雨宮水月
2025-08-03 09:15:55
11523文字
Public 企画
 

第3回 誰の文章だゲーム 三題噺編

参加者7名の中で、どの作品を誰が書いたのか当ててみよう!



【作品A】

あの執事の慌てふためく顔が見たい。
暇を持て余した大きな館の小さな主はフラワーガーデンに咲き乱れる花の手入れを行うターゲットを眺めながらそんなことを考えていた。
我が家自慢の執事は減多なことで表情を崩さない。たとえ自分(主)が誘拐されようと飄々とした姿で迎えに来る。まるで機械だ。
一方自身が標的になっていることなど露ほども知らぬ執事は、痛んだバラを摘み、今晩のテーブルを彩るゲストとして丁重に扱っている。ゲストの剪定が終わったところで作業机の上に置いてある工具箱の一辺に身に付けていた白手袋を二つ重ねて置き館の中へと入っていく。
主が駆け足で作業机へ向かえば綺麗に使われている名前の刺繍入り白手袋が陽光に照らされ輝いている。
自分が執事に与えたものだが、大事に使われているのが一目で分かりなんだか自分も誇らしくなる。
そんな白手袋を眺め三秒、イタズラのテンプレートだが、一つ思いついた。

ゲストの席を用意し再び花園へ戻ってきた執事は自身の所有物がなくなっていることに気付く。
しかし、慌てる素振りを見せることなくゆっくりと辺りを見渡す。
庭師によって美しい姿を保ち続ける広大なフラワーガーデンは先程と同じ様子で変化などない。一点を除いて。
辺り一辺の確認を終えると、執事は両の眼を閉じ草木の葉ずれの音を聞き始める。
風がそよそよとけば、ざわざわと葉と葉がこすれ合い音が世界に溢れ出す。小鳥達の囁き声は「かくれんぼの鬼はあなた」と主人からの言伝を伝えてくれる。
人間はこの時間、館内の掃除や夕餉の買い出しに出ており見える範囲に人影はない。パキリ、と枝の命が散る音を耳にした執事は瞼のカーテンを開き目に入る鮮やかな情報を無視し、薔薇のアーチを潜っていく。
館と外の世界を区切る雑木林まで来た執事は他の樹になど目もくれず、一本の大樹へと向かう。
大樹はこの館の最年長であり、最も視界が開けている大樹の上は庭を一望するのに最適。これは館に居る者が皆知っていて、また、館を守るために警戒すべき場所のひとつでもあることを従者達は教えられている。あの執事に。
知識はあれど警戒心の無い子供が選ぶ場所にはうってつけだ。
執事は地面に落ちている新蘇な遺体(枝)をわざと誇み付け、蹂躙することで己の存在を覚知させる。
上を見上げる。二つのキャンディーのような丸い目と、薄水の笑みを浮かべることで顕になった二つの三日月が視線を混じ合わせるのは必然であった。

*

翌日、まだ痛む自身のお尻をさすりながら、小さな主は悔しげな顔でアフタヌーンティーのセットをフラワーガーデンに用意する白手袋を身に着けた執事を見つめていた。昨日はこってりと絞られ、世の言う教育的に反する尻叩きをたっぷりと味わった。この館では痛みで学ぶことが常識なので問題ない。
昨日も結局あのポーカーフェイスが崩れることもなければ、自分に迷惑をかけたことへの躾、ではなくあの樹に登ったことを叱られた。何とも不可解である。
何であれ今日はまた今日の暇潰しを考えなければならない。主とは常に思考を張り巡らすものであるからだ。
言い訳を自分の脳内で並べた鬱憤を晴らしたい主が顰めっ面でいれば執事の元にメイドがやってきた。
彼女は中性的な顔つきで美しい。
二人が並べばまるで二輪の花。どちらも男とも取れるし、女ともとれる。
一枚の絵画を鑑賞している気分に浸った主は絵画のキャンバスに自分の手を加えることを企む。薔薇の美しさに正解などないのだ、美しければ違和感など存在しない。

そうだ、執事とメイド、服を交換してみるのはどうだろうか。