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荻谷
2025-09-17 04:13:02
21453文字
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薄暗い部屋から
モブ主人公がひょんなことから大吾さんと会うことになり、好きになっちゃうけど、峯と大吾さんの愛を見せつけられるNTRのお話です☝️峯はお笑いが好きそうという個人の偏見を練りこみまくっています。
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♢
鮮やかに色付き出した世界は、夜が更けるほどに色濃く輝き始めた。
薄暗い店内に常時流されているサッカーの試合だけが不自然なほど眩しい。試合が盛り上がれどしらけていれど関係なく騒がしい店内は、安価で世界各国のビールを飲める俺のお気に入りの店だった。いや、お気に入りは少しいいすぎている。居酒屋以外も知っているのだと、大吾の前でかっこつけたかっただけだ。
ビールは苦手だと最初は渋い顔をしていた彼も、お気に召すものがあったようで今では機嫌良く酒を煽っている。
店を変えてからも、俺と大吾は様々な話で盛り上がった。お笑いから、映画に本の話、どんな話題を振っても反応が返ってくる聡明さにますます惹かれていく。心底楽しそうに話を聞いてくれる大吾に自然と口数が増していた。
「よく喋るんだな」
何気なく呟かれた言葉に俺は口を噤んだ。スムーズに発していた言葉が急に喉につっかえる。
「ごめん、つまんない
……
ですよね」
こんな嫌味を言う人ではないということはこの短時間でも分かっている。それでも俺の捻くれた心は悪く捉える以外の方法を知らなかった。
「違うんだ、そういうとこも似てると思ってさ」
不意に浮かべた柔らかい微笑みに、また世界が輝きを増す。上がった体温を下げるように俺はグラスに口付けた。
随分減った中身を、大吾の目が追う。好奇心を隠さないその瞳にふと笑みが漏れた。目は口ほどに物を言うとはまさにこの事だろう。
「一口飲む?」
大吾の前にグラスを差し出せば、目を丸めた。自分の前に来たグラスに触れながら、遠慮がちに見開かれた瞳を瞬かせる。
「いいの?」
俺が首を縦に振ると、今度は迷うことなくグラスに口付けた。隆起した喉仏が小気味よく動くさまを見つめる。ふわりと心が軽くなる感覚に、これが幸せなのだと三十路にして初めて気づいた。
「うま!次これ頼もうかな」
幾分か甘くなった滑舌で無邪気に笑う。
「ありがとう!」
俺の方へとグラスを差し向ける大吾の指先が透明な輪郭を撫でながら離れていった。綺麗に整えられた爪先に水滴が付き、それからしなやかな指を濡らす。
その指に触れたい、と言ったら彼は嫌がるだろうか。バレないよう慎重に手を伸ばしていると、携帯がけたたましく鳴り続けていることに気がついた。大吾の手に伸ばしていた手の行先を机の隅で震え続ける携帯へと変える。
指を絡め取られ、熱い掌がぴったりと密着した。触れ合った先から溶けてしまいそうな体温に、息を飲む。じっとりと伏せられた瞼から半分だけ覗く瞳は潤んでいた。
「そばにいる俺より携帯?」
アルコールに解けた大吾の目の中に、だらしない顔の俺が浮かぶ。
「もう見ないよ」
観念したようにいえば、鼻から息を漏らし笑った。絡み合う指先の力を僅かに強めるも、大吾の手は俺の手からするりと抜け出していく。
気まぐれに触れては離れていく温度を未練がましく目で追いかける。強引に引き寄せる勇気は今の俺にはまだなかった。
何かを察したように大吾は片眉を上げ、自身のグラスを俺の前に差し出す。
「俺のもやるよ」
「えっ?!」
あまりの衝撃に声が裏返る。
これは、創作の世界だけでしか見たことがない幻の間接キスなるものではなかろうか!
グラスに残った唇の跡と磨き上げられたグラスを伝う白い泡を、挙動が定まらない瞳で注視する。
「いらない?」
「いります!!」
答えた勢いのままグラスを手に取り、一口含む。喉越しを堪能する間もなく、嚥下し、袖で雑に口を拭った。
「あ!これも、美味しいね!俺も次これにしよっかなあ」
本当は味なんて何もわからなかった。なんだか、甘い味がしたような気がする。
「ありがとう」
ぎこちなくグラスを返した俺を、大吾は息だけで笑い、頭に手を伸ばした。
「可愛いな」
雑な手付きで撫でられる。初めての感覚に俺はただただ黙って俯くしかなかった。
♢
いつになく頭がふわふわとして、地を歩いている実感がない。酒と恋の熱に浮かされた俺は、傍から見れば人の形をしていないだろう。
道に溢れていた人の姿はめっきり減り、代わりに酩酊した人々の姿が見える。ふと時計を見れば、もうすぐ〇時を回ろうとしていた。
「あ、終電
……
大丈夫?」
「終電
……
」
大吾は噛み砕くように俺の言葉を反復する。あまりピンときていない様子に、あれだけ飲めば当然か、と俺は一人納得した。商店街の奥に、妖しいネオンが光っているのが見える。誘うように揺らめく光と隣で煙草を燻らせる大吾の顔を交互に見てから、俺は意を決して口を開いた。
「あ、あのさ、俺んち近いんだけど
……
来ない?」
「え
……
」
煙に巻かれ、彼の表情は良く見えない。それが良かったと今は心底思う。ホテルに誘う勇気も、顔を見る心意気も俺にはなかった。
「あ、いや、その、で、DVD!DVD、まだ貸してないし、ってか、俺んちで見てもいいし!」
早口で捲し立てるように言い訳を紡ぐ。酸欠で頭に血が登り、緊張で上がった心拍がうるさい。
「じゃあ、行く」
目を伏せたまま、大吾が口元だけを緩める。婀娜っぽい表情を前に、安堵よりも先に顔の熱が下半身に移った。
まだ残っているように見える煙草を地面に落とし、踏み消す。未だ呆然とする俺の腕を取り、彼はゆっくりと歩き始めた。
「ほら、早く行こうぜ」
引かれるがままタクシーへと乗り込む。手短に住所を告げると、車は静かに走り出した。
街の喧騒が嘘のように、静かな車内には呼吸音のみが響く。重なる音に、今この場に俺は一人ではないのだと確かに実感した。ドアに肘を付き、流れる街並みを退屈そうに眺める大吾の横顔を盗み見る。
長い睫毛が白くなだらかな頬に影を落とし、街の光を反射して瞳が煌めく。人間味を感じさせない冷たい表情の中でも色付いた唇と頬から確かに血が通った人間なのだとわかった。
俺の目に写る、否、包み隠されたものも含め、彼の全てが、今から俺のものになる。想像だけでも果ててしまいそうなほどの興奮に、俺はうっとりと溺れた。
「なに?」
視線だけが俺に向けられる。心の内を見透かす冷たい目付きに、ぎくりと釘を打たれたような気持ちになる。
「な、なんでもない」
逃げるように顔を窓へと向ける。しばらく俺を捕らえていた視線が消え、俺はまた彼の横顔に目を向けた。
初めてが男でもなんでもいい。俺はこの人が、大吾さんが、好きだ!
逸る気持ちとともに、俺は大きく息を吐いた。
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