和泉 小夜
2021-10-22 03:48:53
3577文字
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深海へ沈む


数日後、光忠さんが何処からか帰って来て、貞宗くんと名前を呼ばれた。
嗚呼、記憶を全て思い出して終ったんだろうなと察して終った。
長谷部さんがどうやって記憶を取り戻したかも、何となく分かった。
でも、知りたくないから何も分からない振りをした。

今迄お世話になりましたと、長谷部くんと一緒に帰るねと。
あの優しい笑顔で、彼の名前を呼ぶ。もう、俺とした約束など忘れて。
彼の時に長谷部さんを棄てたように、今度は俺を棄てていく。

「そっか。どうか息災で。お元気で。」

涙を堪えて、笑顔で送り出す。
せめて最後に手を繋ごうとしたが、それとなく逃げられた。
嗚呼、本当に俺のこと、本当に愛してないんだ。
最後に『きみも早く新しい恋人を見付けた方が良いよ。』だなんて。なんて残酷なんだろう。
俺は全部、貴方が初めてだったのに。キスだってセックスだって貴方しか知らない。
貴方だって『僕だけを愛してね。』と、言っていたじゃないか。
だから俺は貴方しか愛していないのに。

住んでいる場所も教えてもらえなかった。どうして。何で。
たった一時とは言え、貴方と俺は恋仲だったじゃないか。
貴方は俺に、貴方以外誰も愛せない呪いだけをかけて去っていくのね。