荻谷
2025-09-17 04:13:02
21453文字
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薄暗い部屋から

モブ主人公がひょんなことから大吾さんと会うことになり、好きになっちゃうけど、峯と大吾さんの愛を見せつけられるNTRのお話です☝️峯はお笑いが好きそうという個人の偏見を練りこみまくっています。



♢

 駅前の喫煙所は、初めて会った日と同じように人で溢れていた。
 大吾は端の方に場所を確保し、煙草を口に咥える。あの時と同じ慣れた仕草で煙草に火をつけ、俺に蓋を開けたままの煙草の箱を差し出した。
 「大丈夫」
 断るのを予測していたみたいに、煙草をポケットにしまい込む。
 薄い煙に包まれた大吾の横顔は、相変わらずどこか遠くを見つめていた。
「き、きりんさんって峯さんの事だったんですね。俺、てっきり、大吾のことかと思ってて」
 俺の言葉に、大吾の肩が僅かに震えた。煙草を口から離し、その場に灰を落とす。
「ああ、そうなんだ」
 言葉の後に続く沈黙が重い。周囲の喧騒が却って静寂を際立たせた。
「あいつが毎晩お前のブログばっかり読んでてさ」
 大吾の声は普段よりも低く、どこか苦しそうだった。
「一人でブログ読んでる時の方が俺に話すよりすげぇ楽しそうで、滅多に人と会いたがらねぇのに、ネットの人と会うなんて言い出すし」
 一息で吐き捨て、煙草を深く吸い込む。一瞬の沈黙の間に俺は今までの全てを悟り、言葉を失った。目の前がグラグラと揺れ、表情すら見えない。大吾は乱暴に煙草を踏み消し、俺と目を合わせた。
 「弄ぶような真似して悪かったな。……俺、あいつの恋人なんだ」
 頬を赤らめ照れくさそうに告げる目の奥は嬉しそうに歪んでいる。
 その言葉は、俺の胸に鋭く突き刺さった。目の前が真っ暗になるような衝撃に、息ができなくなる。
「あいつとお笑い見に行った時、客が女ばっかだったから、開幕二軍がどんなやつなのか確かめたくて、代わりに俺が来たんだ」
 そこまで告げ、大吾は初めて真っ直ぐ俺を見つめた。黒々とした瞳はあの日と同じく輝いている。
「お前があいつを奪うようなやつじゃなくて、安心した。だからこれからも峯と──」
 言葉の途中で、大吾の表情がぱっと変わった。釣られて振り返ると、峯が駆け寄ってくるのが見えた。
「大吾さん!」
 険しかった峯の顔が大吾を見つけた瞬間輝く。まるで世界で一番大切なものを見つけたような、そんな表情だった。
 「お待たせしてしまってすみません」
 峯は自然に大吾の隣に回り、俺から引き剥がすみたいに腰を抱き寄せる。彼の眼中に俺は一ミリも映っていない。満更でもない顔で受け入れる大吾と彼の間には、長年培われた親密さを感じさせた。
 「全然。峯の方こそお疲れ」
 峯を見つめ返す大吾の表情は穏やかで満たされている。目尻が下がり、口元には俺に向けられることのない笑顔が浮かんでいた。
 温かく、優しく、確かな絆。
 「俺、もう帰ります!!」
 呼びかける声に一切耳を貸さず、そのまま走り抜ける。無我夢中で走り続け、改札前でようやく足を止めた。しかし、二人の姿は見えなかった。
 
 家に帰ってからも、胸の奥がずきずきと痛んだ。
 あの時の峯の表情が焼き付いて離れない。大吾を見つけた時の、世界が輝いて見えるような笑顔。俺もきっと大吾と出会った時、あんな顔をしていたんだ。違うのは、大吾が向ける表情だけ。
 俺に一途で、優しくて、スタイルのいい美人がある日突然現れて、そのまま俺に無条件で惚れてくれて……
 そんな都合のいい妄想ばかり膨らませていた。現実は甘くない。当たり前のことが、俺には分からなかった。
 パソコンの前に座り、ブログを開く。いつものように、何かを書きたくなった。今日の出来事を、この気持ちを、言葉にしておきたかった。
 文章を考えるなんて、そんなことはしない。思いの丈を感情のままに書き連ねる。
 いつもより圧倒的に早く書き上がったそれを推敲もせず投稿した。
 見上げる天井はいつもより低く感じる。
 俺は本当に彼が、大吾のことが好きだったんだ。嘘でも遊びでも初恋だった。
 涙が溢れそうで、俺はその場から動けなかった。
 やがて、一つの通知が届く。
 そこには、見慣れた灰色の初期アイコンが浮かんでいた。
 きっと今晩彼らは俺をダシに熱い夜を過ごすのだろう。いや、そうに決まっている。
 大吾は峯に手荒く抱かれることも受け入れ、歓びに身を震わせ、俺の前で見せることのなかった表情で乱れるのだ。
 あの男の勝ち誇ったような笑みが画面越しに浮かぶ。
 「なんだよ、性格悪いな。あいつ……だから友達出来ねぇんだよ」
 誰に聞かせるでもなく投げやりに吐き捨てる。それでも、俺はたった一つのいいねを憎むことが出来なかった。