芹沢亀吉
2025-07-26 22:55:43
9583文字
Public 風刺
 

落選1~9

2020年11月29日~2023年4月10日にかけTwitterに投稿した暴虐な軍国主義者、楠木武が恥をかく物語の通算15、21、32、36、37、38、59、68、97話目、通称『落選』シリーズ1~9の加筆修正版をPrivatter+に投稿。


落選7

(※Twitterへの投稿は2022年9月11日~9月12日)

「沖縄県民の皆様、この楠木が支援する佐久本さくもと義雄よしおに何卒清き一票を!」

 楠木武一等陸佐は元陸自の佐久本を沖縄県知事選に当選させたい熱意に突き動かされ、沖縄の酷暑をものともせず那覇市、浦添市、宜野湾市、沖縄市、名護市、北谷町、金武町、宜野座村、大宜味村をわずか2日間で駆け巡り応援演説に勤しむ。しかしながらこの一等陸佐には現役自衛官が特定の候補への投票を呼びかけるのは完全な選挙違反行為という自覚が全く無く、彼と同じく佐久本の当選を切望する広池ひろいけ一雄かずお総理にとって楠木の勝手な応援演説自体が悩みの種。

「あの馬鹿め!堂々と選挙違反しおって!佐久本君を背中から撃ったも同然だぞ!」

 折しも門長かどなが四郎しろう元総理が元自衛官に背中を撃ち抜かれ即死する事件が起こったばかり。秘書官達の青ざめた顔を目にした広池は己の「背中から撃つ」発言の軽率さに気付き、わざとらしく咳込みお茶を濁す。

「総理、このような手はいかがでしょう?」

 秘書官の1人から何かを耳打ちされ、瞬時に落ち着きを取り戻した広池の眼鏡がギラリと輝く。

「そのような手を思い付くとは、お主も悪よのぉ。」

「いえいえ、総理にはとても敵いませんよ。」

 この悪代官みたいな日本国首相は何を吹き込まれたのやら。

 数日後、再び那覇市にやって来た楠木は以前とは打って変わって現沖縄県知事、玉那覇たまなはでんの応援演説を開始した。

「沖縄県民の皆様、この4年間沖縄を中国の魔の手から守ってきた玉那覇知事の再選こそこの楠木の希望です!裏で中国と繋がっている佐久本義雄に投票してはいけません!」

 実のところ数日前広池は楠木に電話しこう言ったのだ。

「楠木君、酷暑の中応援演説とは見上げたものだ。総理である私も感動したよ。実は公安の調査により佐久本義雄が中国と裏で繋がっていることが判明した。今更佐久本の公認は取り消せないがあいつを応援しないでほしい。」

 勿論これは大噓。楠木に嘘を吹き込み玉那覇知事の応援演説をするよう仕向け、後は現職知事の選挙違反を御用新聞に大々的に報じさせ玉那覇落選に持っていく、これが広池の狙い。

 広池に噓を吹き込まれたとも知らず、

「承知致しました!明日から玉那覇知事を応援致します!広池総理、玉那覇知事の再選に身命を賭すこの楠木の働きをとくとご覧あれ!」

などと意気込む楠木ははっきり言って軽率の極み。

 数日前とは言っていることがまるで違う楠木の豹変ぶりを訝しげに眺めているのは海洋調査のため那覇市に滞在中の若き生物学者、一ノ瀬いちのせ由衣ゆいである。楠木は観衆の中に一ノ瀬がいることに気付き機嫌が悪くなった。

「おいそこの小娘!貴様沖縄県民でも無い癖に何故ここにいる!?」

 一ノ瀬は射撃訓練による池の鉛汚染の調査等自衛隊が隠蔽したい事実を熱心に調査し、楠木はそんな彼女を敵視しているのだ。

「私が何処で何をしようと楠木武、お前には関係無い。大体応援演説の途中に私1人を罵倒なんかしちゃって良いのかな?恥を知れ!」

 一ノ瀬にガツンと言われ逆上した楠木は懐から伸縮性の金属棒を取り出した。

「小娘がぁ!貴様に軍人精神を注入してやる!」

 この楠木、普段信太山駐屯地にいる時は木製の棒を振るい部下を暴行し、今回のように外出時は伸縮可能な金属製の棒を携帯している。

 右ポケットの中の痴漢除けスプレーを構えた一ノ瀬ではあるものの、結局それを使うことは無かった。突然の銃声と共に棒を振り上げ襲いかかってきた楠木が地べたに倒れたからだ。両目を見開いたまま動かない楠木の周囲に赤黒い水たまりが。

 鞄に仕込んでいた手製の銃を撃ち楠木を射殺したのは元陸自の半グレ、荒川あらかわ雅夫まさおだ。この半グレは佐久本陣営に雇われ玉那覇陣営への嫌がらせを繰り返していて、突然玉那覇知事の応援演説を開始した楠木を裏切り者と認識し犯行に及んだ次第。

 荒川の現行犯逮捕を皮切りに佐久本陣営が雇った半グレ達が次々と逮捕された。事情聴取を終えた一ノ瀬が滞在先のホテルの個室に戻りTVを点けると丁度ニュースキャスターが沖縄県知事選の結果を報じていて、結局玉那覇が再選し落選した佐久本は公職選挙法違反により逮捕とのこと。

「民意は示された。私もこれから出来ることをしないと。」(終)