丹羽燐
2025-07-02 23:53:05
13874文字
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赤い糸が切れないように

2025-06-15発行の「別れ支度をあなたの隣で」の続きのような短編
━━もし,ふるあずの二人がハッピーエンドになったら?

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 たまに来ていた女子高生二人に、仕事相手らしき人を待つ男性客一人、女子会を繰り広げるマダム三人、そしてカウンター席の常連客一人。土曜の午前は、適度な人で満たされていた。ランチのようにフードのオーダーが飛び交うわけでもなく、のんびりとした時が流れる。
 カウンター席で一人、彼女こと蘭を待つ新一が顔を上げた。嫌な予感が梓の背を駆け抜けた。
「そういや、あの時も変だったんだよな」
……あの時?」
「いや、なんでも」
 勘が外れたことに梓は少し安堵した。隠し事があるせいか、すべてを見透かすような目をしている気がした。
「そういえば、梓さん。どうでした?」
……え? 何が?」
「この間の話ですよ。言動の癖とか」
「あー……えっと。新一くんの言うとおり観察してみたんだけど……同じところも違うところもたくさん出てきたの。新一くんみたいに得意じゃないから、自信なくって」
 梓の視線が右へ左へと揺れる。嘘をついている時は目線が泳ぎやすい、と以前安室さんに言われた言葉が脳裏をよぎる。きっと、新一くんにはバレバレだ。
 よくわからないのは本当だ。でも、それ以上に答えを知るのが怖かった。
「本当にそうなら隠すのも上手いだろうしなあ」
「うんうん。難しいね」
 新一は読んでいた本を閉じ、何やら考え始めた。わざわざ声をかける気にもなれず、梓はランチの仕込みをすることにした。今日のお任せパスタランチはナポリタン。野菜の切り方一つで味の馴染み方が変わるから、手が抜けない。
 そういえば、安室さんが改良したというレシピはわからないままだ。試食すらしていないから、味の想像もつかない。あの時、ちゃんと聞いておけばよかった。もう聞けないと思うと、些細なことまで惜しくなってしまう。
 包丁の刃がまな板に打ちつけられる音が、規則正しくポアロに響く。ピーマンを切る手がほんのり冷えたのは、洗う水道水が冷たかったせいか、思い出したせいか。
 単調な作業でも、ポアロの中の音に耳を貸しながらだと案外飽きない。
「ねえ、梓さん」
……なあに?」
 真相を解き明かす時のようなまっすぐな目に見据えられる。犯人でもないのに、梓は動けなくなった。
「人の心っていうのは、推理で完全にわかるものじゃない」
「新一くんでも?」
「ええ」
 梓は話が読めずに首をかしげる。淡々と諭すような声に込められた感情は見て見ぬ振りをした。
「今からいくつか、見てほしいポイントを伝えます。俺がいつも気にしていた……気にしていることです」
 新一の指が四本たてられる。それを見つめながら、まな板の上の手に力が籠った。手のひらに刺さる爪が少し痛い。
 この前助言をもらった時はこんなじゃなかったのに。
「これらを踏まえて、梓さんが信じたい方を信じてください。怖いのは失うことじゃなく、知らないまま終わることだから」


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