riririnf
2025-03-15 10:03:45
40169文字
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ラスト・ワルツ

ヌヴィフリ逃亡書いてみた⑥
この話で璃月プレイアブルキャラは全員出した筈
(名前のみ、台詞のみ、匂わせのみ含む)
あと一話で完結予定。



「──振られちゃったね、鍾離先生」

 楼橋の上、沈む夕日に影をより長くする長身に笑いかけると、一人佇む影──鍾離はゆったりと振り向いた。 
 その顔は予想の通りに穏やかで、手には琥珀が煌めく髪飾り。
「振ったのは俺の方だぞ?」
 しゃらり、とさげ飾りを揺らしながら、鍾離は口の端を上げた。
「見ていたのか」
「うん、全部」
 旅人とパイモンは、物陰からこっそり二人のやり取りを見守っていた。フリーナが心配だと、ヌヴィレットに頼まれたからだ。
 鍾離に限って滅多なことにはならないとは思ったが、そこは心配性な友人を安心させる為と、旅人自身、鍾離とフリーナの行く末が気になったからでもある。
 鍾離も自分たちの気配に気付いていたくせに、とは思うものの、それには触れない。それよりも大切なことがあるからだ。
「おい、鍾離!契約ってなんだよ!そんなこと、オイラたち知らないぞ!?」
 こんな時、以心伝心、最高の仲間パイモンは、旅人の言いたいことを見事に代弁してくれる。
 鍾離とフリーナの関係が契約によるものだと分かっていたら、もう少し気楽に群玉閣での顛末を待てたというのに。
 鍾離はともかく、フリーナから鍾離への心情はいまいち読めなかったから、すわ三角関係か、だなんて無駄に緊張してしまったではないか。
 そう──三角関係。ヌヴィレットとフリーナが過去、恋人関係にあったことすら、旅人とパイモンは二日前の夜に知ったばかりだ。
 自分の不実が別れの原因だ、と神妙な面持ちで述べるヌヴィレットは、けれどもフリーナの説得に妙に自信ありげでもあった。
 そのくせ策を訊ねれば、郡玉閣に誘い込んだ後のことは、押して押して押しまくる、なんて身も蓋もないパワープレイを語るのだから、これは自分達の感覚がおかしいのか?とパイモンと顔を見合せたものだ。
 ──本当に、契約のことだけでも聞かされていたら、もう少しだけ心労が減ったのに。
「そうだったか?」
 恨みを込めた視線を送る旅人と、怒り心頭に噛み付くパイモンなど意にも介さず、鍾離の返答は素っ気ない。
 キー!と空中で地団駄を踏むパイモンと、楽しげにいなす鍾離。ここ数日で何度も見た光景だ。
 そしてこの先の展開も──これ以上追及しても無駄だろう、ということにも予想がついてしまう。
 だから旅人は気持ちを切り替えて、どうどう、とパイモンを宥めながら、別の疑問を口にする。
「もしフリーナとヌヴィレットが上手くいかなかったら、どうするつもりだったの?」
 契約のもと、一生恋人でいるつもりだったのか。
「──さてな」
 鍾離は夕日を照らしてキラキラと輝く海──その更に向こう、これはフォンテーヌの方角だろうか?──に目を向けた。
「だが実際には、そうはならなかった。それが全てだろう」
 その横顔に浮かぶ色に、そういえば、このひとはこういうのが好きだったなあ、と旅人は思い出す。
「俺も驚いたぞ。まさかお前たちがフリーナ殿を罠に嵌めるとは、予想していなかった」
 海からこちらに視線を戻す鍾離の指摘はもっともだ。
 フリーナを罠にかけること。それは彼女が演じた五百年の歌劇、その終演の再現だ。
 あの日、自分たちはフリーナを審判の場に引き摺り出す為、仲間と結託して彼女を騙した。
 それはフォンテーヌを予言の危機から救う為であり、絶対に必要なプロセスでありはしたけれど、あの瞬間フリーナは間違いなく、裏切られたと思ったことだろう。そしてそれは今もなお、彼女の心の奥底に、疼痛として刻まれているのだろう。
 そんな悲劇を再演することは、彼女の傷を呼び起こし、新たに傷を増やすこと。今回自分達が書いたのは、そういう脚本だ。
 結果だけ見れば上手くいったし、フリーナは昔も今も、誰のことも責めないけれど、だからといって赦されることではない。
 ──それでも今は、あの頃とは違うことがある。
「だって、鍾離先生がいたから」
「俺が?」
 鍾離は琥珀の瞳を僅かに見開いた。
「鍾離先生なら、ちゃんとフリーナをフォローしてくれたでしょ?」
 今は自分たちも友人と呼べる間柄になっているし、鍾離以外にもフリーナは存外多くの人と縁を結んでいるようではあったが、やはりこういう時、“恋人”という味方は絶大だろう。
「だから私たちも、思いっきり動けた」
 あの頃とは違い、フリーナは独りではない。敵に回すとこの上なく厄介な、けれど味方にいると最高に頼もしい、そんな存在が、そばにいたから。
「ふむ。どうやら俺は利用されてしまったらしい」
「そうだぞ!ざまぁみろ!」
 台詞に反して全く気にした様子を見せない鍾離だが、それでもパイモンは煽りにかかる。まるで巨岩にそよ風を吹くが如く。
 そんなパイモンが哀れになった訳でもないが、旅人も一つ加勢する。
「でも、そういうの大好きでしょう?」
 ひとが自らの思惑を越えていく様を、見ることが。
 鍾離は、ぱちりと瞬いて、ゆるりと口元を緩ませる。
「──ハハッ、違いない」
 それは実に嬉しそうな笑みだった。
「今日はとても気分がいい。共に夕食でもどうだ?俺の奢りだ」
「おおっ!ほんとか!?」
 類稀なる食いしん坊パイモンは、目をキラつかせて鍾離の誘いに食いついた。
 無邪気に喜ぶパイモンには悪いが、もうオチは見えている。ただまあ、ここは何も言わず、結末を見届けるとしよう。所謂お約束だ。
 旅人は唇に弧を描き、歩き出す二人の背を追った。