mishiadd
2025-07-31 22:00:32
20302文字
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PENTITO

【現パロ/フェス衣装】ヤッターーーマフィアパロが一晩のうちになぜか合法になったぞ(うっすらイケメンの自覚がありそうなイタリアマフィア幹部の宮本伊織が内部告発をするために秘密裏にイタリア縦断するのを護衛する警察官ヤマトタケル)【剣伊】


Ⅲ.

翌日すぐに出立する――となると人目につく可能性があった。少しずつ、少しずつ、じわじわと――チェス盤の上で相手の目を盗みながら駒を進めるように、あるいは日本の古い遊びだるまさんがころんだのように――ファミリーの目が明後日の方を向いているうちに、少しずつ移動するのがよい。

だから、移動をするのであれば翌日の深夜か、その早朝だった。――であるならば、今日一日はヴェネツィアに滞在する。

「昨晩言っていたジェラテリアへ行ってみるか」

ホテル近隣のバールでカプチーノとヌテラのコルネットで朝食を済ませ――なんだかんだ「これはこれで美味い」と食の進んだタケルと違い、伊織の方は常々このイタリア式の朝食がやや甘過ぎるとでも思っているのか僅かに眉を顰めながらなんとか平らげていた――日が昇りエメラルド色をしている水路の脇を歩きながら、伊織が言った。

ふん、と満更でもない顔をしつつ、タケルが「きみ、足は」と端的に尋ねた。

「おかげで今朝はだいぶいいよ。――そろそろ袴と草履が恋しいが」
「そうか? 着物に比べてその足は随分動きやすそうではないか」
「最初はそう思ったのだがな。袴に比べて布地の締め付けが強過ぎてふとした瞬間に関節の自由が利かん。足も踏ん張りに違和感がある。瞬発的にはいいが、長時間となるとなかなか」

……などとはただの未熟者の言い訳か」と独り言ちるように付け足して、伊織が革靴の爪先で石畳をトントンと軽く蹴った。
伊織の数歩後ろを歩いていたタケルが、ふと立ち止まる。言った。

「イオリ。……きみ、なぜファミリーを裏切る」

うん、と伊織も立ち止まってタケルを振り返る。遠くから、観光客を乗せたゴンドラのアコーディオンが聞こえてくる。だんだんこちらに近づいてきているようだった。

「きみは――きっと、部下に慕われていたのだと思う。なぜ、彼らを裏切る」

伊織は答えなかった。ただ、興味深そうに細めた目でタケルを見遣り、それから前を向いて再び歩き出した。タケルも再び歩き出す。ぽつり、と前を向いたまま伊織が言った。

「あれらにはすまないと思っているよ。――ずっと、俺についていきたいのだと言っていた。できなくなった」
「なぜ」
「どうしても為さねばならぬことができた。――ファミリーという、至上の道義を裏切ってでも」

ゴンドリエーレの歌声が聞こえる。その声に掻き消されそうな程に静謐な声で、伊織が言った。

「貴殿は俺を信用できないと言ったな。――貴殿の直感は正しい。貴殿は、俺を信用するべきではない」
「どういう、意味――



――銃声がした。



タケルと伊織が同時に水路に目を遣る。ゴンドラに乗っていた観光客が悲鳴を上げ、ゴンドリエーレが伊織に向かって銃口を向けている。警告なしに二発目、三発目が撃ち込まれ、伊織がそれを躱すとともに二刀を抜刀する。

タケルが蛇行剣を抜刀しながら伊織を背後に庇うようにして立ち、銃口を向けたままゴンドラから舗道へと乗り上がってきたゴンドリエーレらに向かって切っ先を構えた。敵から目を逸らさずに、叫ぶようにしてタケルが尋ねる。

「ファミリーの追っ手か!?」
「いや違う、恐らくはこの一帯を縄張りにしている別の勢力だ。――俺を殺すつもりはないだろう、捕らえてファミリーとの交渉材料にでもしようという腹か。……無駄なのに……

憐れむように呟く伊織をせっついてタケルが逃げるよう促す。パンパンと銃声が続き、ゴンドリエーレに化けていた鉄砲玉らしい構成員らがどたどたと追ってくる。やがて弾が尽きたのか短剣ダガーを抜いて追ってくるようだったので、伊織と共に走っていたタケルが身を翻して応戦する。――そのタケルの肩越しに、背後からすっと一本の刀が伸びてくる。敵のひとりが真っ直ぐに自分の喉に向かってきた鋭い刀の切っ先に驚いて尻餅をつく。もう一人が逃げようとしたところをタケルが追おうとしたが、「放っておいたらいい」と伊織に窘められた。

尻餅をついていた構成員が這う這うのていで逃げていくのをチッと舌打ちしながら見届けたあと、タケルが伊織に向き直った。

「何故止めた? ――なぜさっさと逃げずにここに留まっていたのだ! あまつさえ加勢など――あんなもの、どう見たって私ひとりで一瞬だろうに!」
「この桟橋を越えたらリアルト橋かんこうちだ。大勢のカタギを巻き込む。――それに、放っておいたら貴殿は連中を皆殺しにしてしまう勢いだった」
「向こうから仕掛けてきたのだ。わざわざ峰打ちにする理屈はないからな、加減が面倒になるだけだ」

「フン、」と鼻を鳴らしたタケルに、伊織が感情の読めない瞳を向ける。真意がわからずその雰囲気に圧倒されかけたタケルが、「な、なんだ」と不貞腐れたように尋ねた。

「いや。――貴殿。貴殿は、なるべく殺さない方がいい。殺すな、セイバー」
……何」
「その穢れをわざわざ貴殿が背負い込む必要はない。それが必定でないのなら――その覚悟を必要としないものならば、殺すな。そうしなければ為せないものでない限り、殺すな」

タケルが目を瞠る。夕陽の色をした瞳が揺れ、「――きみ」と呆気にとられたままの声でタケルが言った。

「きみは――きみはなぜファミリーなどにいたのだ、そのような主義で」
「無論、性に合ったからだ。……言ったろう、あまり俺を信用しない方がいい。セイバー」

言って、伊織が水路際に放置されていたゴンドラに目を遣る。呆然として動けなくなっていた観光客に手を差し伸べ、「どうぞプレーゴ」と声を掛ける。
明らかにカタギの雰囲気ではない伊織に一瞬警戒を見せるも、伊織の顔を見て信用したのか、その手を取って岸へと上がる。「今目撃したことは他言しないように」と伊織に言い含められて何度も頷いた後、観光客も去っていった。

それを見届けたあと、伊織がタケルに言った。

「では、ジェラテリアへ行こうか。セイバー」
「きみ――いや――うん。そうだな。……ああ……

昨晩とは打って変わって人混みで賑わっているリアルト橋を越えた先のジェラート屋へと入店する。ピスタッキオとクレーマの二種類を乗せたコーンを伊織に買い与えられる。







次の街へ発つのはその日の深夜未明――ということになった。

二泊分を頼んでおいた宿には万が一の場合の迷惑料として一週間分を支払い、誰かが押し入ってきた場合には一切の抵抗をせずにもぬけの殻となった部屋を見せろと伝えた。
それとは別の宿を取り――何も言わずに相場の二倍の宿代を支払われた店主は、何も聞かずに伊織とタケルを中へと案内した。――とはいえ、ここに滞在するのも三時間程度だ。街全体が完全に寝静まり、水路の水音だけが響き渡る頃、そっと抜け出して駅へと移動し、夜明け前の線路を走る始発列車に乗り込む。

昨日と同じようにシャワーを浴びた伊織が、再び洋装に着替える前にガウン姿でベッドに腰かけた。――黙って右脚のふくらはぎに手を当てているのを見て、タケルが近寄る。
ベッドに腰かけたままの伊織の足元にしゃがみ込み、ガウンの合わせ目からすらりと覗いているふくらはぎに両手を当てた。筋に沿って両の親指で少しずつ揉み解してやる。ん、と痛みに顔を顰めた伊織が、「かたじけない」と呟くように言った。

「これからまた歩くからな。移動速度に問題があっては困る」
「その程度は問題ない。……セイバー。貴殿は俺の部下ではないのだ。貴殿にここまでしてもらう謂れは」
理由わけあって今の私はきみと一蓮托生だ。きみの護衛をする以上、きみ自身がろくに敵襲に反応できなければ私自身にも累が及ぶ。――私は、自分自身のためにきみのメンテナンスをしているに過ぎない。きみの為ではない」
――そうか」

伊織が黙る。一通り伊織の右脚を揉んだ後、左脚に移る前にタケルがするりと伊織の脛を撫でた。「……良い脚だ」と呟いた。

「綺麗な筋肉の付き方をしている。……よく鍛錬したろう」
「趣味のようなものだよ。あるいは、『生き方ラ・ヴィータ』」
「ん……

タケルが左脚に手を伸ばす。するりと同様に脛を撫で、親指で筋に沿って揉み込む。――この脚に辿り着くまでのこの男の生を、想う。この男の心の在り方を、想う。