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残りの夜が来た
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福本
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ライフ
高校生パラレル 佐→カイ フェイクファーの続き
初出・Webサイト「残りの夜が来た」2009年
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佐原は春が嫌いだ。眠いし、ぬるい空気が気持ち悪いし、花粉症でマスクをしている人間がたくさんいるのも気味が悪い。それに、なんだかそわそわする。多分発情期なのだろう。
卑猥なメールをやっと読み終わり、佐原はぱきっと携帯を閉じた。授業中の教室にその音が響き、数学の教師がこちらを見る。にこりと笑って見せると、彼は何も言わず、黒板で問題を解く生徒に目を戻した。
佐原は控えめにあくびをして、授業の終了までの時間を数えた。5、10、15
…
分。あと15分か。寝坊して朝飯を抜いたせいか、胃袋がきゅうきゅういっていた。ほんとに、春は眠くっていけない。
つんつんとした感触を背中に感じて、佐原は振り返った。シャープペンシルで佐原の背をつついた同級生が、くしゃくしゃにしたわら半紙をぽいと投げてくる。
芯出したままつついてないだろうな、と思いながら、佐原はその紙を広げた。汚い字で《メールみせろ》と殴り書きしてある。再び振り返ると、彼はしらんぷりをして黒板をルーズリーフに写している。佐原は紙をくしゃくしゃにしなおして、ペンケースに放り込んだ。
(めんどくせえなあ)
彼女というかセックスフレンドというか、とにかくそういう関係の女の送ってくるメールがあまりにも面白いので、つい同級生に見せびらかしてしまったのは佐原だった。瞬く間にそのメールはクラス中の男どもの知るところとなり、佐原の携帯は、佐原が教室にいる間、ほとんど彼の手にない。4月の半ば、クラス替えの後にしてはこのクラスの男の仲がいいように見えるのは、佐原の彼女の功績である。彼女は知る由も無いが。
いや、知ってんのかな。なんか趣味っぽいもんな、これ。
佐原はポケットに入れた携帯にちょっと触れた。後ろの男に渡そうかと一瞬思ったが、やめる。
そもそも、彼女と付き合うことになったのも、彼女にまつわる噂話が原因だった。7組のあいつ、ほらあの子、あいつならいつでもやらせてくれるらしい、と、まだ他人行儀だった体育の授業中に、言い出したのは誰だったか。簡単に仲良くなるための下品な話だったが、それを面白いと思ってしまったのは、確かに佐原が悪い。悪いのだが。
はじめはエロメールの回覧も面白かったのだが、佐原はだんだん飽きてきていた。周りの男は彼女がいたりいなかったりだが、佐原のようにセフレがいることを公言している馬鹿な奴はいなかった。
罪悪感
…
ではない、と思う。ただ、面白くない。なぜ俺の猥談だけが共有のエロネタになるのだろうか。
(俺ってピエロだなー)
再び背中をつつかれたが、佐原はしっしっとそれを手で払うまねをした。あと5分で昼休みだ。
屋上に行ったらカイジさんがいるだろうか、と思いながら外を見た。もちろんここから屋上は見えないので、代わりに校庭に植えられている桜の木を眺める。みすぼらしく枯れた花を押しのけるように、若い葉が、そこだけ水彩絵の具で描かれたように透明に光っている。
カイジは3年になってからますますだめ人間になっているような気がした。佐原は決して自分を真人間だとは思わないが、カイジはその中途半端さで佐原を大きく上回っている。
本当は真人間になりたがっているくせに、自分には無理だとうそぶいて、わざと中途半端な自堕落にひたる。かと思えば、時たま佐原もぎくりとするような、すべてを見透かしたような目で、困った顔をする。誰のことも面と向かって非難しないけれど、誰も好きではなさそう。
聡明なのか、愚鈍なのか、優しいのか弱虫なのか、佐原は彼をつかみかねており、興味がある、というか、非常に惹かれている。だからこの間、きれいな顔の男がカイジにあんな話をしていたのも、全く理解できないことではなかった。
そういや、あのきれいな顔の男は、あの後どうしたのだろう、と佐原は思った。どうでもいいっちゃどうでもいいのだが。
チャイムが鳴るや否や、後ろの男は「佐原あー、お願い!!」と手を合わせてきた。
「お前なー、
…
自分でエロ小説でも買えば?」
「エロ本より興奮するんだよ、それ!」
「金取るぞ」
えー、と不平の声をあげた彼を尻目に、佐原は教室をひらりと飛び出した。カイジさんにタバコ貰おう。その代わり、購買でポッキーを買って、あげよう。佐原は混み合う廊下を駆けた。
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