ライフ

高校生パラレル 佐→カイ フェイクファーの続き
初出・Webサイト「残りの夜が来た」2009年


「佐原!」
 困ったような声に呼ばれ、一条の消えたドアから、カイジのほうに視線を戻す。なんで困った顔をしているんだ、と思いながら、佐原は「なんすか」と返事をした。返事をしたらだんだんむしゃくしゃしてきた。このいらいらは春のせいではない、と思う。
「聞くぐらいいいじゃないですか、カイジさんだって、聞いたでしょ?」
「聞いてねえよ
 何でだよ。
 自分にはないかもしれないが、カイジには一条に聞く権利があるはずだし、普通聞くだろう、と佐原は思った。よりいっそう強くなるいらだちに戸惑いながら、ポッキーのチョコレート部分だけを口の中で舐めとる。クッキー部分が唾液でぬるりとした。
何で聞かないの?」
興味ねえって言ったから
 何だよそれ。
 それって誰のため?
 誰のためにそんな顔するの、カイジさん。
 佐原はそう聞く代わりに、せっかく完成しかけていたチョコなしのポッキーを噛み砕いた。湿っているうえほとんど味のないその棒はぜんぜんおいしくない。
カイジさんは、ほんとに
 優しいのか甘いのか臆病なのか、偽善なのか弱虫なのかほんとうにいい人なのか、と、佐原はいつもの検証を始めかけて、止めた。頬の筋肉がこわばりかける。それをごまかしたくて、ポッキーの袋から残りを出し、全部を口に突っ込んだ。
「甘!」
「お前、昼それだけ?」
 大量のポッキーが口の中でねちゃねちゃもそもそして気持ちが悪い。佐原はうん、とうなずいた。
「たりるのかよ」
「たりないっす」
 やっとのことでそのねちゃねちゃもそもそしたものを飲み下す。口の中がべたべただ。ポッキーと交換でタバコをもらおうと思っていたのに、ポッキーはほとんど自分が食べてしまったし、こんな甘い口でタバコは吸いたくない。なんだか何にもうまく行っていない。
たりないけど、昨日バイトなかったから廃棄ないんです」
「なんだよ
「もーカイジさん、オレの廃棄あてにしないでくださいよ!」
 そう言うと、カイジは少しだけくちびるをとがらせ、憮然とした表情を作った。まだいらいらしていたが、その顔を見ながら、佐原は単純に好きだなと思った。右のポケットで携帯が震えているが、無視した。カイジの顔を見ていたかったからだ。
 ああそうか、と佐原は思った。この顔が、オレに向けられるなら、オレはカイジさんのことが好きだな。
 メールを受信し終え、携帯は黙り込んだ。