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シノハラ
2025-03-12 22:29:04
12842文字
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アルカヴェ♀
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アルカヴェ♀まとめ(6本)
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酒のツケ
2023年3月6日 カーヴェ実装前だったので齟齬の塊
業腹ではあるものの、カーヴェは今あの家の家事全般を取り仕切っている。となれば日常の買出しもカーヴェの仕事であり、例の家主は定期的に二人分の生活費として金銭をカーヴェに寄こしてきていた。就いている役職故に懐事情が温かいのもあってか、ある程度余裕がある額であるためこの点については文句はない。
そして、これはおそらく彼の気質由来なのか、生活費の残金を確認してきたことは一度もなかった。多少であればカーヴェの懐に入れられても気にしないつもりでいるらしい。
自身の稼ぎは自由に出来ないようなものなので、毎月ちまちまと残した金でカーヴェは飲みに出るようにしている。そのつつましいルーチンから逸脱してしまったのは、半月程前の出来事だった。
事の発端はカーヴェが少々計算を間違った点にある。いや、実のところ分かっていたのだが、どうにも辛抱ならなかったのだ。久々に入ったと言われて次々と注文される評判の酒を見て我慢ができる性質であるならば、そもそも飲み屋になど来ていない。
堪らずに頼んだアルコールはそれはそれは甘く、手元にあったつまみは少々合わないように思えた。だから料理を追加して、酒もなしにつまみを突くのもつまらないのでさらに酒を頼んでいるうちに、皿洗いをした程度では許されない程度には飲み食いをしてしまっていた。
顔見知りとはいえと渋い顔をした店主を前にして、咄嗟に出てきたのは彼の憎たらしい家主の名前だった訳である。
「まさか本当にツケを払いに行くなんて!」
常日頃から一刻も早く家に帰りたがっている彼がこの時間に在宅していないはずがない。居間の扉を開けた瞬間に大声で喚くと家主は少しばかり逡巡してから、本から顔を上げてカーヴェを視界に収めた。作った張本人が何を言っているのかとちくちくと刺さる視線を感じながら、それでもカーヴェは引き下がる訳には行かなかった。
「僕が直接君に無心をしてしてでも払いに行くつもりだったんだよ!」
「俺の金を払うのには変わりない」
「そこは変わらないが全然違う!」
片手に乗せたままだった本を掬い上げてテーブルに置くと、脚を組んだままアルハイゼンがカーヴェを見上げてくる。妙な部分に拘っていると思われているらしく、アルハイゼンからは呆れたような面倒くさそうな雰囲気が漂っていた。どうやら彼は自身の行動がどんな結果に辿り着いたのか、これっぽっちも分かっていないらしい。予期できなかったのはカーヴェもなのだから、安易に非難はできないのだけれど。
「手紙で催促が届いた。無視できるはずがないだろう。うじうじと躊躇っていたのが悪い」
たしかに自分のできる範囲で解決しようとして、期限の半分を無駄にしてしまったのはカーヴェである。でもまだ半分も猶予があるというのに、わざわざ催促をしなくても良かろうに。そんなにも自分はあの店の店主から信頼がないのだろうかと思うと、少し悲しくなってしまった。
「嫌じゃないのか、他人の作ったツケを払いに行くなんて」
しかも相手はカーヴェなのだ。何が悲しくて喧嘩別れをした相手が勝手に作ったツケをわざわざ支払いに行く必要がこの男にあるというのだ。そんなことを言ってしまえば、そもそもなぜ自分がこの家で暮らしているのかという話になるのでぐっと飲み込まざるを得ないのだが。
「少々飲むついでに」
「いや、そういう話じゃなくて」
「
……
まあ、懐事情も考えず飲みに行くほど浅はかだとは思っていなかったよ」
「そこには僕にも非があるのは認めざる得ないけどそうじゃなくて、そういうことをしたら分かるじゃないか、その
……
おい、読書に戻ろうとするな!」
「なら早くはっきり言ってくれないか?」
時間の無駄だと思ったのか、アルハイゼンはカーヴェが取り上げた本に再び手を伸ばす。カーヴェの盛大な静止にも関わらず、彼はぺらぺらと今まで読んでいた場所を探しながらさっさと話を終わらせに掛かってくる。カーヴェだって、随分と煮え切らない非難をぐずぐずと続けている自覚はあった。
あったが、そう簡単に言えるものではないのである。こちらにろくに意識を寄せない彼から視線を外して一度大きく深呼吸をしてようやく告げられるくらいの、それはもう大層な出来事があったのだ。
「僕が払いに行けば言葉の綾みたいなものですんだんだよ! アルハイゼンは払わないけど、話が行けば絶対に文句を僕に言いに来るし、そうすれば僕が払わざるを得ないっていう構図で店主も安心で
……
! ああもう、本当に分からないのかい⁉ 君が本当に払ってしまったら、僕と君の間にただならぬ関係があると思われても仕方ない! というか現にそう思われていて飲み友達から振られまくってる!」
アルハイゼンが遮音をしていない限り耳に届いているだろうくらいの勢いで深呼吸をして意を決したというのに、結局核心に行き着くまでそこそこ遠回りをしてしまった。そう、カーヴェは今宵、それなりに付き合いのある飲み仲間達からやんわりと卓につくのを拒否されたのである。
理由は他でもない、彼氏持ちの女と飲んではろくな事にならないという彼らの勘違いによる杞憂だった。そう気がついたのは一人で飲むのも味気なく感じ、生活費から捻出した金でツケだけ払って帰ろうとした時である。踵を返して弁明しに行こうかとも思ったが、自分達の関係を明らかにしないままうまい事帳尻を合わせられずに、気づかないふりをして家までとんぼ返りしてしまった。
「ああ、その点か。俺は別に困らないから気にしていなかった」
「僕は困る!」
ぱちりと一つ瞬きをしてから、アルハイゼンは事も無げにカーヴェに言い放つ。ちょうど本の続きのページにまで辿り着いたらしく栞を挟んだ彼が、深く腰掛けていたソファからすくりと立ち上がった。
元々筋骨隆々と表現すべき肉体を持つ人物であるのは理解しているが、視界の下に合った顔が突然見上げなければならない場所に移動するのはなかなかに威圧感を覚える。質量の移動の圧に負けて一歩下がりながら文句を続けるカーヴェに今度は一瞥もくれず、アルハイゼンは自室に向かって歩き出した。
どうやら彼はカーヴェの用件がこれで終わったと思っているらしい。せめて背中が見える間は何かしらの罵倒を続けてやろうかと思ったが、実際本題が終わってしまっていたためうまい言葉が見つからなかった。
結局黙って彼が自室に戻るのを見送ってから、カーヴェはアルハイゼンが使っていたソファに深々と息を吐きながら腰を下した。自分の名誉のためにも、気分よく酒を飲むためにも彼らの勘違いは正さねばならない。困ったものだと苦言を吐いて、カーヴェは体に馴染んできたソファに背中を預ける。
「
……
こまらない? なんで?」
それから最後に聞いた家主の言葉を反芻して、思わず身を固めてしまう。自分以外の体温が残るソファを途端に居心地の悪さを感じながらも、カーヴェは終ぞ彼の言葉の意味するところを絞り込むことも席を立つこともできなかった。
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