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留守田
2025-04-18 23:14:09
11355文字
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詩のはなし
自Tav(ヴァリス)君は本編中に恋人に詩を書いて贈ってたんだよ、という小話です。ちらのーとに投稿していた物のまとめ+加筆版になります。
※独自解釈・脳内設定マシマシな上にヴァンパイアの花嫁化、オリジンキャラクターのコラボ先での非公式な設定を含みます。
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4
5
Epilogue
アヴェルヌスへ行ったウィルとカーラック、ドラゴンに乗って次なる戦いへと飛び立ったレイゼルを除いて、残りの面々は生きている事を祝うささやかな酒盛りを野営地で行い、大いに生きている喜びを分かち合った。
そうした馬鹿騒ぎがひと段落した後、恋人は焚き火を見つめるアスタリオンの側へ寄り添い
……
約束を果たすようせがむのであった。
「アスタリオン、早く燃やしてくれ」
煌々と燃える焚き火の前で、アスタリオンは折り畳んだ紙を持っていた。
もちろん、中身は愛しい恋人の書いた詩ではない。昔描いた
かつての主人
カザドール
の肖像画だ。あの忌々しい顔を描いて肌身離さず持ち歩いていたのは、いつか対峙しなければならない事実を忘れないようにするため
……
……
そうであれば、どれだけ良かったか。結局、奴は俺の心の奥深くに居座ったままである事の証左でしかなかった。
憎たらしい。だが、忘れられない。奴から受けた仕打ちも、這い上がったばかりで土に塗れていた俺の手に差し出された奴の白い指先も、全て。
「その前に何か言うことがあるんじゃないか、ダーリン」
アスタリオンが笑うと恋人はひとつ咳払いをして、酒が回って温かくなった身体を抱きしめる。
「
……
愛している、アスタリオン。お前は私を育む甘い蜜、私を捕える優しい枷、唯一無二の私の家族だ」
ひんやりとした手がアスタリオンの首に残る牙の痕に触れ、そして頬に添えられた。
家族。ヴァンパイアにその概念は斬新と言うほどの事でもなかったが、アスタリオンは言われるまでその事実に気付かなかった。
敢えて気取った言い方をするなら、血族とでも言うべきか。
下僕を侍らせるような統治を薄っすらと思い描くばかりだったが、ロクでもない父親と二人で暮らす事が家庭だったと言う我が配偶者の為に、
落とし子
スポーン
達を家族として迎え入れるのも悪くない
……
かもしれない。
「私の伴侶にして
主人
あるじ
、そして王でもある。ああだが、下僕として
傅
かしず
くには愛おしさが過ぎるな」
そのまま両手で顔を包まれて、彼からも笑顔が返ってくる。
少し悪戯っぽい、けれども心の底から幸せそうに微笑む彼の表情が、何よりも誇らしく愛おしい。
「
……
ダーリン、また詩を書いてくれるか?」
「もちろん、その
……
今まで読んだ通り、あまり得意じゃないが
……
それでも良ければ」
目を逸らし、サッと頬を赤く染めて答えた配偶者にアスタリオンは笑う。
「ハハハ! 役者も形無しだな、ダーリン?」
そして折り畳まれた紙を、燃えている焚き火に向かって放り投げた。
紙はあっという間に火に呑まれ、黒く焼け焦げて行く。
過去の犠牲者や兄弟姉妹達の魂と引き換えにアスタリオンは自由と力を得て、そしてその自由によって、最も貴い宝を得た。
犠牲にした魂のためにも、傍にある宝物のためにも、俺は
……
二度とあのスポーンを生み出してはならない。
背に契約を刻まれた、弱くて惨めなスポーンを。もう犠牲は沢山だ。
支配者としてこれから数多くの命を踏み躙ることは変えられないが、力のある今なら踏み躙る命を選ぶことは出来る。
俺や家族に歯向かわないのなら、多少は色々な物を見逃してやってもいいだろう。
力とは結局道具であり、持つ者の使い方次第だ。それはこの恋人が証明した。ネザーブレインを支配するのではなく破壊したように、世界を支配するための力は、世界を救う事が出来る。
……
また世界を救おうなんて気は更々ないが、いつか世界を薄暮に包んだ暁には、以前よりもより良い統治をしてやるのも悪くない。
だが、それは当分先の話だ。
「
……
俺も詩を書いてみるか」
「えっ?」
「そんな顔をするな。紙に書く、お前が贈ってくれたような詩だ」
今はもう一本ワインボトルを空けて、酒に酔える自由を謳歌していたい。
「ベッドの上で互いを貪るのも悪くないが、詩を交換するのも楽しそうじゃないか、ダーリン?」
アスタリオンが転がるボトルの中から、まだ奇跡的に手が付けられていなかったワインボトルの栓を抜いてラッパ飲みをする。
グラスなんて使って上品に飲む時間はとうの昔に過ぎ去ってしまった。
「あ
……
あぁ、そうか、あらゆる楽しみの一つではあるよな」
「酒も回ってきた。今ならお前の愛おしさを讃える言葉の三つや四つぐらい浮かぶだろう」
……
しかし、この旅で見てきたあらゆる物はどうにも隣の恋人と比べると全て見劣りするものばかりのような気がして、アスタリオンは中々次の言葉を紡げない。
「
……
アスタリオン、私を見つめていて何か思い浮かぶのか?」
恋人の優しい微笑みが、煌々と燃える焚き火に照らされる。出会った時には海の色を宿していた瞳は、血の色に染まり幸福に歪む。かつて万人に喜びを振りまいていた旅芸人は、今やたった一人のためだけに微笑み膝を突く。他でもない、俺のためだけに。
恋人が観客や神々を捨て堕落する様こそ美しいのだと気付いたアスタリオンは彼を押し倒すと、何事か騒ぐ前にその口を塞いでしまった。
この身体も、燦然と輝く魂も、いつ覗いても俺を想っているいじらしい心も、全て俺へ捧げられた物だ。
しなやかな四肢が、悦びに跳ねる様を知っている。狂おしく俺の名を呼び、快楽に堕ちていく様を。
魂は穢れ、神々がもうこの魂に手出しすることはない。元から連中は救いすらしないが。
そして心は奪い、彼が芸を通じて万人へ奉仕することもない。むしろ、万人が彼に奉仕するべきだ。
「
……
お前は俺の半身だ。喜びも苦しみも分かち合う、美しい闇の配偶者。俺の恋人、俺の宝物、俺の
……
」
献身に見合う相応しい言葉が酒の回った頭からは出て来ず、アスタリオンの唇が止まる。
「
……
ペット?」
「
…………
ダーリン、少し考えさせてくれ」
言葉を探そうと脳内の辞書を捲り始めたアスタリオンを、恋人が優しく見守っていた。
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