ライフ

高校生パラレル 佐→カイ フェイクファーの続き
初出・Webサイト「残りの夜が来た」2009年


「なあ一条
「何だよ」
 カイジは眉を寄せてささやかな抗議の意を示したが、一条は無表情で見返すのみで、全く動く気配がない。カイジと佐原のまき散らしていた吸い殻はいつの間にかすっかり片付けられている。
 カイジは無駄だと感じつつ「そこ、俺の場所なんだけど」と言ってみたが、やはり無駄だった。
「屋上にお前の場所もクソもあるか」
ないけど、俺、そこが好きなんだよ!」
「陽が当たるし風の通り道じゃないし、最高だよな、ここ」
「だーかーらー
 カイジはがっくりと肩を落として、仕方なく一条の隣に腰を下ろした。最近一条はやたらとカイジの前に現れては、癇に障るようなことばかりする。全く訳の分からない奴だ。
何で隣に座るんだよ」
「さっきお前が言ったとおりの理由でだよ!」
 一条はふんと鼻を鳴らして、帝愛大学工学部前期日程と書かれている赤本に目を落とした。張られている付箋の蛍光イエローがぴかりと光る。カイジはそこから目を背け、購買で買ってきた、麺の伸びきった焼きそばパンを包む安っぽいラップを引きちぎった。2つ買ったがが、一口かじって、いつも通り全然おいしくないことにがっかりする。一条は何を食べているのかと思い見ると、びっくりするほど普通の、ご飯と、何か揚げ物と、卵焼きと、きんぴらごぼうと、野菜の入った手作りの弁当だった。
「お前にも、親とかいるんだよな
 なんとなく感心して、深い考えもないまま思ったことがそのまま口をついて出る。
「あ?どういう意味だよ」
「いやー別に
 カイジはまた一口まずい焼きそばパンをかじった。佐原がいれば、コンビニの廃棄がもらえるんだけどなあ、とぼんやり考える。まあ、あいつは、友達も多いし、彼女もいるようだし、毎日毎日屋上には来ないのだが。
 ふと、一条には友達がいないのではないかと思いつく。だから俺と屋上で飯を食っているのでは、という考えに、カイジはにやりとした。いない。絶対いない。1年の頃は思い出せないが、こんな性格じゃ、絶対にいない。
「なあ一条お前ひょっとして友達いないんだろ!?」
ああ!?」
 何かを頬張ったまま、一条がものすごい表情でこちらを向いたが、遠くから「うわっ!」という声がして、始まりかけた言い合いは中断された。ポッキーの箱を携えた佐原が、ドアの隙間からひょいと頭を出していた。
「何!?何で仲良くなってんすか!?」
「仲良くねえよっ!!」
「あ、カイジさん、青のりついてますよ」
 一条の激昂を無視して、佐原はごく自然に一条とカイジの間に体を割り込ませた。
「え狭いんだけど
「だーってここ、陽が当たるし風も強くないんですもん」
 はい、カイジさんポッキーあげる、と、佐原が赤い箱をばりっと開ける。カイジは一体どこについているのか分からない青のりを探すのをやめ、差し出されたポッキーを、「まだパン食ってんだけど」と言いながら、受け取った。