さもゆ
2024-12-06 15:52:46
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【ザプレオ】ツイログ

全て付き合ってないザプレオです。

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品


戦闘中、失血しすぎてレオくんの血を飲むザップさん。

僕は餌じゃない




 HLに普通の蛇でもいれば良かったんだ。
 そうしたら、皮を剥いで、首を斬り落として、滴る血を飲み肉を食えた。喉は痙攣し胃は引っ繰り返るだろうが、込み上げる胃液ごと飲み下してしまえばそれは丸ごと力になる。血と肉はそれほどザップにとって、特に血で戦う者らには重要な要素だった。栄養素だ。そして、ザップにとっては血液を経口摂取するのは応急処置じみた生命維持行為でもある。
 思い出すのも躊躇われる修行の日々、ド秘境で生き抜くにはそれが一番手っ取り早かったのだ。動物の肉を食らい生き血を啜るのが。けれど、HLではそうもいかない。まず自分が斬り倒し焼け殺した生物は大体があちら側、食えないこともないが食えば胃が引っ繰り返るだけでは済まない場合がある。食用ならいいが、普通の異界人を食う気はないし、HLに普通の蛇はいない。
 もちろん、仲間の血も吸えない。ほかの流派の血液を取り込むのは自殺行為である。血液型の違う人間の血を飲もうが大した弊害はないが、特性の違う者の血を飲めば支障をきたす。その血は必ず取り込んだ者の体を蝕むだろう。ならば戦闘中、どうしても血が足りなくなり眩暈までしてきたらどうするのか? 
 今まではその答えとして「ギルベルトの車にいざという時の血液パックと生肉が置いてある」が正解だったのだが、今、この時、十三時間にも及ぶ索敵・掃討作戦における現在の正答は「そばにいる人間の血を吸う」だった。
 では前線で戦うザップのそばにいて、しかも特異な血液を持っていない、血を飲んでも安全な人間とは?

 ※

「レオナルドォ!!」
 倒壊しかけているビルの最上階、下方の地面で燃える炎の中からそう呼ばれたレオは、びくりと失いかけていた意識を取り戻した。
 戦況把握のために酷使し続けていた義眼から煙が噴き上がり、耳につけていたインカムからはノイズ混じりの破壊音が流れていく。その破壊音と、地面からの轟音が重なり、またザップの雄叫びも二重に響き渡って届いた。
「そこォ動くなよ!!」――動くなも何も。今回の自分の役目はこの朽ちかけた防犯ビルから全員の状況を伝達・補助することで、ここから動けば即死に繋がるので動こうにも動けないのだが。レオは隙間から噴煙を上げているゴーグルを外し、強引に瞼を拭って瞬きした。「ザップさんッ?」前線で戦っている彼は一体何をしようとしている?
 訝しんだところ、硝煙と濃い血臭を含んだ爆発が眼下で起こり、吹き飛んだ霧に紛れるようにザップがレオのもとへと飛び上がってきた。レオはしきりに瞬きを繰り返し涙を落として、更に視界を良好にしようと傍らに置いてある保冷剤へ手を伸ばそうとした。
 しかしその手はガシリと掴まれ、引っ張られた。ザップに違いないのだが、レオはその手の温度に一瞬眉をひそめる。彼は戦えば戦うほど血が沸騰するのだと、ジャンキーのように言っていたことがあったのに、それが今はどうだ、平熱以下の冷たさだった。それもそのはずだろう、レオは思って益々眉根を寄せる。誰より戦況を把握していたのは僕だ。この人は確か、太腿と背中に傷を負っていた――。血を流しすぎているんだ。
「ザップさん、大丈夫ですか?」瞬きを数度。ようやく義眼の熱が引き始め、ぼんやりと赤く汚れた白い服が映る。「ザップさん?」
「レオ。おめーどこも怪我してなかったか?」
「は?」
「いーから答えろ。刺すぞ」
「さ……っ」視界不良のなか、頼れるのは声音だけであり、それはあまりにも本気の掠れ声だ。「ど、どこも。知ってるでしょ、俺ここから一歩も動いてな――
 ――い、は悲鳴となって飛び出た。
 掴まれた腕が突如痛みを発し、どころか身の内側から液体が溢れるのを感じた。涙が飛び散り、レオの悲鳴を聞き届けたインカムの向こうがにわかにざわめく。刺された、と思った。五本の指に。レオの腕を掴んでいるザップの指に刺されたと思った。
 事実、刺されていた。ザップの傷だらけの五指から鋭く短く伸びた血の刃はレオの皮膚を突き破り、血を滴らせていた。深くはないが、浅くもない。痛みで悲鳴を上げるには充分過ぎるほどの刺し傷からは、また突然、刃が引き抜かれ、液体が流れ出る。それが地に落ちる前に、ぬろりと肉厚な何かに拭き取られ悲鳴を上げた。
「ザ、い゛っ、なななんっなに、なにっ?! ざっぷさん!? いだッ痛いぃ……!」
 半分ほどしか見えていなくても、音と感触と想像で何をされているのかが分かって震えあがる。ザップに刺され、血を舐められている。五つの傷から、あますことなく。じゅるじゅると啜る汚い音と穴の開いた皮膚を穿ってくる舌先に身を捩って暴れようとすれば、容易く圧し掛かられて身動きが取れなくなった。レオはぎゃあと泣いた。とんでもない恐怖、そして内臓が浮き上がって冷や汗が滲みそうなほどの混沌と痛みに襲われる。
 じゅる、ぢゅるぅうッ。
 ……ごくん!
 飲み込まれた。それを音で知らされたレオは放心したまま涙をただただ零した。
 零れた涙が、慰めのように指の腹で拭われる。
……スターフェイズさんに申請しとけ」
 先ほどよりは、幾分か指先には熱が宿っていることに気づくものの、自分の縺れた舌の動かし方の方に気を取られ、必死に言葉を紡ぐ。
「な、な、何を」
「ろーさい」
「労災? ろ、労働災害? 何が? どれがっ? い、いま、俺の腕どーなって、だって血がッ絶対血が出てた、めっちゃ吸われたっ」
「出てたよ、舐めて、飲んだ。食わなかっただけ有り難く思えや、ヴェッくそマズ……
「クライスラー=ガラドナ合意! 違反してる! 裁判だぁ!」
「食ってねーっつの」
 喚く唇を抓んできた手指は完全に燃える血潮の指先だった。インカムの向こうとビル下から、戻って来いザップという怒鳴り声が聞こえる。それから、レオの視界による見通しの催促も。煙幕は晴れ、その代わり霧が戻り、また風圧や雷撃によって押し流され、開いた瞼の間、義眼が青い光を迸らせる。
「もう一仕事、お前のおかげでいけそうだぜ。ごっそーさん」
 完全に取り戻した視界、唇を赤く染めたザップがそう言って笑い、瞬く間もなく戦場に飛び下りていったのを見送る。間髪容れず、血糸が張り巡らされ、彼の利き手に握られたジッポから火の粉が煌めき引火する。爆発は十三時間も戦っているとは思えないくらい、今日一番派手なものだった。癖毛が巻き上がって頭皮が突っ張る。礫だらけの暴風が目に突き刺さり再び涙が滲んでくる。レオは口もかっ開いて叫んだ。
「俺はアンタの餌じゃないぞ!!」
 腕には、まるで獲物の証拠のような傷痕がくっきりと残っていた。