7話✧情械




……少しずつ、体が溶けていく。

輪郭を失い、雨に溶け出した身体が、足元に静かな水たまりをつくっていた。

カラベラフィルムは薄れゆく意識の中で、いくつもの思いを巡らせていた。

……ルフレ殿には、本当に申し訳ないことをしてしまった……

……この先、私を待つのが地獄であったとしても……それは当然の結果だろう……

以前、「私たちは、地獄行きだ」と樊凌に言った。
それは覚悟の言葉だったはずだ。
だが、こうして死を目前にするとやはり、どこかで抵抗があった。

天国に行けると思っていたわけではない。
だが、それでも……

……シアノ……本当に、これで良かったのか……?」

誰に届くともない声だった。
だが、ふと……

『カフィ』

自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
はっとして、顔を上げる。

そこに立っていたのは、もうこの世にいないはずの親友だった。

「っ……

思わず手を伸ばし、その手をそっと握る。

その手に温度も鼓動もない。

『大丈夫、きっとみんな天国に行けますよ』

彼は、穏やかに微笑みながらそう言った。

……

……あぁ、そうか……そうだな……

目の前の彼から、視線を逸らす。
何も掴んでいない手が、ふと下がった。



……これは、シアノではない……私だ」

そう呟いた。

嫌味なほどに現実主義で、慰めの嘘なんて絶対に言わなかった、あの械が。
天国に行けるだなんて夢のようなことを言うはずがない。

ならば、彼はこんなとき、何と言っただろう。

……分からなかった。

自由気ままで、怠惰で、すぐ不貞腐れて、
自分にはない「人間らしさ」を持っていた彼。

その思考を真似るのは、たとえ彼の記憶を持っていてもできなかった。

感情は、記憶だけでは再現できない。

今まで目を背けていた現実が、否応なく目の前に突きつけられる。
もう、逃げ場などどこにもなかった。

……全部……私の妄想だったのだな……

グラ殿も、リンリン殿も、ラート殿も、白浪殿も、シアノも。
みんな、もうこの世にはいない。

もし自分があのとき現実から目を背けずにいたら、守れた命があったかもしれない。

無理やり抑え込んでいた感情が決壊する。
言葉にできない絶望が涙と共にあふれ出す。

その瞬間、体が崩れゆく速度が一気に早まった。
あと数秒で、自分は完全に消えてしまう。

「っ……

最後の力を振り絞るように、カラベラフィルムは静かに呟いた。

……最後に……貴殿の声が、聞きたかった……

その嘆きの一言と共に、彼の体は完全に雨に溶け、ただの水たまりになってしまった。