mishiadd
2025-07-31 22:00:32
20302文字
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PENTITO

【現パロ/フェス衣装】ヤッターーーマフィアパロが一晩のうちになぜか合法になったぞ(うっすらイケメンの自覚がありそうなイタリアマフィア幹部の宮本伊織が内部告発をするために秘密裏にイタリア縦断するのを護衛する警察官ヤマトタケル)【剣伊】


Ⅰ.

情報提供者の護送を、という命令だった。

情報提供者」とタケルが鸚鵡返しにすると、上官は軽く肩を竦めた。

「『ファミリー』の幹部カポデチーナにあたる男だ。丁重に扱えよ」
丁重? 信用できるのか、その男」

「上官になんて口を利くんだ」、と一瞬鼻白んだ男は、目の前の腕っぷしだけはやたらと強い部下の出自――今も日本語が日常的に話されている日本人移民街の中心部――を思い出し、イタリア語の細かなニュアンスの違いには目を瞑った。

「『信用できる』、とは?」
「そやつはファミリーの幹部なのであろう。なぜわざわざ命の危険を冒してまで、ましてやその地位を捨ててまで、我ら警察に寝返る? ――これ自体がファミリー側の罠ではないのか」
「さてな。たまにいるんだよ。密告者ペンティート

上官が頭を掻き、咥えた煙草を人差し指と中指で挟んで口から外した。
私服姿で喫茶店バールのテラスに張り込んでいた。白い小さなカップに注がれたエスプレッソを一気に呷り、ういー、とまるで酒でも飲んだかのような唸り声を上げながらも上官が目線を路上に忙しなく向けている。タケルもつられて道行く人々に目を遣る。至って普通の――カタギの人間ばかりのように見える。

「今ここを通っていった人間のうちでも何人がファミリーの構成員かわかりゃしねえ。ここはそういう街だ。それを裏切ろうってんだから、よっぽどだろうよ」
「なぜ裏切る。……裏切るような者を信用できるのか」
「ッハァ! まるでファミリーの人間みたいなことを言うじゃねえか。――ファミリーの人間なのか?」
「そんなわけがなかろう! ただ――ファミリーだろうと警察だろうと、自らが属している組織を裏切る者はそもそも信用に値するのか、という話をしている」
「さあな。なにかがまさっちまったんだろう? 地位も安寧も、ありとあらゆる財産と人生を捨てて、寝返ることに駆り立てるような何かが」

ぽとりとその場に煙草を捨て、ぐりぐりと革靴の先で火を踏み消す。――「お出ましだ」と低い声で上官がタケルに告げた。

かつん、と最初にタケルの目に飛び込んできたのはその男の革靴だった。

そのまま目線を上げる。黒いぴったりとしたボトムスに包まれたすらりとした長い脚が見え、シルバーカラーのベルトが幾重にも巻かれた細い腰回りが目に入る。黒いシャツにシルバーのタイを結び、すっきりと洗練された型のグレーのスーツの上着を着込み――その上から、その細身の体には不釣り合いなほどに大ぶりの、淡いゴールドカラーの派手なジャケットを羽織っている。ちらりと覗いた赤い裏地にはしっかりと柄が入っているようだった。タケルが目を細めて見上げるようにする。午後の日射しを背にした男の顔は逆光になっていてしかと見えなかったが、ミラノのランウェイでモデルでもやっていそうなプロポーションのその男の顔は、長い前髪で陰のかかった中でもひどく整っているように見えた。

ふと、男の腰に目線を戻す。――タケルにも見覚えがないことはなくもない、日本刀を二本、携えている。

日系ジャッポネーゼか、貴様」
「同胞に随分な口の利き方だな? 警察官殿ポリツィオット

タケルがテラスチェアから立ち上がる。あるいはそのすらりとしたプロポーションのせいで遠近感覚がおかしくなっていたのか、タケルが想定していたよりは男の背は高くなかった。それでも自分の顎のあたりにあるタケルの顔を見下ろして、男が言った。

「俺をローマの裁判所まで護送してくれるというのが、貴殿か」
……そのようだな? 密告者

おや、と男が切れ長の目をやや瞠る。――やがて、口許にふっと不敵な笑みを浮かべて言った。ひどく挑発的な表情だった。

「ボディーガードに既に嫌われているようだ。果たして無事にローマに辿り着けるやら」
「おい、タケル。己の好き嫌いを仕事に影響させるな。ちゃんとやれ」

上官に叱りつけられ、タケルが彼を振り向く。「無論だ、仕事はきっちりやるとも」とだけ答え、それから改めて男に向き直った。

「だが、私はきみのことは嫌いだ。信用できない」
「する必要はない。――俺には貴殿に危害を加える気はない。警察に迷惑をかける気もない。だから貴殿のその警戒は無意味なものだが、ただそれだけだ。なにか損失デメリットがあるわけではない」

個人的な感情の伴わない理性的な物言いに、タケルが一瞬気圧される。やがて、フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。それから、テラスチェアに引っ掛けていたジャケットを取り、肩に引っ掛ける。半ば不貞腐れたような口調で上官に言った。

「こやつをローマまで送り届ければよいのだな。……ったく、一体何日かかる」
「目立たないように移動するんだぞ。――そいつはファミリーの幹部だ、顔が割れてるやつには割れてる。自分のところの幹部から密告者インファーミが出たとあっちゃ、メンツ潰されたってんで絶対に殺しに来る
「誰に向かって物を言っている。そのためにこの私をこの任務につけたのであろう」

言って、すらりと――どこに隠し持っていたのか、白い蛇行剣を一瞬だけ右手に顕し――そしてまたどこぞへと隠した。
男が一瞬興味深そうに片眉を跳ね上げたが、タケルは気付かなかった。

男に向き直り、タケルが尋ねた。

「きみ、そういえば名は。――日系だろう、日本名か?」
「イタリア名が別にあるが、そうだな。――貴殿には、伊織、と名乗ろう」
「イオリ、な。――私のことはセイバーでいい。皆、そう呼んでいる」

相手の本名を訊いておきながら自分の本名は教えなかったタケルに対して、うん、と伊織が素直に頷く。先程垣間見せた大人びた露悪的な表情とは裏腹に、ひどく朴訥な仕草に見えた。――うん、とわずかに毒気を抜かれながら、タケルが顎をしゃくってみせた。

「ゆくぞ、イオリ。――きみをさっさとローマへ連れていって、私は長期休暇ヴァカンツァをとる」

踵を返して歩き出したタケルの背後で、「うん」と頷いて伊織がついてくる気配がする。――調子が狂う、と思う。