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荻谷
2025-09-17 04:13:02
21453文字
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薄暗い部屋から
モブ主人公がひょんなことから大吾さんと会うことになり、好きになっちゃうけど、峯と大吾さんの愛を見せつけられるNTRのお話です☝️峯はお笑いが好きそうという個人の偏見を練りこみまくっています。
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一K六畳の薄暗い部屋に、三二インチの光がぼんやりと灯る。
床には脱ぎ捨てられた服と空きペットボトルが散乱し、少し埃っぽい。壁一面に設置された本棚に敷き詰められた本とDVDボックスだけが、この部屋には不自然なほど綺麗に保管されていた。
己の呼吸音だけが木霊する部屋の中に、一定のペースで打鍵音が響く。目にかかる鬱陶しい前髪をかき上げれば、ブルーライトの光が疲れた目に染みた。最後の一文を打ち込み、深く息を吐く。
「あー」
小さく声を漏らしながらそのまま床に倒れ込んだ。メガネのつるが床に当たり、僅かに浮く。それを雑に投げ捨て、ごろりと寝返りを打った。側に放置していた携帯を手に取り、なんとなくSNSを開く。
社会の荒波に揉まれ、心身ともに疲弊した俺を癒してくれる彼女の一人でもいればいいのに、現実とはなんとも厳しいものである。
この世に生を受け、早三〇年。俺は彼女どころか、まともな恋愛すらしたことがなかった。
学生の頃は、まだ淡い夢を見ていた。こんな俺にも、いつか巨乳で優しくて可愛くて俺に一途で、誰もが羨むような彼女ができるその日を。
しかし、そんな日が訪れることはなく、先日俺は晴れて魔法使いの一員になったというわけである。
ネットに流れるリア充のキラキラした投稿にフォロワーよりもフォローの方が多いアカウントで妬み嫉みをぶつけ、冷たい弁当やカップラーメンを食べる日々。
正直、見た目は悪くない方だと思う。
平均より背も高いし、顔だって、今どきの女の子が好きなあっさりとした顔立ちだ。肌だって、髪だって、人並みには気を遣っている。いつだったか、友人に連れられて行ったコンカフェの女の子に、かっこいいと言われたこともある。
もう連絡すら取らなくなった友人の姿を朧げに回想し、俺はまた溜め息を吐いた。体を起こし、もう一度パソコンの画面と向き合う。
五千字程度の長文に軽く目を通し、推敲をしていく。今回は自分でもなかなかうまく書けているのではないか、と不気味に笑った。画面を埋め尽くす文字の羅列の一つ一つには、俺の魂が籠っている。今回は、ずっと応援している芸人の幻のネタを収録したDVDボックスについて語っている分、特にだ。
エンターキーを高らかに鳴らし、渾身の力作を、ネットの海に放流する。
死んでいるも同然の人生でも、寂しくはないのは、回線を通してそばにいてくれる仲間と、趣味があるからだ。
趣味のことや平凡な日々に対する鬱憤を書き連ねるだけのブログを始めたのは、二年前になる。誰もが羨むような文才があるわけでも、目を引くようなコンテンツ力があるわけでもない。ただ、そんな俺にも毎回反応をくれるファンはいる。ほとんど自己満足だが、ほんの少しだけそのファンのために俺はブログを更新し続けていると言っても過言ではない。
投稿して数分のうちに、一つの通知がついた。ひとつのコメントといいねに胸が踊る。
無機質な初期アイコンに、特に捻ったわけでもないであろう「きりん」というハンドルネーム。彼女だけが、欠かさず俺の投稿に反応をくれていた。
「本当にその通りだと思います。最後の賞レースに向けて鍛え上げられたキレのある漫才が──」
俺の投稿と同じだけの熱量が込められたコメントに、うんうんと相槌を打つ。
お笑いが好きな女は多いが、ここまで熱心な女は珍しい。論理立てられた文の中身は毎回的を射るもので、冷静ながら熱のこもった口調は顔よりも中身を見る真のお笑い好きだとすぐに分かった。
それに、丁寧な文章と私という一人称。顔も声も見たことはないが、きっと相当な美人だと俺は信じている。一度会って話をしてみたいと思ったことは、何度もある。
それは、彼女への好奇心もあるが、きっかけさえあれば、俺も変われるのだと自分に証明してみたいからだ。
そう思っていた矢先に、奇跡のような偶然が俺に起こった。
「そのDVDだけ見たことなくて、見てみたいんですよね」
最後の一文を何度も読み返す。
俺が持っている限定物のDVDを見てみたい。つまり、これは、彼女の方から会いたいと誘ってきているのではないだろうか。間違いない。彼女も俺に会いたいと思ってくれていたのだ!
全てを都合良く咀嚼し、飢えた性欲に流し込む。
奥ゆかしい彼女のために俺は勇気を振り絞って、マウスを握りしめた。丸い灰色のアイコンをクリックし、名前の横に設置された簡素なメールのアイコンにカーソルを合わせる。メッセージ欄を前に目の奥に力が入り、脂汗がじわりと滲んだ。意を決して文面を打ち込む。
「よければDVD貸しますよ。会いませんか」
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