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残りの夜が来た
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福本
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ライフ
高校生パラレル 佐→カイ フェイクファーの続き
初出・Webサイト「残りの夜が来た」2009年
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屋上は教室よりずっと静かだし、カイジの奴はあまりしゃべらないので、勉強しながら昼食をとるのに丁度いい、と思っていたのだが、この男が来ては話が変わってくる。一条は空にした弁当箱を重ね、赤本に、折ったルーズリーフとシャープペンシルを挟んで閉じた。そろそろチャイムも鳴るだろうと思い時計を見るが、昼休みはあと15分あった。中途半端な時間だ。うるさい教室にもどるには少し早いし、これから1階にある図書室に行っても、授業に間に合うように教室に戻ろうとすれば、腰を据えて勉強はできない。一条は忌々しい気持ちで、ポッキーを咥えながらごろごろしている金髪を眺めた。
「
…
いりますか?」
「いい」
ああほうでふか、と、男は一条から視線をそらし、目を閉じる。一条は男の名前を思い出そうとしたが、聞いたはずの彼の名前はいまいち浮かんでこなかった。こいつの名前などどうでもいいのだが、気になり出すと確かめずにいられなくなり、しぶしぶ男に「君、名前なんだったっけ
…
」と尋ねた。
「佐原です、佐原」
「あいつ一条な」
やっと1つめの焼きそばパンを食べ終えたカイジがぼそっと言い、佐原はなぜかカイジをむっとした顔で見た。それから再びこちらに向き直り、「いちじょーさん、」と言った。
「
…
なんだよ」
「そんな、怖い顔しないでくださいよ!」
怖い顔をしているのはお前だろう、と、一条は思った。佐原はポッキーの白い部分を全部口の中に入れ、咀嚼して飲み込むと、上半身を起こしてにいと笑った。
「クロサキセンセーとどうなりました?」
「さ
…
」
何か言いかけたのはカイジだった。一条は自分でも不思議なほど、波一つたたない冷静な気持ちで、誰か何か言うのを待つ。しかし、何かを言いかけたカイジは何も言わないだろう、と一条は思った。案の定短い沈黙が3人の間を支配した。
「
…
どうなったって?どういうこと?」
「いや、俺の話聞いて、なんか変化はあったのかなって
…
!」
「
…
君の話なんか覚えてないよ」
「えー、ひどい」
あはは、と、軽く佐原は笑った。その向こうでカイジが所在なげに2つめのパンのラップを破っている。役に立たない男だ。こいつを怖いなんて思っている自分が急に愚かしく思えた。
「もういいかな
…
俺、授業出るから、行くよ」
「まだやってるの
…
?」
佐原は無邪気な顔でずけずけと尋ね、カイジが凍り付く。
無邪気などではない。無邪気な顔の仮面だ、と一条は思った。フリーズしたカイジも耳をそばだてているのが腹立たしい。
「首、突っ込まないんじゃなかったのか」
「覚えてるじゃないすか
…
!」
クククと首をすくめて笑う佐原に場違いなほどのんきな日差しが降り注いで、金髪を透かした。一条は目を細めた。腹立たしかったが、やはり動揺はなかった。ただし、それをこいつらにわざわざ教えてやる気もなかった。
「
…
ご想像にお任せするよ」
なあーんだ、と言いながら、佐原は腕を頭の後ろで組んで、また仰向けに寝そべった。ほとんど同時に一条は立ち上がり、荷物を持って出口に向かった。それから、ふと、メールの女のことを思い出した。この間佐原とここですれ違ったとき、奴と並んで歩いていた、毎朝卑猥なメールを打つ女だ。
振り返ると、佐原は寝そべったまま、カイジはパンをもぞもぞと押し込みながら、こちらを見ている。一条は少し考えたが、何も言わず、代わりに手を振ってやってから、扉を引いた。
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