《美術館デート》→《紅葉を見にドライブデート》
朝晩の気温がぐっと下がり日中の風も涼しく感じられるようになった頃。ソファでクッションを抱きしめ朝食を待つ沢北が何かを思い出したように立ち上がり、ハンガーに掛けられたジャケットのポケットを探る。
「どうした?」
「昨日、何かのチケットもらったんすよね」
「何かって」
曖昧な沢北にフッと息をこぼした松本はトーストにバターを塗る。
「え〜何これ。知らない人なんだけど〜」
詳細を確認した沢北ががくりと肩を落とす。それは美術館のチケットでそこに記されていたのは沢北の知らない画家の名前だった。
松本はコーヒーを注いだカップとトーストを乗せた皿を運び「できたぞ」と声をかけた。
「これっす」
「
………行く、のか?」
どうやら松本も興味がないようで訊ねる言葉がたどたどしい。
「これくれたの仕事関係の人だったから
…」
沢北はバスケ選手として活躍する一方、メディアなどの仕事もそれなりにあり、その繋がりからこうして物を貰うことが多いのだ。
「行かないわけにはいかねぇやつだな
…」
芸術にはとんと疎く気が進まないものの行くと決めたのは、松本が極めて真面目な性格であることも理由であったが、何よりこれが沢北とのデートとなるからだった。
朝食を食べながら、行ってみれば良さがわかるかもしれないとそんな話をした。沢北も松本とならどこだって楽しいとふたりで家を出た。
招待券を使用して一周した館内。外へ出て顔を見合わせ思わず笑ってしまったのは、その良さが全くといっていいほどわからなかったからだ。
「ふ、はははっ!」
「あははっ。マジでわかんなかったっす!オレが描いた方が上手くないっすか?」
何とも画家に失礼な物言いであったが松本も「あれが芸術ってやつなんだろうな」と否定はしなかった。
当初の目的を終えた今、乗り込んだ車内で沢北の頭に浮かんだのは帰るという選択肢。だがまだ帰りたくない沢北は拗ねた素振りを見せる。
「せっかくのデートなのに家出てからまだ1時間ぐらいしか経ってないじゃん
…」
「あ?せっかく出てきたのに帰るわけねぇだろ」
口元を綻ばせた松本は助手席に座る沢北に覆いかぶさり静かに唇を重ねた。
◇
走らせた車が都心から離れ、目の前に広がる景色が紅やオレンジで彩られていく。先ほど見た額の中の絵よりもよっぽど芸術的だなと沢北はそんなことを思った。すると同じタイミングで「こっちの方が芸術っぽいな」なんて言うもんだから、「以心伝心てやつですね!」と表情を崩した。ハンドルを握り直した松本は「実はな、」と口を開く。
「どうしました?」
帰るわけがないと強く言ったものの行き先が決まっているわけではなく、松本がすまなさそうに眉を下げた。
「じゃあドライブデートっすね!」
「いつもと変わんねぇじゃねぇか」
「ダメなんすか?オレは松本さんとならどこでも楽しいって言いましたよ。まぁ
…美術館は
…あれでしたけど
…」
「ははっ。そうだったな」
「しかも紅葉が見頃で綺麗だし」
瞳をキラキラさせながら窓の外を眺めている沢北は存外風流人なのかもしれない。美術館に展示された絵画には通じなかったが
…。
「これって紅葉狩りっていうんですっけ?花見失敗だったから嬉しいっす」
それは半年ほど前の話。職場の花見から帰宅した松本を誘い夜桜を見に出かけたのだ。だが桜はほとんど咲いておらず、そのせいで喧嘩になった。最終的に仲直りをし翌週に持ち越した。けれどその後激しく降った雨のせいで翌週、桜はすべて散ってしまっていた。その結果花見はできなかったのだ。
「そういやそんなこともあったな」
「あの時すげぇ寒かったのに松本さんってば上着貸してくんなかったし」
「そうだったか?」
しらばっくれてはいるが沢北との出来事は、沢北が思っている以上にきちんと覚えている。もちろん教えてやるつもりは毛頭ないが。
「そうっすよ!今回は貸してくださいよ?」
「車だからいらねぇだろ」
「いや、車降りて紅葉狩りしましょーよ!」
「それは構わねぇけど、なら後ろに積んである自分の上着着ろよ」
「はぁ⁉全然優しくねーじゃん!」
「優しくねぇとモテないんだったか?」
口の端を上げて意地悪な笑みを湛えた松本が軽く沢北に視線だけをよこす。
「そーっすよ。オレにモテたいなら優しくしてください」
「そうだな。帰ったら存分に優しくしてやるよ」
伸ばした手で沢北の頬に触れ、先ほど重ねた唇をそっと指でなぞった。
あとがき
テーマ『美術館デート』と『紅葉を見にドライブデート』を合わせて
このふたりは美術とか疎そうだなと思った結果がこれでした
花見の話はこちら↓
https://privatter.me/page/68c209d072299
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