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シノハラ
2025-03-11 20:24:14
20206文字
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ヌヴィフリ
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ヌヴィフリまとめ(6本)
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薄氷のひと ※4.3の頃大捏造で書いたやつです
2023年11月6日
フリーナの首には傷がある。まるで彼女の首を切断するように走る痕は事実、彼女の首がすぱりと切り落とされた過去を示していた。
彼女の性質を考慮すれば、そもそも傷なんてものは残らないはずである。そう指摘されたフリーナはその場で苦もなく傷痕を掻き消して見せたこともあり、彼女の首の傷を知る者はほとんどいない。
精神的なものだろうと結論付けられているそれがトラウマのように見えるのがよろしくない、と彼女は自らの傷痕を評価する。全然怖くなかった!
――
と言えば嘘になるけど、とフリーナは少し声を潜める。それどころじゃなかったし、それに水神フリーナの集大成でもあった。節目みたいな意味は大きいんじゃないかな。今の、ただの僕の始まりの印。そういう自意識がそうさせるのかもね。
「だから、キミはそんな顔しなくていいんだ」
そう困ったように笑って、フリーナはヌヴィレットの目尻を人差し指の背で撫でる。その時、自分がどんな顔をしていたか今になってもヌヴィレットはこれっぽっちも分からないままだった。
公に出て公務をする事がなくなった手前、あからさまな虚勢や芝居がかった振る舞いは幾分か影を潜めたと周囲から彼女は評価されている。ヌヴィレットも基本的には同意するところだが、日常的な彼女はそこまで大きくは変わらなかった。
五百年間を演じ切るコツはなるべく自己と方向性を乖離させないこと、と彼女は語る。つまるところ、国民からマスコットとして可愛がられていた部分も全くの虚像ではなかったということだ。故に、彼女はいまだにこの国でまあまあ可愛がられていると言える。
そんな可愛いフリーナに傷があるなんて思わせるわけにはいかないと、フリーナは日頃から首元から傷を消すようにしているらしい。けれど、気を抜いた時や余裕がなくなった時、それはほんの少し浮かび上がって彼女が好む襟の高いシャツから微かに覗いてしまうことがある。首に傷があると知らなければ分からない程度の物だが、最近では七聖召喚の大会で大きなミスをして一気に劣勢に追い込まれてあたふたしていた時に薄っすらと首を色づかせてしまっていた。
公衆の面前では隙を見せる一方で、フリーナはヌヴィレットと対峙している時に限っては絶対に傷痕を見せようとはしなかった。どんな醜態を見せようと、さめざめと悲劇のヒロインよろしく嘆いていようと彼女の首筋は誰も足を踏み入れたことのない雪原のような様を保っている。
旅人に付き合ったら大変な目に遭ったと主張しながら菓子を齧る今もそれは変わらなかった。聞いていた話とは全く違う展開に巻き込まれ、それなりに危ない目にもあったらしい。埋め合わせがなければ許さないところだったよ、と声を荒げた口に放り込まれるマドレーヌはおそらくその埋め合わせとやらの一つなのだろう。
五百年に渡る大波を乗り切った彼女にとって、多少の災難など実のところ大したものではないのかもしれない。たとえば今机にずらりと並ぶフリーナの胃の大きさでは少々手に余り、ヌヴィレットを呼び寄せるくらいで何とかなる菓子程度で贖えると思っている可能性はある。
きっとあの傷痕だって、と浮かんだ思考をヌヴィレットは即刻棄却した。いや、違う。そんな、そんなはずがない。
知らぬものを簡単に断ずることなど許されない。鋭利な刃物が皮膚を裂くだけならともかく、深く肉に食い込み血潮を吹きあがらせ、骨の繋ぎ目を神経ごと千切り、絶命に至らしめる感触を。そしてそれを受けてなお、今を生きる者の心をヌヴィレットは知らない。
このひとはその残痕すらヌヴィレットから隠そうとしている。その痛みを知るべきなのは彼女以外には自分の他にいないというのに。
舞台は。自分だけに用意された彼女ひとりきりの舞台は。
「ん、なんだい?」
まだ続いているのだろうか。隣に並んで座っていたフリーナの真っ白な首筋を指先で撫でると、何事かとばかりにフリーナは押さえられた喉で綺麗な疑問符を作り出した。意味も理由も分かっているだろうに、悲痛さが一切含まれない音にヌヴィレットは微かに眉を顰める。
「
……
僕の努力を台無しにしないでおくれよ」
ヌヴィレットの指先に振動を伝えた声の余韻が消える前に仕方がないとばかりにフリーナが笑う。苦笑に似ているけれど、おそらくそれだけではない。その笑みに内包される感情とそれらを表現する言葉をヌヴィレットはやはり分からないままでいる。
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