さもゆ
2024-12-06 15:52:46
10482文字
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【ザプレオ】ツイログ

全て付き合ってないザプレオです。

2020.12.27 たまごのお粥pixiv投稿作品

モブ女性あり。

神がくそなら天使もくそだよ




 ああしてただ黙って髪と同じ色のまつ毛を伏せていると、まるでどこぞの宗教画のように荘厳だなと思う。
 そもそも、もともとが綺麗な見目をしているのだろう、あの先輩は。
 普段の素行や言葉、戦闘スタイルが厳つくチンピラじみているせいで、レオナルドは度々そのことを忘れてしまうけれど。
 馬鹿な話だ。
 その身が燃える熾天使のようだと、思わなくもないのだから。
 地獄の扉が開いたような街、人間その他の欲望が煮詰まった娼館で、明らかに場違いなことを考えている自分の両目が、クソッタレ神さまに押しつけられた義眼なのだから本当にもう、この世の宗教観はわけが分からない。ひょっとするとチンピラクズな先輩が最上級の天使様でもおかしくないわけだ。もし本当にそうなら、レオナルドはおかしーでしょと全力で突っ込んで喚き立てるけれども。
 しかし今は、今だけは、あの男は本当に清らかなもののように見えた。
 娼館の裏口から入るこの通路は薄暗く、当然客の出入りもないため女たちの密やかな憩いの場であり、壁際に置かれた朽ちかけた椅子や酒樽、小さな棚に飾られた花や可愛らしい形の小瓶、キャンディの入ったバスケットが、黴臭く陰鬱とした空気をささやかに安穏たらしめている。その裏口の警備術式がかかった扉前、この空間の入口で、レオナルドは壁に背を預けて通路の離れたところを見ている。
 剥き出しの蛍光灯がケバケバしく暗がりを照らし、くたびれたソファに座っている男女を鮮明に浮き上がらせている。
 そうでなくともレオナルドの目にはくっきりと、それこそ白いまつ毛の生え際まで見ることができたけれど、別にそれをしようとは思わなかった。なぜかって、それはあまりにデバガメすぎるし、鑑賞可能の規制線を不躾に越えてしまう行為だからだ。
 ……今は、自分が隣に立つ時間ではない。

 ──髪を切られたの、と教えてくれたのは、招集に来ない先輩を嫌々迎えに行きここの扉を開けたところに佇み、今のレオナルドのように二人を眺めていた、娼館の女だった。
 ──最近、そーいう客が多くってね。髪くらいなんだって思うかもしれないけど──彼女は仕方なさそうに笑った。──でも、気に入ってたもんを理不尽に奪われるってのは、なんでも嫌なもんでしょ──レオナルドはそう聞いて、こっくり頷いた。

 それから、しばらく。来たばかりの頃に空間を悲しく満たしていたすすり泣きの声は、もうしない。
 くたびれ、錆びたバネが飛び跳ねているソファに、レオナルドの先輩と首の辺りで髪が途切れている若い女が座っている。肩にもたれかからせ、女の小さく丸い頭を撫でているのは褐色の指。ざんばら髪の毛先をすくっては、時折、何かを囁いて女の強張りを解かせていた。
 無闇に立ち入ってはいけない、ひょっとすると自分がこの場にそぐわないのではないかと思わせてくる何か神聖なものの気配に、レオナルドはひっそり息を吐いた。綺麗だ、と思っているのだろう。女の不幸にではない。女の不幸に寄り添うあの男に。
 思ったところで、それがどうしたという話なのだけれど。普段の荒くれた素行を向けられる者として、羨ましいとか、そういう卑しさは持っていない。ただ──、
「おい、行くぞ」
…………もういーんすか」
 女を後にし、レオナルドの横を通り過ぎて扉を開ける。慌ててそれについて行こうとして、はたと背後を振り向いた。ソファに座っている女は、毛先の揃わない髪を耳にかけ、こちらに手を振っている。レオナルドは一応頭を下げ、待ってくださいと先輩を追った。
 路地に出ても薄暗さは変わらず、既に霧に紛れかけていた白い背中に駆け寄って隣に並ぶ。
 背中を丸めポケットに手を突っ込んでいる男はいつも通りに見えた。いつも通りの、レオナルドのひどい先輩。
……ザップさん」
「あー?」
 レオナルドは先輩を見上げていたが、先輩はこちらを見下ろさなかった。
「招集の件、最近ヒューマーが被害に遭ってる髪切り事件についてですって」
 白い眉がぴくりと跳ねる。
 そこで先輩はニヨリと笑い、ようやくレオナルドを見下ろして肩に腕を回した。ぐっと体重をかけられ、うっ重いと抗議する。なんだよお前、と先輩が言う。
「はよ言えよな~、手当たり次第に燃やすとこだったわ」
 それはあんまりいつも通りのふざけきった口調だったけれど。
 肩に回された腕は布越しでも熱かったし。
 義眼で見なくとも瞳は瞳孔が開いていて。
 こちらがぞくりとするほど怒りに煮えていた。
 それはこういう時に隣にいられる、レオナルドだけの天使だった。
 天使は天使でも、最上級の天使、燃える熾天使。ただし神への愛で燃えているわけではなく、女たちへの愛で燃えている、人間らしい熱量を持つクズな男だけれども。
 それでも苛烈なまでに綺麗だと思ってしまうのだから、もうどうしようもない。ただ──特権だなと思う。思ってしまう。
「世も末だこりゃ」
 ぽつりと呟いた脈絡のない言葉に、わけも知らないだろうに先輩がオウ、知らなかったのかと言った。……知ってますよと返す。いつも世界、終わりかけてますもん。