【可惜夜廻】

『「すみません、よくわかりません。」』
現行未通過×
夜廻パロ/まとめ読み版




カンジは一人立ち尽くし、夜空をボンヤリと見上げている。数多の星が瞬き、自らを主張する。存在を世界に焼き付けるように輝く姿に、幼いカンジはいつも勇気を貰っていた。だというのに、今ではすっかり一番の畏怖対象である。

背後から近付く唸り声に、ゆっくりと振り返る。幼い頃に見た赤い流れ星が、こちらの喉笛を狙っている。あの鋭い牙は、肉と骨を裂くためにあるのだろう。あの尖った爪は、獲物が逃げぬよう突き刺すためにあるのだろう。そしてそれは全て、自分を殺すために在るのだろうとカンジは思考する。


ごめんな、ソウゲツ」


オレも好きって、言いたかったなぁ。その言葉を飲み込んで、カンジは飛びかかってきた獣を受け入れようとして




「カンジッ!!」


ドンッ! 突然訪れた強い衝撃で、カンジの体が地面を転がる。間一髪でカンジの首から逸れた牙が、ギチギチと不快な音で軋む。


……ソージ?」

「よかった、間に合った!」


彼は、ソウゲツは心底嬉しそうに微笑む。これは夢か、幻か。いや、きっとそのどちらかに違いない。だって彼がここにいる筈がない。それはあまりにも自分に都合が良すぎるのだから。混乱から立ち直りつつ、カンジは目の前のソウゲツに言葉を紡ぐ。


「なんでここにおるん。はやく帰りぃや」

「ああ、帰る。オマエも連れてな」

オレは帰れん。あの神様に喰われるから」

「これがあってもか?」


そう言って、ソウゲツは懐から骨を取り出す。もう片手には、ひょうたん水筒が下がっている。カンジはソウゲツが大まかな事情を把握していることを知り、しかしそれでも食い下がらない。


「あかん。それは危険や。オマエまで〈アマイヌさま〉に喰われる可能性だって捨てきれんやろ」

「助かる可能性だってある」

「そんな細い骨で、あれが満足すると本気で思っとんのか? 笑わせんなや」


低い唸り声。見れば〈アマイヌさま〉が再びカンジに襲いかかろうと、足に力を込めている。離さないよう傷付けさせないよう、ソウゲツはカンジを抱き締める。カンジはそれを拒絶しようとして、体が震えて動かない。


堪忍して。オレのせいで誰かが害を得るのは、見たくないんや」


ポツリと溢れた呟き。しかし、ソウゲツは決してカンジを離さない。片手に酒、片手に骨、胸には一番愛する男。そして、目の前では飢えた獣が歯を剥き出している。選択肢は無数にあるが、手繰り寄せられるのは一つだけ。ソウゲツが選んだ方法は──────