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mishiadd
2025-07-31 22:00:32
20302文字
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PENTITO
【現パロ/フェス衣装】ヤッターーーマフィアパロが一晩のうちになぜか合法になったぞ(うっすらイケメンの自覚がありそうなイタリアマフィア幹部の宮本伊織が内部告発をするために秘密裏にイタリア縦断するのを護衛する警察官ヤマトタケル)【剣伊】
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Ⅵ.
その男は、検察側の証人として今日の法廷に立つとのことだった。
裁判所の警備員としてこの職に就いて二年目の若者にとって、その仕事はいつもと同じで、でもそれよりはほんの少しだけ彼の野次馬根性を刺激するものだった。
陪審員の心証を損なうわけにはいかない被告人ならまだしも、証人
――
しかも検察側の証人ともなれば、皆思い思いの服装で出廷するのが普通だった。その中で、男の姿は若者がこれまで職務上見かけた中でも一、二を争うほどに煌びやかであり
――
そして同時に、一、二を争うほどの『正装』であると言えた。
男は南イタリアを支配する有力なファミリーの
密告者
ペンティート
であるという話だった。
……
であるならば、一目で
そう
とわかるその出で立ち程に、男に相応しい装いもきっとなかった。
すらりと背の高い、モデルのようにプロポーションの整った男だったが、一見して東洋の血が入っていると伺えた。
腰に差した二本の日本刀は、若者にとってはアクション映画や日本のアニメで見たことがあるばかりのもので、本物をその目にするのは生まれて初めてのことだった。帯刀したまま入廷することが許されるのか
――
という疑問は、日本刀自体をファンタジーか何かの小道具であると捉えている上層部の認識により有耶無耶にされてしまったようだった。
特段誰にも咎められることなく、男は恐らくはファミリーの幹部として活動していたその頃のままの出で立ちで、法廷の扉の前に立っている。
扉を隔てた向こう側では、今日この法廷において裁かれる被告人に掛けられた罪状の説明と、検察官の弁論が既に開始されていた。
「証人として入廷を許可されたら、この扉から中に入ります。裁判長のちょうど向かいあたりに証言台がありますので、そこに立ってください」
若者の説明に、ひどく端正な顔立ちをした男は穏やかな表情のまま頷いた。
――
ファミリーの幹部というからにはさぞや恐ろしい男なのだろうと身構えていたが、実際に会ってみればそういった威圧感は一切感じられなかった。ただ、どこか凪いだような静謐な雰囲気だけがある。
やや毒気を抜かれながらも、「そろそろです、シニョール。
……
緊張されていますか?」と証人らの空気を和ませるためのいつもの言葉を口にする。それから、ふと思い直す。
――
この男はこれからファミリーを裏切ってこの証言台に立つのだ。『緊張』などとという生半可なものではないだろう。
すると、意外にも男はくすりと穏やかな笑みを零した。切れ長の眦を柔らかく細め、若者を見た。
「久しぶりに
――
随分と久方ぶりに、昨晩は
悪夢を見ずに
済んだのだ。だから、目覚めはひどくよくて
――
そう、いつもより余程気分はいいよ。貴殿の気遣い、痛み入る」
「それは
……
よかったです」
丁度その時、内側から扉が開かれた。
――
男の出番が来たようだった。
「どうぞ」と若者が扉を押さえて男を法廷へと促す。日本式なのか、軽く会釈をした男が、ゆったりとした優雅な足取りで法廷の中へと入っていく。
居並ぶ裁判官らや陪審員の他、傍聴席にはマスメディアも入っているようだった。何台もカメラが回されている中で、派手な服装の被告人がスーツ姿の弁護人の隣に座っている。法廷に入ってきた男の姿を目にしてひどく不機嫌そうな顔をしたが、その顔がみるみるうちに嘲笑うような表情に変わった。「よう、元気にしてたか」と軽口を叩いて裁判官に許可のない発言と態度を嗜められる。
「静粛に。
――
証人は前へ」
男が氏名と住所、
職業
などを述べる間、声を潜めたレポーターがカメラに向かってぼそぼそと早口に告げる。
「人身売買とそれに伴う組織的な拉致誘拐を行っていたマフィア幹部が摘発、起訴された今回の裁判において、同じ組織の幹部である男が検察側の証言台に立ちます。
――
マフィアには『
血の掟
オメルタ
』と呼ばれる、組織のメンバーに沈黙を強いる掟があり、他のメンバーの犯罪行為に気付いた場合でも、これに一切の口出しをせず、また口外しないことがルールとされています。今回出廷した証人はそのマフィアの掟を破ることになります」
「おい、このままだと証人のツラ映っちまうぞ」
カメラマンがディレクターに耳打ちした。
「生中継だ、ボカシも入れられねえ」
「別にいいだろ、構やしねえよ。
――
ありゃあ随分見た目もいい。撮れ高すげえぞ、これは」
いひひ、とほくそ笑んだディレクターに肩を竦め、カメラマンがそのままカメラを回し続ける。
美しく背筋をぴんと伸ばした姿勢で証言台の前に佇んでいる男に、検察官が尋ねる。
「証人は、被告人が人身売買とそれに伴う組織的な拉致誘拐を行っていた事実を知っていましたか」
――
返事がない。おや、と手元の書類から目線を上げた検察官が、もう一度、すっと通った高い鼻梁の男の横顔に尋ねた。
「証人は、被告人が人身売買とそれに伴う組織的な拉致誘拐を」
「今もあの子の夢を見ます」
「は、」とぽかんとした顔で検察官が尋ね返す。長い睫毛を伏せながら、静かな声で男が言った。
「毎晩、夢に見る。
――
俺のたったひとりの妹でした。血は繋がっていませんでしたが、俺には勿体ない、とてもよく出来た妹でした」
「
――
シニョール?」
おもむろに
――
あまりにも優雅なその動きに、誰も咄嗟に反応することができなかった。
まるで古武術の型のように
――
あるいは日本舞踊のように、身を捻る体幹の軸の一切のブレのないままに、穏やかな、口許にうっすらと笑みすら浮かべた表情のまま
――
男が、被告側の席に座る被告人に向かって、真っ直ぐに伸ばした右手を向けた。
――
パンパンパン、と続いて銃声が三発鳴った。
キャアアアア、という甲高い悲鳴とどよめく声の中、男が一足飛びに距離を越えて両肩を撃ち抜かれた被告人に迫る。
目にも留まらぬ速さで抜刀される二刀の日本刀が、法廷の照明の下できらりと煌めく。
恐慌する暇も与えられぬまま呆然と男を見上げている被告人を、二刀を構えた男が見下ろす。静謐な声と裏腹に、その水面に映る月夜のような瞳が煌々と底光りしていた。
「『この銃と剣によって生き、この銃と剣と共に死す』。
――
今のが銃、
これが剣
。ああ、長かった。ようやくだ。
――
カヤ。おまえに捧げる
復讐
ヴェンデッタ
をここに」
――
空を切る音と共に、血飛沫が飛び散る。
法廷の中に悲鳴が響いていた。駆けつけたパラメディックにより血の海に斃れる被告人の脈がないことはすぐに確認され、一切の抵抗を示さなかった男はその場で取り押さえられた。
その一切の様子が
、
回り続けていたカメラによってイタリア全土に中継されていた
。
◆
バールで昼食をとっていた時のことだった。
カウンターの頭上に設置されたテレビに映っていたクイズ番組が切り替わり、「臨時ニュースです」という女性キャスターの声が響いた。
ペペロンチーノを啜っていた上官がその場に立ち上がり、「おい、タケル、おい!」と怒鳴りつける。同じくパスタを啜っていたタケルが、ん、とテレビを見上げる。
「
――
証人として出廷していたマフィア幹部の男が、法廷の場で被告人を殺害する事件が起きました」
「
……
なんだって」
唖然としてタケルも立ち上がり、テレビを見上げる。ぼかしの入っていない映像には、なんの抵抗もなく軽く両手を挙げた男が警備員らによって取り押さえられる様子が映っていた。
――
その男の顔が、はっきりと画面に映る。
呆然としたまま、タケルが呟くように言った。
「イオリ」
「なんてこった」とガシガシ頭を掻いている上官の上で、キャスターが原稿を読み上げる。「現在勾留されている男は動機についての一切を黙秘しているということです」。
「おいタケル、お前道中でなんにも聞かなかったのか? なんにも気付かなかったのか。三日も四日も一緒にいて本当になんにもおかしいと思わなかったのか」
「
――
証人保護プログラムは?」
詰め寄る上官の矢継ぎ早の質問を遮るように、タケルが尋ねる。「はあ?」と一瞬呆気にとられた上官が間抜けな声を出したあと、激昂して怒鳴りつけるように言った。
「『証人』!? 『証人』だと!? あいつが一体あの場で何を証言したって!?
――
そんなもの適用されるわけがないだろう、それどころかあいつ自身が今度は被告人として法廷に立つ側だよ。外国どころか塀の中だ
――
いや、もしかしたらお仲間が保釈金だか
心付け
だか払って早々に外に出してやるのかもしれんがな。
……
あーあ、これだからやってられんよ
……
」
がたん、と乱暴に椅子に座ってずるずるとペペロンチーノの残りを掻きこみ始めた上官の横で、タケルがしばし考え込むようにして顎に触れていた。それから、再びテレビ画面を見上げる。
――
ふ、と口の端に僅かに引き攣ったような笑みが浮かんでいた。
「なんだ。やっぱり『アリーヴェデルチ』で合っていたではないか
……
」
――
テレビに映った伊織の端正な顔の流し目が、カメラ越しにこちらを見たような気がした。
PENTITO・了
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