大人になってからの松花馴れ初め

pixiv再掲
独身だけど家族皆仲良しの花巻と、既婚者だけど威厳ある家庭で育てられた松川という設定で書きました。極も最終回も出る前に書いたので抜けてる公式設定多々あります
家族への憧れの話です



おまけ2

 ねえ岩ちゃん、さっきね、マッキーから連絡きてさ、マッキー、子供できた……ってすごい深刻なメッセージ送ってきたんだよね。
 マッキーだってもういい大人だしさ、一年前に彼女いたじゃん? だからこりゃやっちゃったなーと。だから、デキ婚なんて言い方しないで、授かり婚だね! って言おうと思ってたの。
 でもさ、子供の写真送ってもらったんだけどね、なーんか、でっかいのね、何がって、子供の年齢が。
 多分もう三歳? くらい? だから前の彼女じゃなくて、前の前の彼女とか? と思って、思わず誰との子供? って聞いちゃって。
 デリカシーない? そりゃ、そうだけど歴代彼女は大体知ってたからさあ……でもこんな黒髪のくるくるした感じの子はいなかった気がするんだよねえ。
 そしたらさ、お前もよく知ってる奴だよ、って返ってきて誰だよ! って本気で思って。そしたら週末会わせるからってさ。
 岩ちゃん予定空いてる? 空いてるよね? マッキーは岩ちゃんも一緒に、って書いてるし。

 紅葉してきた木々を持つ公園を少し過ぎれば、所狭しと居酒屋が並ぶ。いつも高校バレー部の仲の良い四人で集まる時の居酒屋ののれんをくぐって、先に着いちゃったから中入ってるからね! と及川が電話越しに待ち合わせ相手に伝えた。
 岩泉は予約の名前を店員に伝えると、いつもありがとうございます、と丁寧にお辞儀されて、いやいやこちらこそ、と笑っていた。
「今日、奥の個室だってよ」
 靴箱に無造作に入れた岩泉の革靴は、歩き疲れて痛みが大きい。岩ちゃんもうちょっと手入れしなよ、と及川に言われ、「今新しい靴届き待ちなんだよ」と文句を返す。
「先に一杯飲まない? なんかお腹空きすぎててさあ」
「ん」
 素っ気なくメニューを渡されて、それでもこれとこれ、と岩泉も及川に頼むように伝えてきたことが嬉しくて、及川が微笑んだ。店員を呼んで先にオーダーを通してもらう。
 聞き慣れた声が届いてきた。ガヤガヤとする店内でも、その声はよく通って伸びやかだ。
「おーす、悪いな」
 本日の待ち合わせ相手の花巻がやってきた。
「ごめん、俺らお腹空いてたから先に頼んじゃっ……て」
 手には会社用の鞄と、小さい帽子がある。明らかに小さい女の子の物だとわかると、及川の声が少し緊張して上擦った。
「ああ、いいよ、ちょっと遅くなっちまったもんな」
 しかしさすが金曜、混んでるなーと言いながら、向かい側の空いてる席に一向に座ろうとしない。
「マッキー、座れば?」
「いや、今ね、もう二人……お、来た来た」
 ついに奥さんと子供の登場だろうか、食い物に興味が向きかけていた岩泉もさすがにぐりっと首を真後ろに向けて、何とか目を凝らす。
「久しぶりー」
 癖のある髪は高校時代と変わらず、背がさらに少し伸びてスーツが様になる男がそこに立っていた。
「え? 今日まっつんも呼んだの?」
「久しぶりだな、松川」
「二人とも元気で何より、あ」
 ほら、挨拶できる?
 そこで及川が硬直するのを、横目で岩泉は認めた。
 ──松川の足元に、彼と髪質のよく似たふわふわの黒髪を揺らして、もじもじと恥ずかしそうに隠れている女の子がいた。その少女は花巻のメッセージに添付されていた写真で見たことのある子で、
……こんばんは」
……こ、こんばんは」
「おう、こんばんは」
「ちょっと岩ちゃん! よくそんな普通に挨拶できたね?!」
「あんだよ、それぐらい常識だろ」
「ち、ちがう……いや違わない、違わないんだけどさ、及川さんとしてはマッキーのメッセージが冗談だったのかなーとか色々考えるわけで」
「お前、あんまり考えすぎるなよ、ハゲるぞ」
「今そういう話じゃないよねえ⁈」
 及川達の向かいの席に奥から松川、松川の娘、花巻と座って、まずはどこから聞けばいいのか……と及川が頭の中をぐらぐらとさせていると、店員が先ほど頼んだ少しばかりのつまみと、及川達二人の酒を先に運んでくる。
「エマ、何飲みたい?」
 及川が黒目を大きくして、じっと三人の様子を見ていた。岩泉は大体幼馴染の考えていることがわかる。おそらく。
 え、そこ、マッキーがその子に聞くの? まっつん父親でしょ? なにおしぼりで手拭いちゃってんの? そうだよね。季節に合わせてあったかくしてくれたおしぼりだね、嬉しいけど、顔拭いてんじゃねえよ。あとエマちゃんて言うんだねあの子の名前、かわいいね。どうでもいいけどなにこの雰囲気。
 かしこまりましたー、という店員が席を離れようとすると、岩泉はすいません、と声をかける。
「あと、揚げ出し豆腐一つ」
「岩ちゃん俺を置き去りにして雰囲気に溶け込まないで!」
 ははは、と笑う松川が、さて、と向き直っておしぼりを置いた。
「フラグクラッシャーって、なに? 及川」
 花巻が店員に、お子様メニューみたいなのありましたっけ? と聞いている声が、及川にはやけに遠く聞こえているだろう。岩泉にはわかった。