mishiadd
2025-07-31 22:00:32
20302文字
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PENTITO

【現パロ/フェス衣装】ヤッターーーマフィアパロが一晩のうちになぜか合法になったぞ(うっすらイケメンの自覚がありそうなイタリアマフィア幹部の宮本伊織が内部告発をするために秘密裏にイタリア縦断するのを護衛する警察官ヤマトタケル)【剣伊】


Ⅱ.

この街――より正確に言うならば『島』だ――からローマまでは、順当にいけば海路で三時間もかからない距離だった。しかし、そのもっとも安易で楽なルートには致命的な欠点がある。その三時間の最中に襲撃を受ければ逃げ場はなく、なによりファミリーとしては船ごと沈めてしまえばよい。これほど楽な話はなく、それを躊躇う相手でもないだろう。

次点で検討すべきは陸路だが、これも――約十時間程度のドライブになる。ところどころで休憩を挟んだところで一日もかからないだろう。――が、同様に懸念点がある。
伊織がこの街からローマへ移動することがファミリー側にわかっている以上、その道筋について大方の捕捉はされてしまう。であれば、敵の追跡を振り切ることはより難しくなるし――なんなら、待ち伏せされての奇襲、ということも充分考えられる。

伊織の護衛は道中目立たぬためにタケルひとりだった。――であれば、そもそもファミリーに見つかるリスク自体を低減するのが鉄則だ。日本ジャッポーネの諺でも『急がば回れ』と言うだろう。







約二時間のフライトだった。

空飛ぶ鉄塊を撃ち落とされれば終わり――という状況も、まさかこの目的地に向かうフライトにまでファミリーが目を光らせているとは考えにくい。タケルの――そしてファミリーの手の内を知り尽くしている伊織の――目論見は当たり、無事にその日の宿へとチェックインすることができた。

イタリア南西にある街から直線距離で北上し、水の都ヴェネツィアへとやってきた。当然、観光をしようというのではない。『街』からローマへの当然のルートである北上ルートではなく、ヴェネツィアからローマへの南下ルートを取る。そのために、この逃避行のスタート地点へとやってきた。

深夜のリアルト橋を越え――日中は賑わっているのだろう橋上の店舗にはいずれもシャッターが下り、オレンジ色の外灯がともるだけだった――抜けた先の水路沿いを歩いて、隙間なく並んだ石造りの建物のうちのこじんまりとした店構えの前に立ち止まる。商売をしているのかどうかすら怪しいその建物は確かにホテルではあったようで、眠そうな顔で出てきた店番の男に鍵を渡されて旧式のリフトで二階へと上がる。粗末なシングルベッドがふたつ並んで置かれているだけの狭い部屋だった。
伊織がカーテンを開けて窓を開ければ、海の香りのする夜風が吹き込んでくる。眼下には深夜の真っ黒な水路が見えた。

「腹が減った」

不満げに言ったタケルがぽふんと軽い音を立ててベッドのひとつに勝手に仰向けに倒れ込む。眠そうな目を擦っていた店番の親父がルームサービスを持ってきてくれるとは思えなかった。

「リアルト橋の袂のジェラテリアジェラートやも閉まっていた。こんな時刻ならば当然だ」
「明日食いに行こうか」
「あのなあ、そういう話ではないし、そうは言っておらぬ。……まあ、きみがどうしてもと言うなら」

僅か三秒で意見を変えながら、ぶちぶちとタケルが口篭もる。空港で買っておいたビスコッティをかさかさと開け、空腹を紛らわせるために齧る。これはこれで美味かった。
窓の外から目を室内に向けた伊織が、「……足が疲れたな……」とぼやいた。三つ目のビスコッティをがりがりと齧っていたタケルが、「は?」と目を眇めて伊織を見た。

「なんだ? なんの主張だそれは」
「主張? ……主張というわけではないが……
「きみの足が疲れただと? きみの旅路に付き合わされている身の私に向かって一体なんだというのだ」
……いや……

伊織が目を逸らす。ぽつり、と言った。

「いつもこの刻限になると、部下が俺の足を揉んでくれていたものだから」

タケルがあんぐりと顎がはずれんばかりに口を開けて伊織を見る。ぽろり、とタケルの手から食べかけのビスコッティが零れかけた。

――は? きみ――きみ――きみは一体部下に何をやらせていたのだ」
「やらせていたわけではない。やりたいというから勝手にさせていたのだ。それが習慣化していただけだ」
「きみ――――

ふるふると頭を左右に振る。がりり、と残りのビスコッティを口の中に放り込んでから、移動中にほとんど炭酸の抜けてしまったボトルの水で流し込む。口許を乱暴に拭ってから言った。

「きみは他人に体をべたべた触らせる趣味でもあるのか。それともその部下とはそういう関係だったのか」
「どちらも違う。部下は誰か決まったひとりの人間ではなかったし、俺にそういう趣味があるわけでもないよ。――ただ――

ベッドサイドで革靴を脱ぎ、空いた方のベッドに座る。ぴったりとした黒いボトムスに包まれた長い脚を持て余すように伸ばし、何度か膝を曲げてみせた。

「この格好は、慣れない。俺は日系だ。幼い頃は着物を着て育った。剣の扱い方を覚えたのも和装の上でのことだ。無論、衣の如何で剣を鈍らせるなど許されざることだが――
「ファミリーの中では、和装で過ごさなかったのか」
「そういう日もあったが、ひどく目立つからな。……今ここに至っては、和装姿でいるわけにはいくまいよ」

ふ、と諦念のように笑った顔は、昼間に見たあの挑発的な笑みとは随分違って見えた。――あるいは、こちらがこの男の本性ではないかとも、思う。

そんなことを思ってしまった頭をぶんぶんと振り回し、タケルは言った。

「さっさとシャワーでも浴びてこい。血行がよくなれば痛みもいくらかマシにもなろう」
「ああ、そうしよう」

言って、伊織がベッドから立ち上がって小さなシャワールームに入る。ざあざあと水音のする中、タケルが空になったビスコッティの袋をぐしゃりと握りしめた。
――絆されてはならない。騙されてはならない。
あの男はファミリーの幹部で――その地位にありながら、これからファミリーを裏切ろうとしている。

ほんの昨日まで、「痛む」と訴えるボスの足を甲斐甲斐しく揉んでやっていた部下たちのことすらも、裏切ろうとしているのだ。

キィ、と古い建付けのシャワールームのドアが開き、白いガウンを着込んだ伊織が姿を現わした。――着物にも似たその格好は、むしろ日中に着込んでいた豪奢な衣装よりもよほど伊織の性に合うようだった。

ベッドに腰かけながら、伊織がタケルを見る。洗いざらしの栗色の癖毛がすっかり濡れてうねり、綺麗な巻き毛になっている。その毛先からぽたぽたと水滴を垂らしながら、伊織がうっすらと口許に笑みを浮かべて言った。

「貴殿もシャワーを浴びるといい。――残念だが、湯船はなかった。貴殿も日系だから、風呂に浸かりたかったろう」
「よい。この職に就いていてどのみち湯船に浸かる暇などないよ。――ではな」

タケルがシャワーを浴びて部屋に戻ると、伊織は既に就寝していた。横臥して、すう、と軽い寝息を立てている伊織はタケルのベッドに背を向けている。その背中を見ながら、フン、と小さく肩で溜息をつく。伊織に背を向けて横になり、タケルも就寝する。







「ンン、」という苦しげに洩れるかすかな声にタケルは目を覚ました。仕事柄、どんなに小さな物音にも敏感に反応して瞬時に目覚める性質である彼は、さっとベッドの上で身を起こして隣のベッドを覗き込む。どうやら先程の姿勢のままで魘されていたらしい伊織の肩を揺すり、「おい、イオリ」と声を掛ける。
は、と目を開けた伊織がタケルを見上げる。タケルがヘッドライトをつけると、ぼんやりしたオレンジ色の明かりの中でもわかるような、真っ白に蒼褪めた伊織の顔が見えた。

――大丈夫か。一体どうしたのだ」
「あ……いや」

伊織が身を起こす。しばし考えたあと、「やはり足が――痛くて」と答えた。

「そんなにか。……よい、見せてみよ」
「あ、いや、俺が自分で――
「そのように呻かれては私の方が迷惑だ。――ここか」

毛布を避けて、白いガウンの裾から伸びた細長い脚のふくらはぎにタケルが触れる。親指でぐっと揉み込むと、「んっ」と伊織がわずかに顔を顰めた。

「張っている。――きみ、初日からこれでは困るぞ」
……すまん……
「もうよい。私が揉んでやるから俯せになれ。……ったく、世話の焼ける……

大人しく言われるままにベッドに俯せになった細い体の腰のあたりから揉み込んでやる。――彼の部下たちもこんな心持ちだったのだろうかと、思う。