eclipsis
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紡ぐ夜明け

ホームシック気味になったペローナがモリア様の夢を見る話。離れてても通じ合う親子。この話と薄ら繋がってます


 
 広間ではゾロがダイニングテーブルへカトラリーを並べていた。無骨な手に反して丁寧に置いている。そこへキッチンからミホークがやって来た。手には朝食を乗せたトレイを持っていて、それぞれの席へ配置する。お互いに朝食はしっかり取り、後にその日の修練や畑仕事があればそれを行う。ゾロが現れてから自然と出来た朝のルーティンだ。特に喋ることも無い。

「おはよ」

 静かな広間にペローナの挨拶が届いた。

「...お早う」
「...ォハヨ」

 二人が声のした方へ顔を向け挨拶を返す。反射的に発したその声色は驚きに満ちていて、現れたペローナに対し迎える態度はすっぽ抜けていた。当のペローナは少し目を丸くしている二人に、平然とした顔でつかつかと歩き近寄った。

「私も手伝う。何か他にすることある?」
「あぁじゃあ、キッチンから水差しを持ってきてくれ。貴様の分の飯もそこにあるから、自分で皿に盛れ。ロロノアがよく食うから多めに作ってある」

 ミホークがそう喋ると、ペローナは小気味よい足取りで早々とキッチンへ向かった。その様子を見てゾロは鼻を小さく鳴らし、笑ったような仕草をした。

 朝食の準備を終え食卓を囲んだ三人は、各々がマイペースに食を進めた。会話はやはり無い。カチャカチャと食器たちが鳴る中、口火を切ったのはまたもやペローナだった。

「なぁ。この後ってさ、畑仕事するんだろ。私もするから教えろよ」

 食事がほぼ終わり、水を飲んでいたミホークがコップを静かに机へ置いた。

……別に貴様の仕事でもない。言ったろう、無理をするのは――
「無理はしてない。それに仕事じゃなくても、私がやりたいからするんだ。……私は、もう、この城の住人だからな。するべき事なんだ」

 ミホークの言葉を遮って、ペローナは毅然とした態度で言い切った。いつぞやの廊下で縮こまった娘とは別人かのように、真っ直ぐにミホークの目を見ている。

……そうか」

 強い瞳で見つめられても、ミホークの返す声は冷静そのものでしかない。ただ、口元には柔らかく微笑が浮かんでいた。

……畑にいる虫にピーピー泣かなきゃいいがな」

 二人のやり取りを見守るでもなく、殊更マイペースにしていたゾロが茶化すように喋った。意地悪そうに口角を上げて、おかわりを手に取ろうと食卓の真ん中に置いてあるバケットへ手を伸ばす。
 ペローナはその皿を手前に引いて、ゾロの手を空振りさせるささやかな仕返しをした。



 天気は昨日に引き続き、心地良い日和である。
 時々厚い雲が横切るが、屋外の作業に不慣れなペローナにとっては、その一時の陰りが気持ち良い。鍬で掘り返された土に残る石やゴミを、用意されたバケツへ入れていった。
 一息ついた時に、畑のすぐ側にある木陰を見た。そこにツギハギ人形が座っている。ペローナは少し遠い目をして人形を見つめると、再び作業へ戻った。黙々と手を動かす。思考は澄み切っている。

 今後、モリアに会える可能性は低い。希望はほぼ無いと言ってもいいかもしれない。何せ生死不明なのだ。新聞は一方的に報じていたが、ペローナに信じる気は湧いてこない。
 
 だが、しかし。もしも、その報せの通りモリアが、もうこの世に居ないとしたら。
 
 今のペローナは憂いに沈んだまま立ち止まることはしない。何故ならばモリアから教わり与えられたものは、確固として生きているからだ。その最たるものがペローナだという自負が芽生えた。だとしたら、己の悲しみへ塞ぎ込む余地は無い。モリアとスリラーバークの全ては息づいている。その地で肩を並べた怪人たち――アブサロムやホグバックも、ペローナと似たような意志を宿す気さえしている。

 しっかり生きる。そして、自分自身の意志。ペローナの心の底を支えるその答えが導いてくれる。
 望みが少ない道でも、いつかきっと、どんなかたちであれモリアとは会える。それが例え、死の間際になったとしても良い。

 土弄りに熱中しているペローナの傍を、ひゅうっと風が流れた。風は木陰まで吹き抜け人形を煽り、倒していった。ペローナはすぐさま立ち上がると軍手を外し、人形を落ち着き良く座らせる。人形の丸い顔に触れた手を撫でる仕草に変えた。頭にはモリアの顔が浮かんでいる。
 
 ――いつか。いつか、再会できる。だけどその日まで、寂しさを人形で紛らわすのは許してほしい。

 ペローナが見つめるツギハギの顔はモリアには全く似ていないのに、人形が彼自身になって、娘の小さな甘えに笑ってくれた気がした。

 木陰の隙間から日差しが煌めく。光に誘われてペローナは空を見上げた。太陽は高く遠く、大地を照らしている。ペローナはモリアのことを想いながら、暫く空を見上げ続けた。