シノハラ
2025-03-12 22:29:04
12842文字
Public アルカヴェ♀
 

アルカヴェ♀まとめ(6本)



先輩に甘やかしてほしい後輩
2023年9月25日

「きみだけだよ。好きになったのも、今好きなのも君だけだ」
 そう、ぎこちなくアルハイゼンの背に腕を回したカーヴェが細い声で告げた。緊張して頼りない声音に込められた言葉が思考の歯車に負荷をかけ、ぎしりと音を立てて動きが鈍くなったのを感じる。アルハイゼンの背にぺたりとついている手のひらと、指の一本一本にばかり意識が割かれてしまう。血が頭に送られる一方で、首から下に落ちていかないような熱さ。ふつふつとゆだってしまうのも時間の問題かもしれない。
 きっかけは、アルハイゼンがカーヴェに甘やかしてほしいとねだった事だった。定時内には収めてはいたが、ここ最近やたらと仕事が立て込んで気疲れをしていたのだと思う。久々に完全な連休を取るのだと解放感に溢れた声で表情を綻ばせた彼女を見て、背中を丸めてカーヴェの肩口に額を乗せてしまった。
 いくらか順番を間違えてようやく最近関係の区分を更新したアルハイゼンの行動に、カーヴェは慌てたようだった。恋人の要求として問題ないと理解しつつも、うまく飲み込めていないのかぱたぱたと手が行き場を失ったように宙を泳ぐ。
 彼女はアルハイゼンを甘やかすのが上手だと思っていたので、正直なところそれなりに意外な反応だった。学生時代にはやたらと甘やかされた記憶があるのにと申告すると、あれは後輩に対しての奴だろうとからかわれたと思ったのか少々語気を強められる。
 言われてみればそうかもしれない。アルハイゼンだって、ただの先輩後輩の間柄だった頃にこんな甘え方をしたことは一度もなかった。
 君だってそんな風に甘やかされたいわけじゃないんだろう。そう、少し不安そうにカーヴェが口にしたかと思うとしばらく黙り込む。アルハイゼンがさすがに引き下がるべきかと迷い始めた頃になって、カーヴェはおずおずとアルハイゼンを抱き締めた。
「こんな歳になって言う事でもないんだけど」
「ああ、そうだろうな」 
 恥じ入る彼女の言葉を肯定すると、う、とカーヴェが短く呻く。いや、正論なのは分かっているけど、とストレートな肯定が受け入れ難かったのか少し拗ねたような声でカーヴェがぐずった。
 その続きがありそうな気がしたが、それよりも先にアルハイゼンは額を彼女の肩から離して額に口づけを送る。ぴしりと固まった彼女をいい事にそのまま額を擦りつけて彼女の首の角度を変えてやって、アルハイゼンはカーヴェの鼻先に自身のそれを擦り合わせた。
 至近距離で見つめる瞳がしぱしぱと不自然な頻度での瞬きで隠され、くるりと円を描く睫毛が光を弾く。それからアルハイゼンの意図を察したらしく、ぎゅっと瞼の閉じる力が強まって開かなくなり、艶のある睫毛が小さく震えてアルハイゼンの背に回っている指の腹が少し押し付けられる。
 年齢を思えば、あまりに初心な振る舞いに本来であれば呆れてしまうのが適当なのかもしれない。それなのにその一つ一つが愛おしくて堪らなく感じるのは、自分の方にも経験が足りないからなのだろうか。
「そんなことを言われて喜ぶ歳でもないはずなんだろうが」
 片手で耳を挟みこむようにしながら彼女の顎を捕らえて、アルハイゼンはカーヴェの唇に口づける。唇が僅かに重なった状態で囁けば、強く瞑られていた瞼がぱちりと開いた。アルハイゼンの声音に乗った感情を上手に聞き取ったらしいカーヴェが、眼差しの中にあるだろう色を見て表情を緩める。そうかもしれない、と囁き返す彼女の声は甘く優しく溶けている。
 その甘美さに誘われて彼女の腰を引き寄せると、カーヴェが逆らわずに腰を少し反らせて自身とアルハイゼンの腹の間にあった隙間を埋める。そのしなやかさと胸の柔らかさに魅了されながら、アルハイゼンは誘われるように口づけを深くした。