選出した結果、この高原が選ばれた。 
「懐かしいな」
「そうだな」
 二人は言葉少なに語らった。二人が生きた古代ギリシャ・フリュギアに程近い地域設定だった。馴れた空気を纏うフィールドに意気が高揚する。
『この設定で不服はないかい?』
「ああ!粋な計らいだ、礼を言わせてくれ」
『フフ!せっかくの機会だ、全力を出してもらわないとだからね。
 じゃあ、カウントダウンへ入るよ、二人とも位置に着いてくれたまえ』
 モニタールームはシミュレーションの起動と共に、二人からは見えなくなっていた。
 戦場に二人きりとなって否応なしに集中力が高まり、所定の位置で臨戦態勢を取った。
『それでは、いくよ!』
 二人の男の真剣勝負を開始するべく、朗々としたダ・ヴィンチの声が響き渡る。
『10,9,8



「サバージオス」
 隙なくアイギスを纏ったオデュッセウスは、仮面の下で声を発した。
「遂に待ち望んだ戦いが始まる訳だがただ、先に謝らせてくれ。
 俺の霊基の方が今は出力が強い状態だから、フェアではないな。そこは悪い」
 応えるサバージオスの声は、重圧など感じないかの様に軽かった。
「いいや?フェアな戦いなど戦場にはない、いつだって工夫次第だ。そうだろう?オデュッセウス」
 むしろサバージオスは戦意に高揚しているらしく、上機嫌に弾んだ声をしていた。
 多少のハンデなどひっくり返せると、気にも留めないサバージオスらしい物言いにオデュッセウスは愉快になって笑った。
「はは!違いない」
「フッ、うかうかしてると足元を掬われるぞ」
「それもそうだな」



『3』
 いよいよ戦いが始まろうとしていた。
『2』
 両者は睨み合って視線をぶつけた。
『いちっ!?』
 カウントが終わるまであと一秒その瞬間、サバージオスとオデュッセウスが同時に動いた。
 サバージオスは一気に間合いを詰めて右手で殴りかかる。
 一方で、オデュッセウスは既にアイギスを展開済みの状態で立っていた。サバージオスの奇襲を予想していたのだ。
「チッ!」
「浅いな!」
 一瞬の攻防の後、二人は再び距離を空けて睨み合う。
 戦いは既に開始前から始まっていた。

 二人の一瞬の動きに絶句していたダ・ヴィンチが、ハッとしてスピーカーから注意を飛ばす。
『ちょっと!二人同時にフライングとかそんな事あるかい!?』
 ダ・ヴィンチは「戦いに水を差すのは無粋だ、できるだけ口を挟まないようにしておこう」と思っていたのだが流石に驚いて口を挟まずにはいられなかった。
 だが、二人とも似たような回答を返すばかりだった。
「言っただろう、フェアな戦いなど存在しないと」
「サバージオスなら全力で勝ちを取りに来るだろうと、思っていたさ。やっぱり油断ならないな」
 だからこそ、オデュッセウスはその動きを予想していた。
 二人は睨み合いながら挑発し合う。
「ぬかせ、今のは簡単な小手調べをしただけだ、いつも通りヘラヘラと笑っているお前がどこまで本気なのかとな。
 この分だと、どうやら本気で相手をしてくれるらしいな」
「当然だ、マスターの前で出し惜しみをするような恥ずかしい試合をするつもりはない」
 ダ・ヴィンチは呆れた様に「やれやれ、仲良しだねぇ」と呟いた後に。
『まぁ撮影も計測もバッチリだから構わないさ、好きにするといい』
 と言って、傍観を決め込み、計器のチェックに集中する事にした。
 二人が言う事も事実なのである。
 ギリシャの智将とフリュギアの騎乗神。二人は共に知略を重んずる。勝負へ勝つ為に、戦いに負ける事さえ勘定に入れられる者達だ。二重三重に策を用意し、目的の為ならば手段を選ばない。
 二人の目が見据えているのは、騎士の様な誇り高い勝利ではない。
 二人の目指す勝利とは、戦いに負けてでも勝負に勝つ、そういう勝利だ。
 そこへ至る為ならば、例え、誇りを捨て泥に汚れたとしても目的を遂げるそんな粘り強い気概が両者を突き動かしていた。
 汚い手、狡い手も含めて、全力なのだからそれが軍師同士の戦いだ。
「俺とサバージオスの間には既に差がある。だから焦る、そうだろう?」
「安い挑発だな、差があるからといって胡坐をかく訳でもあるいまいに」
 話しながら、二人は互いの出方を伺う。
「はは、追いつめられた鼠に噛まれるのは痛いからな、警戒もする」
 オデュッセウスはサバージオスの冷静な判断力を削ぎ落そうと、舌戦を交わすものの。
「お前本心にもない事をペラペラと喋って、虚しくならないか?」
 取り付く島もない。
 効果がない事を見て取ったオデュッセウスはため息を吐いた。相手が全く意に介していない上に意図を見抜いて諭されたとなれば、虚しい感覚にも陥るというものだ。
 これもまた一つの戦いの手段、として煽ってみたが本心を言えば、オデュッセウスは友を貶める様な事など言いたくはない。
「まあ楽しくはないなそれよりも目の前に集中した方がよっぽど有意義らしい」
 二人は間合いを測る為に横へ歩き円を描きながら、ゆっくりと仕掛け時を見計らう。その光景はさながら二頭の肉食獣が互いを喰らわんと狙うかの様だった。
 常にはない独特の緊迫感が、見る者の空気すらをも張り詰めさせていた。
 二人ともマスターの前で中途半端な戦いなどするつもりはなかった。
 マスターが見ている、オデュッセウスとサバージオスをエースとするマスターが勝負の行く末を固唾を飲んで見守っているのだ。
 己の全力を尽くし、己の力を示したい。
(だからこそ思いきり戦おう)
 オデュッセウスは状況を楽しんでいた。そしてサバージオスと旅の中でできた仲間と競い合う機会を喜んでいた常に背中合わせに共闘している相手だ、叶うならば手合わせしてみたいと常々思っていた。
 今日、その願いが叶ったのだ。だからこそやる気で満ちていた。