……少しずつ、体が溶けていく。
輪郭を失い、雨に溶け出した身体が、足元に静かな水たまりをつくっていた。
カラベラフィルムは薄れゆく意識の中で、いくつもの思いを巡らせていた。
「
……ルフレ殿には、本当に申し訳ないことをしてしまった
……」
「
……この先、私を待つのが地獄であったとしても
……それは当然の結果だろう
……」
以前、「私たちは、地獄行きだ」と樊凌に言った。
それは覚悟の言葉だったはずだ。
だが、こうして死を目前にすると
…やはり、どこかで抵抗があった。
天国に行けると思っていたわけではない。
だが、それでも
……。
「
……シアノ
……本当に、これで良かったのか
……?」
誰に届くともない声だった。
だが、ふと
……
『カフィ』
自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
はっとして、顔を上げる。
そこに立っていたのは、もうこの世にいないはずの親友だった。
「っ
……」
思わず手を伸ばし、その手をそっと握る。
その手に温度も鼓動もない。
『大丈夫、きっとみんな天国に行けますよ』
彼は、穏やかに微笑みながらそう言った。
「
……」
「
……あぁ、そうか
……そうだな
……」
目の前の彼から、視線を逸らす。
何も掴んでいない手が、ふと下がった。
「
……これは、シアノではない
……私だ」
そう呟いた。
嫌味なほどに現実主義で、慰めの嘘なんて絶対に言わなかった、あの械が。
天国に行けるだなんて夢のようなことを言うはずがない。
ならば、彼はこんなとき、何と言っただろう。
……分からなかった。
自由気ままで、怠惰で、すぐ不貞腐れて、
自分にはない「人間らしさ」を持っていた彼。
その思考を真似るのは、たとえ彼の記憶を持っていてもできなかった。
感情は、記憶だけでは再現できない。
今まで目を背けていた現実が、否応なく目の前に突きつけられる。
もう、逃げ場などどこにもなかった。
「
……全部
……私の妄想だったのだな
……」
グラ殿も、リンリン殿も、ラート殿も、白浪殿も、シアノも。
みんな、もうこの世にはいない。
もし自分があのとき現実から目を背けずにいたら、守れた命があったかもしれない。
無理やり抑え込んでいた感情が決壊する。
言葉にできない絶望が涙と共にあふれ出す。
その瞬間、体が崩れゆく速度が一気に早まった。
あと数秒で、自分は完全に消えてしまう。
「っ
……」
最後の力を振り絞るように、カラベラフィルムは静かに呟いた。
「
……最後に
……貴殿の声が、聞きたかった
……」
その嘆きの一言と共に、彼の体は完全に雨に溶け、ただの水たまりになってしまった。
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