なび
2025-05-16 00:42:02
2174文字
Public 海の魔女の物語(仮)
 

海の魔女の物語(仮)6

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元ネタ原案は たたみさま(@musclewata)の素敵最高ツイートです。
今回も参考にさせていただいております。ありがとうございます……!!!


TSバソ♀によるしょたおねおにパーバソです。
しょたパートが終わっ……



「!」
 十六夜の月が中天にかかる中、誰に見られることもなく館へ戻ったバーソロミューは、カンテラを掲げて入った先の寝室で、ベッドがこんもりと盛り上がっているのを見て驚いた。
————……
 ふ、と口元をゆるめ、埃にまみれた旅装を解く。一度台所へ降りて裏の井戸から汲んだ水でお湯を沸かし、体をさっと清めると、部屋に戻ってベッドサイドにカンテラを置く。そして、男の手がベッドの山から毛織の上掛けをぺろりと捲った。
「ふふ」
 バーソロミューの予想どおり、そこには突然入り込んできた寒気に身を丸めるパーシヴァルがいる。
……んん、ぅ」
 小さく呻く子どもは、完全に夢の中だ。
「さては、毎晩いたな?」
 バーソロミューがいつ戻るか、月の満ち欠けを学んだパーシヴァルにはわかっていることであろうに。だというのに毎晩寝床を抜け出してここにいただろう子どもの存在は、バーソロミューの眦を下げさせるには十分だった。
「悪い子だ」
 まったく叱る調子のないそれは、カンテラの灯りに溶け、闇の中に染み込んでいく。
ゆったりとした寝巻を身につけたバーソロミューは、ベッドに入り込むと、 そっとカンテラの火を吹き消した。
「おやすみ」
 誰に聞かせるでもなく囁けば、丸まった少年が隣の体温に気づいて身を寄せてくる。子どもの熱と小さな寝息は、ゆるゆると眠りを呼び寄せる。
 少年の丸い頭を撫でる男のざらりとした手が、静かにシーツの上に沈むと、部屋に響く寝息は二つになった。



 ◆◇◆



 パーシヴァルは上掛けを引き寄せようとして、寒さにぱちりと目を覚ました。
 ずいぶんと懐かしい夢を見ていたような気がする。
 寄宿舎に入る前の、男の姿のバーソロミューと初めて会ったときの夢を。


 ——あの日、置いて行かれた、と思ったパーシヴァルは、バーソロミューが戻るまでと、二夜連続で彼の寝室に忍び込んで帰りを待っていた。そうして三日目、柔らかな感触で目覚めたパーシヴァルは、自分を抱き枕にするバーソロミューに気づいてベッドから転がり落ちた。
 薄く閉じられたカーテンの隙間から朝日が差し込み、褐色の肌をやわく照らす。
 いつの間にか帰ってきていたバーソロミューと同衾していたのだと理解した途端、パーシヴァルは頭のてっぺんから、何ならつま先まで真っ赤になった。
「先生!!!!」
 少年の甲高い悲鳴に、ベッドの上のバーソロミューがもぞりと起き上がる。
…………おはよう」
 寝起きの低い声でバーソロミューが寝不足の目をこすると上掛けがずり落ち、がっしりとした肩が露わになる。パーシヴァルはなぜか両手で目を覆った。
「おはようじゃないです何でベッドに入ってるんですか!」
 ひと息で叫べば、何を言っているんだ、と師のため息が耳に届く。
「このベッドは私のものだが」
 ベッドから下りたのだろう足音が近づいてくる。首を竦めたパーシヴァルが指の隙間からそちらを窺うと、バーソロミューが窓の前に立っていた。
 差し込む朝の光が、男を照らす。逆光に縁取られて、体の影が寝巻き越しに浮かび上がっていた。うっすらと透ける布地がしっかりとした腰の線をなぞり、細く影を落とす。
 あまりの無頓着さに呆然とした。
「私だって一応男です!」
 叫んだパーシヴァルに、バーソロミューはきょとんとした。
…………私も男だが」
「それは今は、でしょう!? 普段は女性の姿でしょう!」
 言われて初めて気づいたように、バーソロミューは瞬きした。
「それはそうだ。確かに」
「納得したなら、今後はこのようなこと、なさらないでください!」


 どう考えてもあの時の自分の主張は正しかったとパーシヴァルは今でも思う。
 女性の姿のときに同じことをされないで、本当に良かった。幼い日のできごとを思い返してパーシヴァルは胸をなでおろす。
 古いベッドがぎしりと軋む音とともに起き上がれば、片付いた自室が目に入る。王家直轄領の寄宿学校へ入って五年、最高学年となりようやく手に入れた個室だが、年末の休暇を前に荷物はきれいにまとめられていた。机の上には、手紙の束。
 冬の冷え切った室内に、パーシヴァルの白い息が広がる。
「先生」
 手紙に触れる手は少年と呼ぶには立派で、青年と呼ぶにはまだ若い。けれど、愛しいものに触れる手だった。
 口元は自然と綻んでしまう。手紙の内容は、色めいたことなど何もなく、バーソロミューから次々と出される課題と講義だったが。
 学校では教えてくれない内容に、必死に調べて返事をした。そうしなければバーソロミューからの次の手紙は来ないのだ。
 学校への入学が決まった際に、バーソロミューとそう決めた。
『別にこれは強制じゃないし、やらなくたってもちろんいい』
 バーソロミューは猫のように唇をにんまりさせて挑発してきた。
『君が答えを送ってくる限り、私は講義を続けるとも』
 十三歳になって手足の伸び始めた頃だったパーシヴァルは、それでもまだ女性としても長身のバーソロミューには届かなかった。彼女を見上げて、『よろしくお願いします』と告げた。
「五年ぶりです、先生」
 声も低くなった。背もさらに伸びた。体格もしっかりとした。
 目を細めて、パーシヴァルは呟いた。