和泉 小夜
2021-10-22 03:48:53
3577文字
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深海へ沈む


先日、海嘯があった。観光客が来るのは常だが、今回は大きかったらしくて。
複数の人間が流されて終ったらしい。生死も行方も不明扱いの人間がまだ幾人も居る。
こういう時、人魚姫だったら王子様が流れ着いているのだろうかと考えて浜辺を歩いていると。
俺と同じ国籍であろう人間が、浜辺に倒れていた。恐らくは例の観光客の一人だろうか。

取り敢えず拾って、世話をする。財布が有ったので拝借をして、身分証を確認する。
長船光忠、04月20日生まれの26歳。恋仲であろう男との写真が入っている。
光忠さんは数日後に目が覚めたが記憶喪失らしかった。
病院にもかかれないらしく、うちで面倒を見ることにした。義弟からは散々言われたが無視をする。
名前を聞かれたので、今の苗字と孤児院で適当に付けられた名前と年齢を名乗る。

「相州貞宗、19歳だ。宜しくね、光忠さん。」

俺が光忠さんの世話をしていたからか、光忠さんは俺に懐いて呉れた。
大型犬みたいで可愛いな、なんて思っていたら。恋仲になって欲しいと告白をされた。
故郷に恋仲が居るかもじゃん、だから無理。なんて、一線を引く。
しかし、光忠さんは記憶喪失だから恋仲が居ることを覚えていないのだ。
異国で心細いなか、甲斐甲斐しく世話をしてくれる奴が居たら惚れるのも無理はない。
迂闊だった、誤算だった。俺も一目惚れなのだ。だから傷付きたくない。

「何が遭っても、俺と一緒に居て呉れる?」
「昔の恋仲も捨てて、俺の傍に居て呉れる?」

勿論だよ、と笑顔で答える彼が迚も怖い。故郷で待っている恋仲を容易く棄てられる彼なのだ。
彼の記憶が戻ったら、俺も容易く彼に棄てられて終うだろう。嫌だ、もう棄てられたくない。