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雨宮水月
2025-08-03 09:15:55
11523文字
Public
企画
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第3回 誰の文章だゲーム 三題噺編
参加者7名の中で、どの作品を誰が書いたのか当ててみよう!
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【作品B】
手にはめた白手袋を見下ろす。ホームセンターで十組二百円程度で買えてしまう、ありふれた真っ新な軍手だ。光を浴びると目が少し痛いと思うくらいに白い手を覆う布の袋は、白手袋と呼んでも差し支えないだろう。それを汚そうと決意した。
何かを汚してしまう時、いつも躊躇いが出る。使えば汚れるのは当たり前というのはよくわかった上で、躊躇いはしっかりと意識の中に根を張っていた。だが、汚すと決めたのだ。躊躇いの根を引きちぎって、泥の中に手を突っ込んだ。意味はなかった。敢えて言うなら目の前に泥があって、白手袋を汚したかったから。
物を汚すという行為はいけないことで、回避できる術があるならそれを全力ですべきだという切迫を持っている。だから、泥に沈んだ白を見て胸の中に芽生えたのは、綺麗なものを汚してしまったという後悔や罪悪感と、それらを払拭して余りある清々しさと愉快さだった。せいせいするほどの、衝動的な決意と行動だった。
少し前、車で東京ディズニーランドへ遊びに行った。東名高速道路を利用した最短ルートの途中、東名高速道路上り線最後のサービスエリアである海老名に立ち寄った。首都高に入る前の最後のトイレ休憩として立ち寄るのがお決まりなのだ。
朝五時に家を出て、着いたのは七時台だった。そこで空のペットボトルを捨て、用を足し、車に戻った。渋滞に捕まらなければ一時間少々で到着だろうか、ラジオの交通情報を聞いておこう、今日はどうやって過ごそうか、ファストパスはどこから並ぼうか、眠気対策に口の中でキャンディーを転がしつつそんなことを考えながらドアを開けた直後、不意に風が強めに吹いて、思わず動きを止めて顔を伏せた。
風が止み、顔を上げた時に、思わずあっと声が出た。
夜明けの空の中に、昇ったばかりの太陽が見えた。何の変哲もない朝の景色の中で、太陽のまるい形が何故かくっきりと見えていた。どうしてこんなにはっきりと見えているのかはわからなかった。分からなくていいと思った。メカニズムがわかってしまうことほど、今この場においてナンセンスなことはないのだと考えていた。単純に混じり気なく綺麗だと思ったから、その綺麗さの理由を知りたくなかった。
太陽を見て呆然としていたとき、口の中で小さくなっていたキャンディーが喉に滑り込んで思わず咽せた。そんな些細が、何故か面白くて堪らなかった。
その瞬間から妙にスッキリしてしまった。だからその日は只管にトゥーンタウンで遊びまわり、トム・ソーヤ島を冒険し尽くし、何の衒いもなくはしゃいだ。そのはしゃぎ様は、パークの中に溶け込んだ当たり前だった。子供のように遊び倒すことは、普通だった。
躓いてしまう石がないか、地面を見つめて人生を歩いている。不要なトラブルを避けるため、痛い目を見ないため、障害物を探して避ける。目の前に薄氷があると気づけば迂回して通る。それは悪いことではなく、生きていく上で必要なスキルだ。
気がつけば身についたそれを、無意識に使って生きている。だからたまに、薄氷を気にせず踏んづけて間抜けに落ちていった過去の自分を思い出して考える。あの無邪気さはどこへいってしまったのか、こんなにつまらないものに自分はなったのか、と。
まあでも、大人になるって悪くないなと思う。
まるい太陽を見たこと。キャンディーで咽せたこと。薄氷なんか気にせず走り回ったこと。白手袋を意味もなく汚したこと。たったそれだけで遠ざかったあの頃に気づき、今に至る道筋を振り返れる。道筋の厚みはこの先も増していく。これは大人だから得られるのだから、成長というのも悪くない。
あーあ、大人になって良かった!
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