はいで
2025-11-16 13:32:02
24560文字
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鏡合わせの挑戦者

文字数:約22,000文字(本文のみ、あとがき含まず)
もしもサバージオスが分離に成功して、オデュッセウスと試合をしたら?
「俺と戦ってくれ」
軽やかな徒手空拳。躍動する四肢。飛び交うファンネル。
相対する二つの巨大ロボット。
「「終焉の大木馬(トロイア・イポス)!!」」
よく似た、しかし異なる意思を持った声が、輪唱する様に唱和する。

筆者は観戦したい。
…この激熱展開、どうやったら見られる?
「せや!!六騎目の霊基にサバジ移したろ!!」
つー訳で形にしてみました!
俺の考えた最強のバディ・バトル展開を食らえ!!





「大変だよ!オデュッセウスー!聞いて聞いて!!」
 それはいつもと変わらない一日である筈だった。
 マスターが常ならぬ様子で、オデュッセウスの自室へ駆け寄ってくるまでは。
「今度はどうした?マスター」
 オデュッセウスは座ってくつろいでいたのだが、慌てず、慣れた様子で応対する。
 このオデュッセウスはカルデアにおいて、最初期から前線で活躍してきた古参だ。マスターが右も左もわからないヒヨコだった頃からずっと見守ってきている。だから今回の様にマスターが飛び込んでくるのもいつもの事だ。真っ先に頼られるのは少しくすぐったいのと同時に誇らしい。
 そんな訳で「今日はなんだろうか?」と普段通りに訪ねると、驚くような言葉が降ってきた。
「遂にオデュッセウスの霊基!六騎目が召喚できたよ!!」
「えっ!?本当か!?」
 これには思わず、オデュッセウスもガタッと立ち上がった。
「うん!これでオデュッセウスの霊基がもっと強化できるよ!!」
 カルデア式召喚は奥が深い。
 技術部がコツコツと研究開発を続けているのだが、本当に様々な強化手段がある。
 通常、六騎目の霊基は余剰分となってしまうので意味がないのだが。
 技術部がその分を「どうにか有効活用できないか?」と研究を進めた結果、現在は六騎目の霊基の獲得によって、最大限の強化を霊基へ施せる様になっていた。
「やったな!流石マスターだ」
「いやー、相性召喚って本当にあるんだねー、オデュッセウスのお陰だよー」
「なんの!お前の人柄が良いからさ。一緒にいて気持ちいい相手だからな、マスターは!」
 そのままオデュッセウスは喜びのあまりマスターの身体を抱え上げてくるくると回り出した。

 背景にお花畑が出現しそうなほのぼのと仲の良い光景
 サバージオスは霊基の内側にて、ソワソワしながら話へ耳を傾けていたのだがため息をつきたくなった。
(仲が良いのは悪い事ではないがこの二人はマイペース過ぎて、話がなかなか進まないのが悩ましい)
 サバージオスも二人とは長い付き合いである。
 人理修復の旅路のごく初期に出会いこのコンビを見守ってきたが、この二人は相性が良すぎて有体に言えば天然と天然のコンビなので、二人だけで話をさせると会話の方向性が暴走しがちなのである。
 二人の名誉の為に言っておくが作戦行動中や戦闘中は全く問題がない。オンオフはきっちりしている。ただスイッチの切れた状態で素の二人が相対すると、こうなる。
 毎回サバージオスがツッコミを入れて軌道修正をする羽目になるのだが今回もそうなりそうだ。
 マシュは善良過ぎて二人の話に乗ってしまうのでストッパーにはならないし、ロマニも戦闘時はいいのだが、平素となると流れを加速させてしまう側だった。
 ここへ同期のイプシロンが入ると更に混沌と化す。
 サバージオスはダ・ヴィンチやエフェメロスとはよく保護者会を開いていた。

 サバージオスはいつもの様にオデュッセウスへと声を掛けた。
『オデュッセウス、話の途中ですまない』
 霊基の内側でサバージオスが声を発するので、オデュッセウスは動きを止めてマスターを地面に降ろす。
「どうした?サバージオス」
 オデュッセウスはこの場では、マスターにもわかりやすいように肉声で話しかけた。
 マスターも虚空へ向かって話を始めるオデュッセウスには慣れたもので「サバージオスとの話を邪魔しちゃいけない」と考え、じっと待っていた。
 テンションが上がり切って抑えられなくなった仔犬の様に、腕をパタパタさせているし、やたらとキラキラした目で見つめてくるが。いつもの事だとサバージオスは流した。この程度で気にかけていたら軌道修正などできない。
『遂にあの話が進められる様になった、という認識でいいか?』
「ああ、そこの確認は大事だな。お前の進退にも関わる」
 オデュッセウスは改めて話を進めた。
「マスター、遂にサバージオスを分離する準備が整った。
 そういう認識でいいか?」
「そう!だからすっ飛んできたんだよ!
 実際にやってみないとわかんないけどさ、サバージオスが自由に行動できる様になるかもって思ったら、俺、嬉しくって!」
『遂にか
 サバージオスは感慨深く呟き、オデュッセウスの内側で頷いて瞠目した。
『俺が、俺だけの霊基を得るのか
 前々から話には上がっていた。
 マスターが召喚を重ねる度に「今回の霊基はサバージオス用にとっておく?」と問うてくるのだが、サバージオスは「居候の俺がオデュッセウスの成長のストッパーになってどうする?素直にオデュッセウスへ重ねておけ」と突っぱね続けていたのである。
 マスターはそんなサバージオスへ改めて声を掛ける。
「サバージオス、もう一人の俺のライダー。
 本当はずっと自由にしたかったんだ。
 今度こそ受け取ってくれるかな?」
『もちろんだ』
「もちろんだ、と言っているぞ」
「ならよかった!」
 だが既に五騎が召喚され、霊基に重ねられている。
 六騎目であれば、もう遠慮をする必要はない。
「行こう!二人一緒に強化しよう!」



 その日、ついにサバージオスは完全な分離に成功したのである。





title:鏡合わせの挑戦者





 果たして、分離は実行に移され成功した。
 と言っても単純な話だ。未使用の霊基に強化を施し、サバージオスの意識を乗り移らせるだけだったのだから。

 だが、一つの霊基に二つの意識を宿した英霊が別々に分かれて活動するなど前例がほとんどなかったので、技術部は慎重だった。
 分離に成功した後、サバージオスは様々な検査を経て霊基に異常がないかを入念に確認された。その後「問題ないね!」という太鼓判と共に、自由の身になった。
 聞けば「サバージオスが元々のオデュッセウスの霊基へ戻るのだっていつでもできるし、逆にオデュッセウスがこっちの霊基へ移動するのも問題なくできる筈だよ」という話だった。
(意気込みのわりに簡単すぎて拍子抜けしたな)
 一通りの検査が終わってアイギスを身に纏った後、サバージオスはすぐさま、別室に控えていたオデュッセウスと引き合わされた。
「サバージオス!サバージオスなんだな!!」
 それを出迎えたオデュッセウスの喜び様といったら上機嫌なゴールデンレトリバーの様だった。
 パァッと明るく輝く様な笑顔を浮かべて近づくオデュッセウスを前に、サバージオスは苦笑する。
「ああ、俺だ」
「こうやって向かい合って話せる日が来るなんて!」
 オデュッセウスがサバージオスの両肩へ触れる。存在を確かめる様に二回手の平で触れて、オデュッセウスは「うんうん」と頷いた。
 サバージオスは接触を受け入れて、こちらも喜びを滲ませた声で語った。
「俺もだ、少し信じられん。俺にとってはあの特異点で別のお前と戦って以来だから、あまりにも久しぶりすぎる」
 同じ体格、同じ声しかし、明確に異なる意思を持つ二人が向かい合って話す様というのは、まるでよく似た兄弟が語らっているかの様であった。傍から見ていると、長らく引き離された兄弟が感動の再会に浸っているかの様にも見えるその様子を遠巻きに眺めていたダ・ヴィンチと技術班のスタッフは、いい仕事をしたと満足してうんうんと頷いた。
「サバージオス、お前と分離したらやってみたい事が沢山あってだな。
 その内の一つなんだがお前と握手してみたいと思ってたんだ」
 そういいながら、スッと右手を出すオデュッセウスへ。
「お安い御用だ」
 躊躇なく、サバージオスは己の神体である右手を差し出した。
 二人はがっちりと手を取り合い、これまで肩を並べてきた戦友と喜びを分かち合った。
「これからもよろしくな、サバージオス」
「無論だ。ここまでやってきたんだ、最後まで付き合うさ」
 二人は人理修復の最初の方からずっと一緒に走ってきたのだ。
 サバージオスは加入時には「すぐ退去する事になるだろう」と腹をくくっていたのだがどうやらまだまだ付き合いは続きそうだ。
 見守ってきた人間達を途中で放り出すつもりなど、サバージオスにはなかった。
 カルデアの善き人間達は、神として守るべき価値のある連中だ。逆境の中でも使命の為に足掻き、前を向く。サバージオスという神にとってこれほど好ましい連中はいない。
 特にマスターはその最たる存在だ。
 関わって責任を負った以上、サバージオスは最後までカルデアの旅路に付き添うつもりだ。
「それから、そうだな。次にやってみたい事なんだが



 オデュッセウスははにかみながら言った。
「俺と戦ってくれ」



 まるで世間話みたいな声音でサラッと語られた希望。
ほう?」
 サバージオスは一瞬虚を突かれたが、その提案には強く興味を惹かれた。
 オデュッセウスの表情が真剣みを帯び、戦士のそれへと切り替わってゆく。
「一度やってみたかったんだ。サバージオスと俺が戦った時どうなるのか?
 だって、俺達はずっと一緒に戦ってきたが、正面を切って戦った事はない」
「ここにいるお前とは、そうだな」
 サバージオスは一度、特異点で召喚された直後のオデュッセウスと戦った事がある。
 オデュッセウスは「だからだ」と続けて語る。
「俺は、特異点の俺が羨ましかった。
 お前の実力は内側から見ているからよく知っているが実際に相対したらどんな風になるのかと、想像した事もある」
 そして真剣な表情で目だけは好奇心にキラキラと少年の様に輝かせて、言うのだ。
「もっともよく知る相手だからこそ、ずっと背中合わせに戦ってきた相手だからこそ、向かい合ってみたかった。
 頼めるか?サバージオス」
「いいだろう。
 他ならぬお前が望むのならば付き合おう」
 サバージオスは重々しく頷いた。
 オデュセウスの考えはよくわかる。試してみたい、挑戦してみたい。あくなき向上心を持つ戦士ならば誰だって覚える感覚だ。
 特に、良く知る相手ならばなおさら戦ってみたくもなるだろう。
 サバージオスは加えて、かつての戦いの蟠りを口にした。
「それに俺だってあの時の決着をつけたいからな」
「特異点の俺との戦いか?」
「そうだ。あの時は決着をつける前にマスター達が到着した。召喚されたばかりだと言うのに瞬時に対応しているお前は強かったぞ。
 だからだな、つまり俺はお前の戦い方を知っている。
 小手先の技は通用しない、単純な先読みも通用しない、そのつもりで全力でかかって来るがいい」
 オデュッセウスは再び笑みを浮かべて喜んだ。
「ああ!望む所だ!」
 二人の燃え立つ戦士は闘争心を燃やして対峙した。