なび
2025-05-26 00:10:51
4015文字
Public 海の魔女の物語(仮)
 

海の魔女の物語(仮)7

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元ネタ原案は たたみさま(@musclewata)の素敵最高ツイートです。
本当にありがとうございます……!!!


TSバソ♀によるしょたおねパーバソですが、しょたパートが終了しました。
今回、遠回しにモブバソ要素がありますのでご注意ください。


 
 
…………大きくなったね」
 館でパーシヴァルを出迎えたバーソロミューは、形の良い目をまん丸に見開き、それだけをこぼした。
 最後に会ったのは、パーシヴァルが寄宿学校へ入って最初の年の夏の休暇一年経った頃のときだったか。
 四年前とまったく変わらない姿で、女性の姿の自分よりすっかり大きくなった教え子を見上げる。
「鍛錬をがんばりましたから」
 にこり、と彼が笑みを深めれば、バーソロミューは眉をひそめて上から下まで三往復は目の前の青年を見返し、はー、と大きく息を吐く。
「立派になった」
「ありがとうございます」
「課題もきちんとこなして」
「そういうお約束でした」
「強制じゃないと言っただろう?」
「そうしたら、お手紙をくださらないでしょう」
…………そういう約束だったからね」
 ぽんぽんと応酬を繰り返した末、むっつりと口を引き結んだバーソロミューへ向けて、手を差し出す。
「?」
 首を傾げてこちらを見る無防備な様に、パーシヴァルはぐっと堪えた。十歳の頃から見慣れていたはずの仕草のひとつひとつが、今の自分には心臓に悪い。
「手を。サロンにお茶を用意させていますので」
「エスコートかい。それはそれは」
 くつくつとバーソロミューの喉が鳴り、ばさりとまつ毛が上下した。華奢な手がパーシヴァルのそれに重ねられる。かつては細いが大きいと思っていたそれも、今ではすっかり自分の方が大きい——そのことにため息が出そうになる。
 本当ならば、扉が開いた瞬間に抱きしめたかった。それが叶う年齢になった。
 それを必死に抑えて、いま彼女の隣を歩いている。バーソロミューから香る、化粧と柑橘の香りが混ざった匂いが脳を揺さぶる。
「それにしても久しぶりだ」
「帰ってくるたびに出かけていたのは先生でしょう?」
 嘘だ。最初の年末の休暇こそたまたま大潮に被ったが、夏の休暇で一年ぶりにバーソロミューに会ったとき、パーシヴァルは頭を殴られた気がした。彼女が美しいことは知っていた。そして、その美しさが自分だけに向いていないことに気づいたのだ。
 魔女は、畢竟「家」のもの。
 父母に手を取られて現れたバーソロミューを見て、そう悟った。彼女は、〝ド・ゲールの人間〟だから自分に講義をしてくれる。
 思い出した拍子に、ぐ、と手に力が入ったらしい。
「どうかしたかい?」
 上目で何事かとこちらを伺う彼女に、
「いいえ」
 笑って腕を引き、サロンの扉をくぐる。
 それ以来、学舎で、魔女から届く課題を精力的にこなすパーシヴァルを見て、友人らは言った。
『何て厳しい家庭教師チューターだ』
『両親に言って辞めさせてしまえば良いのに』
 先生はそういう人じゃない——そう返そうとして言葉に詰まった。彼女はなぜ知識を授けてくれる? 保護されているから? では、彼女の知識の恩恵がなければ、我が家が彼女を保護する理由はない?
 気づいてまた愕然とした。
 彼女は初めからそう言っていた。けれど、理解できていなかった。つまりはそういうことなのだ。
 彼女は、自分の知識が我が家の役に立たないと判断したら、去って行く
 魔女にとっての有用な人間にならねば。
 同時に、〝ド・ゲールの人間〟ではなく、〝パーシヴァル・ド・ゲール〟を必要としてもらいたかった。
「わざとじゃないのかい?」
 サロンの豪奢なソファーへ身を沈め、わざと帰郷のタイミングをずらしたのではないかと悪戯気に目をきらめかせるバーソロミューは、まるで少女のように見える。
「まさか。もっとお会いしたかったのに」
 わざとらしく首を横に振り、悔しそうにとぼける。
 少しでも自分のことを考えて欲しかった。でも感情を抑えるすべのない、バーソロミューに見合わない自分では会いたくなかった。いや、会いたかった。会いたかったが、自信がなかった。隣に立つ自信が。
 だから、二年目からはわざと帰郷を大潮に被らせた。夏の長期休暇も、勉学と鍛錬、父に付き従っての社交が忙しいからと、城にはほとんど戻らなかった。
「今回は、王都で人気だという茶葉を持って帰ってきました」
 会うことはしなかったが、帰郷のたびに紅茶の茶葉をひと袋、魔女の館に置いていった。休暇明けに届く課題には、必ず味の評価が書かれていた。
 これも恒例のそれだと手づから紅茶を注いで差し出せば、好物を前に目を輝かせながら、
「それはそれは。では、お手並み拝見といこうか」
 そんな軽口を叩くのすら可愛らしい。
……うん、美味しい」
 目を伏せて満足そうに笑んで言われては、口角も自然と上がるというもの。
「良かった」
「そんなに緊張せずとも、課題ではないのだから」
 くすりと揶揄われたが、パーシヴァルにとっては笑いごとではない。
「先生に差し上げるものは、すべて良いものにしたいんだ」
——、」
 漏れた本音に虚を突かれたのか、バーソロミューは面食らったようだった。
「そんな、そういうことは婚約者に——……そうだ、卒業の前に舞踏会があるだろう」
 パーシヴァルを窘めようとして、自分の言葉に思い出したらしい。バーソロミューから振ってきた話題に、パーシヴァルは「ええ、そのことで」とカップを置いた。
 卒業前にパーシヴァルは王室主催の舞踏会へ招待されていた。年に一度の貴族令嬢らのデビュタント。女王への謁見の後に開催されるそれである。年頃の令嬢を抱える貴族家から、そのパートナーにと多数声がかかっていた。
「お相手が決まったのかい? それは良かった」
「先生と」
「は?」
 穏やかなひと言に、繊細なカップを手にしたまま、バーソロミューは固まった。
「舞踏会へご一緒してもらうためのドレスを贈らせてもらっても?」
 訊き返すバーソロミューへ繰り返すことをせず、パーシヴァルは目を細めた。平静を装ってはいるが、膝に置いた手は汗でぬめる。笑みは引きつっていないだろうか。