留守田
2025-04-18 23:14:09
11355文字
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詩のはなし

自Tav(ヴァリス)君は本編中に恋人に詩を書いて贈ってたんだよ、という小話です。ちらのーとに投稿していた物のまとめ+加筆版になります。
※独自解釈・脳内設定マシマシな上にヴァンパイアの花嫁化、オリジンキャラクターのコラボ先での非公式な設定を含みます。

Act1


……地獄語で書かれた詩か」
 森の中、甘い情事の後としては辛い捨て台詞と共に一人取り残されたヴァリスは気怠い身体をなんとか動かし、乱雑に脱いだ服を拾い上げて呟く。
 ヴァリスは詩作に多大な苦手意識があるため詩を書きはしないが、曲がりなりにも吟遊詩人バードを志した身として読むのは好きだった。
 それでも地獄語の詩は読んだ事も聞いた事もない。ティーフリングの同業者が居たとしても、普通は理解出来る者の少ない地獄語で詩作などしない。
 確かに吟遊詩人バードの秘術を相手に使うには発した言葉が相手に理解される必要は無いが、それはあくまで秘術を使う時の話だ。
 ……詩の意味は残念ながら分からないが、きっと洒落た愛の詩などではないだろう。
 情事の最中、快楽に茹った頭で彼の背に手を回した時に指先で感じていた違和感の正体を知って、ヴァリスは思わず吐き捨てるように舌を打つ。
 つい先程、陽の光の元で見た蚯蚓みみず腫れと化して盛り上がった傷痕はちゃんとした手当がされていなかったのだろうと推察するのには十分で、伝承に伝わるヴァンパイアの自然治癒も完全には働いていなさそうな所を見るに“治すな”と命じられたのか、或いは治らないよう傷付けられた傷なのか……
 下劣な肉欲をぶつけ、元々稽古と称して父親に仕込まれていた私の身体を更に堕としておきながら時間の無駄だと言われた事にも腹が立つが、真珠のように美しく滑らかな彼の肌に傷がある事の方がより腹立たしい。
 コアロンもこの事を知れば嘆くだろう。彼のいっとう深い悲しみから生まれた被造物が過酷な運命を辿り、私よりずっと酷い傷を負っているのだから!
……コアロンよ、お聞きください。彼の……幾許かの慰めになるには、何が必要でしょうか」
 よれたままの衣服を着て、ヴァリスは片膝を土に突いて祈る。
 芝居の前に神の加護を祈る事は今まで数え切れないほど行ってきたが、こんなにあやふやな閃きを乞うのは初めてだ。
 アスタリオンは私が今まで出会ってきた人々の中でも五指に入るほど美しいが、惚れていると勘付いて私を誘った人物は今まで居ない。
 そして、誰かに抱かれたのも……あの稽古を除けば、初めての体験だった。
 好いている相手との情事は刺激的で、甘くて、抱かれる女人はこんな思いをするものなのかと知った。これだけ幸せなひと時を過ごせるのなら、私に抱かれたいと楽屋を訪ねる観客が居たのも納得出来る。
 父親との稽古を通して知ったのは苦痛とこの行為が金になるということだけであったから、正に目から鱗だ。
 ……吸血されながらの行為が恐ろしいほどの官能を産むのは、知らない方が良かったかもしれないが。
……う」
 昨晩の事を思い出しては股座が痛む。
 視線を下へ向ければ、誇らしさを通り越して恥ずかしいほど布地を押し上げている愚息が見えた。
 歳を考えろ、と説教をしてやりたかったが、事実勃っているのは自分のモノだったので乾いた笑いしか出てこない。
「は、はは……不味いな」
 今から擦って発散させてやる時間はない。日の傾きと明るさからして、そろそろ野営地に戻らなければ心配されるだろう。
 何か萎えさせる手段は無いかとアテもなく立ち上がり、ヴァリスは……閃いた。
 敢えて苦手な詩作に打ち込めば、それどころではなくなって愚息も落ち着くのではないかと。
……珊瑚のように……いや、違うな。あの赤い瞳はガーネット……安直過ぎるか?」
 呟きながら野営地に戻っていく彼の後ろ姿を、たまたま側にある木の枝に止まった小鳥が見下ろしていた。