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ムクロジカ
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文字/夜廻パロ
【可惜夜廻】
『「すみません、よくわかりません。」』
現行未通過×
夜廻パロ/まとめ読み版
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「ソウゲツ! しっかりしろ、ソウゲツ!!」
肩を揺らされる感覚で、徐々に意識と視界が鮮明になっていく。ヒロに肩を掴まれていると認識した瞬間、ソウゲツの鈍っていた感覚が戻ってくる。カンジの姿をした人形が喰い荒らされる光景が、目の前で再生される。カヒュ、というソウゲツの呼吸にならない声に、ヒロと背後に居たアサヒが焦る。
「落ち着けソウゲツ、カンジは無事だ。深呼吸しろ」
「吸って、吐いて、吸って
……
」
背中を擦りながら、アサヒは一定のリズムを刻んで深呼吸を促す。カンジが無事という言葉で、ソウゲツはゆっくりと正気を取り戻す。ここが駅前の広場だと確認して、そうして異変に驚愕する。ヒロの顔色が、非常に悪い。目の下に刻まれた隈は深く、頬も少し痩けている。夜別れてから今まで、一体何があったのだろう。
「
……
なにが、起きてる。説明してくれ」
「
……
うん。そうだな、最初に説明しなかったこと謝るよ。ごめん」
「ヒロの責任じゃないでしょ。キミはできることをやってた」
「いいや、オレには勇気が無かった。もっと早くこれを行っていれば
…
いや、まずはソウゲツに全部話すよ。混乱してるだろうし」
ヘラリと力なく笑うヒロは、いつもの強かな彼とは程遠い。アサヒも冷静でないように見え、ソウゲツはますます困惑することしかできない。僅かに迷った素振りを見せてから、決心したようにヒロは口を開く。
「覚えてるか? この町で、流れ星がどんな風に扱われてるか」
「災いを運ぶ、ということは」
「うん。じゃあ、〈アマイヌさま〉については?」
「
…
なんだそれは」
「カンジを狙ってる
…
神様?みたいなモノだ」
「
…
神様が、カンジを狙っている?」
「不可解なのは分かるけど、ヒロの言ってることは本当だよ。カンジは〈アマイヌさま〉に目をつけられてるんだ」
唐突に出された覚えのない名称と壮大な話に眉をひそめたソウゲツに、ヒロは納得したような顔をする。アサヒも同様に、ソウゲツの返答が予想できていたという反応である。
「〈アマイヌさま〉は普段、赤い流れ星として空を駆けてるんだ。それを見た子供は、大人になったら食い殺される。カンジは昔その赤い流れ星を見てしまったから、今狙われてるんだ」
「は? なんでそんな
…
」
「悪いが、〈アマイヌさま〉について詳細を話してる暇は無い。とにかくそういうものだと割り切ってくれ」
「そうそう。今大事なのは、カンジを〈アマイヌさま〉に見逃してもらうことだからね」
「
…
あの人形は何だ」
「身代わり人形みたいなものだな。オレが遠隔で操作して、本物のカンジから〈アマイヌさま〉の意識を逸らしてた」
「本物のカンジは」
「それ、は
……
」
ヒロが言葉を続けようとして、突然ぐらりとよろめく。慌ててアサヒとソウゲツが支えるが、そのままズルズルと倒れてしまう。よく見てみれば、呼吸はしている。医学知識は素人のソウゲツでも、疲労で倒れたことは明白である。
「やっぱり限界だったか
…
悪いけど、ここからはキミ一人で行くことになる」
「ちょっと待て。本物のカンジはどこにいる」
「ボクには分からない。でも、キミなら分かるんじゃない? 彼が最後に逃げ出す先」
あのカンジが本当にどうしようもなくなって、最後の最後に逃げる場所。彼が教えてくれた、素敵な秘密の禁足地。ソウゲツにそれが浮かばない道理はない。
「
…
ああ。アイツは必ず、あそこにいる」
「よし。なら最後に、これを」
そう告げてアサヒが渡したのは、それほど大きくはないひょうたん水筒と骨である。水筒の中には液体が入っているのか、そこそこの重量がある。骨は獣の骨のようだが、ソウゲツの腕よりも細く短い。
「これは」
「日本酒。これで太い骨を濡らして、〈アマイヌさま〉に捧げるんだ。そうしたらカンジは許される」
「太い骨というのはこれか?」
「
……
ごめん。文献を全部読み解けなくて、『何かの太い骨』としか。どれくらいの太さの何の骨が必要なのかまでは分からない。だからこれを渡しておく」
悔しさを滲ませた声色で、アサヒが語る。ヒロをなんとか背負い、アサヒはソウゲツに向き合う。申し訳無さそうな、懇願するような表情は、ソウゲツが初めて見る種類のものである。
「ボクはヒロを連れて帰る。だからキミも、カンジを連れて帰って来るんだよ」
「
……
ああ、任せろ。必ず連れて帰る」
コクリと頷いて、アサヒはヒロと共に去っていく。手の中の骨を見て、疑念が浮かぶ。こんなもので、本当にあの神様は許しを与えてくれるのだろうか。あの凶暴な獣が、こんな骨で満足するのだろうか。あの狗が納得するほどの骨とは、一体なんだろうか。
考えていても仕方ない、とにかく今は急がねばならないのだ。思い出のあの崖、二人ぼっちで眺めた星空の下へ。
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