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きなこ
2025-03-29 15:39:34
3079文字
Public
ワグボク
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【ワグボク】ワグナスとボクオーンの休日
ワグボク
お休みの日(ワグナスはサボりだけど)にボクオーンの部屋でのんびり過ごす二人の話。多分。
注意事項は、お料理ができないワグナス様がいたり、お仕事をサボってしまう不真面目なワグナス様がいたり、寂しがりのボクオーンがいたりします。
ワグ・ノエ・スビの関係に嫉妬している話の2ページ目の続きっぽいけど、単独でも読めるようには調整しています。多分。
この辺が同じ世界観の話。時系列順
ロックブーケを泣かしちゃう話。
https://privatter.me/page/677fd5d964219
ワグ・ノエ・スビの関係に嫉妬している話。
https://privatter.me/page/67bb2d30ae48a
ワグボクで過ごす休日(これ)
https://privatter.me/page/67e795a669019
ノエルとお話をしている話
https://privatter.me/page/67f3d1eec52df
ワグナスとスービエの深夜の飲み会
https://privatter.me/page/6807a10425466
子供の笑い声が聞こえた。
窓から吹き込む風が、ゆらゆらとカーテンを揺らしている。うっすらと開いた金色の瞳がそれを映し、翻った布の隙間から漏れる強い陽射しから逃れるように伏せられた。
まどろんだ意識の中で、熱を求めて手を伸ばす。
寝る前に確かにそこにあったはずの温もりを探り当てることができずに、手はシーツの上を彷徨った。
冷たいベッドの上で、シーツの皺を指でなぞる。ここは一人暮らしの自分の部屋のはずなのに、ワグナスに抱き締められた感覚が残っていて、寂しさが胸に広がってくる。眠りが深かったのか、彼に愛されていたのが一瞬前の出来事に感じられ、突然放り出されたような心地だった。
子ども達が遊ぶ賑やかな声と道を歩く大人達が話す声が遠くに聞こえる。
わずかに冷気を含んだ風に当てられて、冷えた心と体を温めるように毛布を頭から被った。
体が泥沼に沈んだかのように重い。
昨晩ワグナスが部屋を訪れてきて、その後寝る間もなく昼までたくさんの愛を注がれ、彼の腕の中で眠りについた。
忙しい人だから仕事に戻ったのだろうか。去る前に声くらいかけてくれれば良いのに。
寝不足の頭は靄がかかったようにぼんやりとしていた。
かちゃりと扉が開く音が聞こえた。
足音とともに床が軋む。
毛布の隙間から覗くと、いつもの白い服を着たワグナスが抱えていた紙袋をテーブルに置く姿が見えた。
彼が戻ってきた。それだけのことで、迷子のように不安で黒く塗りつぶされていた心に光が差した気がした。
体を起こすと毛布が滑り落ちて、白い肩が露になる。
「ただいま」
微笑み告げられるその一言が胸に染みる。
「食べる物を買ってきた。少し冷えてきたから服を着て
……
どうした?」
ワグナスは言葉を止め、案ずるような表情になった。彼はベッドに腰を落として優しい手つきでボクオーンの頬を撫でた。まるで涙の痕を拭うように。
「夢見でも悪かったのか?」
手を伸ばすと抱き寄せてくれる。外の空気を浴びた服はひんやりと冷たいのに、ボクオーンの心に温もりが移ってくる。
だけどまだ足りない。もっと熱が欲しい。
「抱いて」
耳元で囁くように告げるとワグナスの肩が揺れた。
至近距離で彼のグレーの瞳を見つめれば、長い睫毛がパチパチと動いていた。
「体は大丈夫か?」
頷くと、彼の瞳に情欲の火が灯されてきらりと輝いた。ボクオーンは自分を欲しているその表情に満足げに微笑んで唇を合わせた。
「ずいぶんと買ってきましたね」
情事のあと、重い体を引きずってテーブルの前で紙袋の中身を検分した。
胸の中にたまっていたものを欲とともに吐き出せば、頭はクリアになってきた。
先程は変なスイッチが入っていた事に羞恥を覚える。誤魔化すように別の話題を振っているというのに、ワグナスは行為の余韻を含ませたままでニコニコと微笑んでいた。最中もしきりに可愛いと連呼していた彼は、ご機嫌だ。
「パン、果物、チーズ
…
はいいとして、他は調理しないと食べられませんね」
出来合いのものを買って来れば良いのにと思ったが、わざわざ買ってきてもらったので、文句は言わないでおく。そもそも、貴族出身のワグナスが露店で物を買って来ただけでも驚嘆に値するのだ。
「何か失礼なことを考えていないか?」
うっかり顔に出ていたようだ。ボクオーンは咳払いをして誤魔化すように口を開いた。
「何か食べたいものはありますか? 作りますよ」
ワグナスは釈然としていない様子だったが追及はしてこなかった。
「君は疲れているだろうから、私が何かを作ろう」
「
……
。参考までにお尋ねしますが、料理の経験は?」
「野営の時に見ていたから何とかなるだろう」
なるわけないだろう、と心の中でツッコミを入れる。とは言えやる気になっているワグナスを邪険にするわけにもいかず、何か役目を与えるしかないかと苦笑を浮かべた。
結論から言えば想像以上だった。だめな方の意味で。
野菜を刻むだけなら何とかなるかとお願いをしてみたが、几帳面そうに見えるワグナスの仕事は散々だった。そもそも、手を刻みそうで怖すぎる。目が離せなかったので、ボクオーンの作業が進まなかったほどだ。
仕方がないので、ボクオーンはワグナスに水煮したひよこ豆をすり潰してもらった。パンに付けるためのディップだ。
その作業の後は何もしないで欲しかったので、ワグナスの温もりを感じていたいと適当なことを言って、背中に貼り付いて貰っている。
今は具沢山スープを煮込んでいるところだ。
「神殿の方は良いのですか?」
「スービエに病欠の連絡を入れてもらうことになっている」
「それは、サボりじゃないですか
……
」
呆れたように告げると、ふふっと軽く笑う声が上から降ってきた。
「はじめての経験だな。だが、今日は君とともに過ごしたかった」
鍋の蓋を開けると、湯気と一緒にハーブの仄かな香りが漂う。ワグナス作の分厚い野菜には火が通ってなさそうだ。やる気を削ぐのはよくないので次回へ向けての指摘のみとしたが、遠慮をしないでもう少し刻んでやればよかった。
「ただいまと君に言えるのは良いなと思った。ささやかだが、幸せだと感じたよ」
背中に抱きついているワグナスを仰ぐと、彼は外を見ていた。その視線を追うと夕焼けの空があった。沈みかけの夕日の残光が、雲の輪郭を黄金色に縁取っていた。群青色の空に溢れた出した光が幾筋もの光の帯となって地上へと降り注ぐ。その神々しくも優しい光は、まるでワグナスのようだとボクオーンは思った。
眩しさに目を細める。
ターム問題だけではない。世界は滅亡へと突き進んでいるという噂もある。本当のところは知る由もないが、ボクオーンが握っている情報によればその期限は間近らしい。神官たるワグナスは正確な情報を把握し、その対策にも追われているはずだ。
「このような時間を過ごすことは、とても罪深いことのように思えますよ」
ワグナスがボクオーンを抱きしめる力が強くなる。
「今日は良い」
しばらくの間、互いの温もりを感じながら外を眺めていた。
ことことと鳴る鍋。
外から聞こえてくる誰かの声。
鳥の鳴き声。
時間の流れがゆっくりで、とてものどかだった。
幸せなんて、何かの気まぐれで一瞬にして壊れてしまう物だから、永遠なんて信じていない。だが、この時間がもっと続けばいいのにと思った。
そろそろ大粒の野菜にも火が通った頃か。蓋を開けて葉物を入れ、味を調える。ワグナスはその手際の良さを感心したように見守っていた。
ワグナスにも盛り付けをお願いして、食事の準備を進める。ようやく回ってきた役目にワグナスも張り切り、それを見つめるボクオーンの顔にも微笑みが浮かんだ。
テーブルに並べられたのは、素朴ながらも温かみのある手料理。湯気を上げるスープ、少し硬めのパン、そして肉とチーズとディップ。テーブルに並んだ食事を挟んで二人で座り、ワインを注いだグラスを鳴らす。
温かい食事を味わいながら、仲間の噂話などの軽い話を楽しんだ。とても穏やかな時間だ。この部屋で誰かとともにする食事ははじめてだった。
ふと視線が交わる。
「すべての問題が片付いた時は、ずっとこうして君と暮らしたいな」
そうだな、と思う。だけど約束することは憚られた。
だからボクオーンはそっと微笑みだけを返した。窓の外では夕焼けが静かに夜に溶けていくのが見えた。
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