ライフ

高校生パラレル 佐→カイ フェイクファーの続き
初出・Webサイト「残りの夜が来た」2009年


 湿度が高い。佐原は隣を歩く女の髪の根本を見て思った。彼女の髪は湿気ですこしボリュームを増すのだが、彼女はそれをものすごく気にしている。佐原はどうでもいいよ、と思いつつ、いつもそれをからかったりフォローしてやったりしていた。茶番だ。女の子と付き合うと、こういう茶番がいつでもつきまとう。
 しかし、佐原はそういう茶番が嫌いではなかった。女も、女の匂いも髪も肌も嫌いではなかった。ただ、執着するほど好きになるようなものでもない。その程度のものだ。それを付き合った子に言ったことは今までなかったのだが、今日初めて、佐原はそう言ってみようと思った。
 今まで付き合った女と比べ、彼女は驚くほど平均的だった。地味と言うよりも、埋没している。おそらくわざとそうしているのだろう。派手すぎれば角が立つし、制服を着て地味すぎる者も悪目立ちする。佐原の高校はそういうところだ。だから、平均以上に、他人の肌が好きで好きで仕方がない彼女は、ストレートパーマのかかった少し痛んだ髪の毛や、コンタクトが入らない日だけかける安いセルフレームの眼鏡や、きっちり膝上10センチに切られたスカートや、ぴんぴんに伸ばした紺色のハイソックスの全部で、身を守っているのだろう。メールは長いが、佐原は、そういうわかりやすい彼女を、嫌いではなかった。ただ、いらいらしたり、悲しくなったり、特別執着するほど好きになるようなものでもない。
 その程度のものだ。多分、お互いに。
「そうなんだ」
「ごめんね」
「いいよ、別に」
「あっ、でも、エッチは気持ちよかったよーん」
「なにそれ」
体だけが目的だったのねっ!って、言ってくれないかなー思って」
 彼女はそうは言わず、ふふふと笑っただけだった。通学鞄にこれでもかとつけられたマスコットが、がちゃがちゃと揺れる。佐原がゲーセンでとってあげたものもきちんとぶら下がっていた。
「佐原くん、」
「ん」
「私、高校出るまでに、何人やれるか、友達と競争してるんだ」
 うん、知ってる。だからオレ、お前と付き合ってたんだ。お前のこと、みんな知ってるよ。
 佐原はそう返せず、代わりに、「体だけが目的だったのねっ!」と言った。彼女はまたふふふと笑う。笑い声を聞きながら、ここで言う彼女と、陰で散々なことをしたくせに、この期に及んで言えない自分との違いを考える。
(オレが悪いんだよなあ)
 佐原はそう結論づけた。
 分かれ道に来た。だが、今日からは彼女のうちに行かないので、どうすればいいか分からない。佐原は少し考えてから、手を振って彼女を見送った。正直に言えば、寂しい。
 自分の手から離れていくときだけ好きになるものを、果たして好きと言えるのだろうか。佐原にはそれが全然わからない。それどころか、一生わからないままなのではないか、とすら思う。
 佐原はどうしてもカイジに会いたくなったが、カイジのメールアドレスを知らないことに、携帯を開いてから気づいた。なぜだか分からないが、誰にも許してもらえないような心細い気持ちになって、途方に暮れる。