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モニターを見つめる人間たちは、それぞれ自らの心境を映す表情を隠す素振りも見せない。誰も言葉を発することはないが、その顔から誰もが一様に"不安"を抱えているのは明白だった。
それも致し方のないことなのだろう。人類に反旗を翻したアンドロイド軍に立ち向かうべく、召集された数少ない戦力。画面に映る別室に集まったその彼らは、あまりにも心許ない面々だったのだから。人類の未来を託すことへの憂いもあろうというものだ。
何故ここに呼ばれたのかよく分かっていないという顔をしているアイドルの少女。
そんな彼女と同じ席にいることでプライドを傷つけられたと言わんばかりの歌姫。
席についてなお端末のキーボードを叩き続け周囲に微塵の関心も見せない研究者。
撃つべき相手がここにいないなら己の仕事はないと欠伸をする狙撃手。
檻の中で唸り声を響かせ今にも暴れだしそうな様子の合成獣。
そして、その中心に座り、人類軍を運命を任された一人のこども。
「
……手伝って、くれる?」
小さなリーダーは皆に尋ねる。その声に滲んでいたのは決意でもなく、恐怖でもない。幼い声は、一緒に砂山を作ろうと誘っているかのようなトーンで声をかける。しかし、即座にそれに応えるものはいない。
「勝てるわけない、でしょ」
沈黙を破る深いため息。誰もが思って口に出さなかったことを、とうとうアイドルの少女が言葉にしてしまう。それに対し、歌姫は声を荒げた。
「ちょっとあなた!」
「何? だったらアンタはこいつらと一緒に、あのアンドロイドどもを本当に倒せると思ってるの?」
「それは
……」
「正直、この中でまともに戦える人なんて、そこの物騒な人くらいでしょ」
彼女は無遠慮にも狙撃手を指差す。自分が話題に巻き込まれると思っていたのかいないのか、さほど驚きも不快も顔に出さずに彼は短く言葉を紡ぐ。
「俺はオーダーが無ければ撃たん」
「何それ」
「正しい指揮官がいなければ、俺もお前同然に役立たずだということだ」
「はぁ⁉ ちょっとなんでこっちがディスられるわけ⁉」
「顔合わせなのに言い争っている場合じゃないでしょう! そこのあなたも大人なら止めなさいよ!」
淡々と言葉を返す狙撃手に食って掛かる少女。その物言いはこどもでこそないが、"こどもではない"に過ぎない。大人として歌姫が止めに入るが、我関せずとしている研究者を横目でひどく睨みつけている。
しかし、バァン!というけたたましい音でその言い争いはぶつりと途切れる。
騒々しさに苛立ちが募ったのか、唸り声をあげていた獣が片腕をあげ檻を叩きつけたのだ。幸いにも頑丈な檻にはひっかき傷ひとつない。だが、獣の苛立ちは収まらないのか、不気味な唸り声が一層激しくなっている。大声で言い合っていた女性二人は、それを見ると口を噤んで席に座りなおした。
その後、口火を切ったのは歌姫の方だった。
「私は協力しないとは言わないわ。ほぼ強制召集のようなものだったとはいえ、断るつもりならここに来ていないもの」
ようやく最初の質問に答えがひとつ返される。しかし、
「それでも、このメンバーでアンドロイド軍と戦い勝利を収められるのかと言われれば、私も難しいとは思っているの。
……負け戦や捨て駒のような扱いを受けるなら、それはごめんだわ」
「同感だな。先ほども言ったが、俺は正しい指示がないなら撃つことはない」
丁寧かつ率直な、大人たちの答え。別室で成り行きをただ見守るしかない者たちも、それを否定することはできなかった。彼らを呼びつけておきながら、内心では同じことを思っているのだ。
──勝てるはずなど、ないのだと。
モニター越しに無責任な謝罪の目を向けても、当然返事が返ってくることはない。
ガァン!!!!
一際、大きな金属音が鳴り響く。どうやら、合成獣の機嫌が限界に来たらしい。本来ならこの顔合わせの部屋に入れる予定もなかったのだが、『最初のおねがい』としてあのこどもが同席を望んだため、鎮静剤を使いどうにか準備を整えたのだ。
薬の効果が切れたのだろう、と判断しモニター室のスタッフは慌ただしく合成獣を隔離するため動き出す。万が一にも、檻に近づいた誰かが怪我をしてはとんでもないことになる。
緊張が走る中、モニターを見ていた監視員が悲鳴を上げた。
あの子が、檻に近づいている。
少女と女性が焦った様子で手を伸ばして制しているが、目に見える危険な範囲へ近づこうとはしない。
狙撃手は黙って事の成り行きを見守っているし、研究者は騒ぎに見向きもしない。
そうして、無垢なこどもは恐れを見せることなく、獣に手を伸ばした。その小さくあたたかな手を檻の間から伸ばして、手入れも碌にされていないごわついた毛並みへ埋めようとしている。
合成獣がほんのわずかに片手を振るえば、あるいはその口を開けば、目の前の矮小な存在に取り返しのつかない重傷を与えることなど容易かったはずだ。しかし、獣はそうしなかった。ただおとなしく、分厚い体毛ごしに感じられるわずかな人の温もりを受け入れていた。
「
……興味深いな」
パソコンの画面から片時も目を離さなかった研究者が、初めてその視線を移動させた。
「あれほど手懐けるのは無理だと言われていた合成獣をこうも容易く、か
……。君の特性、いやあるいはそれこそがこの獣の特性なのか
……」
「あ、アンタ見てなかったんじゃないの⁉」
研究者の男が発言をすると思っていなかったのか、少女は驚きと怒りが入り混じった声をあげる。
「視線がそちらに通っていないというだけで見ていなかったと判断するのは実に安直だ。必要であれば視線を向けずとも聴覚がある。それに、この部屋で起こったことはすべてこのパソコンで記録中かつ解析済みだ」
「まあ。あとで撮影料をいただくわ」
「記録用だ。払う義務はない」
思わぬ事態に安心していいやら戸惑っていいやらで、呆けているモニターの向こうの大人たち。そんな彼らのことは知る由もなく、部屋での話は進んでいく。
「いい判断だった。俺はお前のオーダーなら聞いてやるかもしれないな。少なくとも、現状での話だが」
狙撃手の男は初めてその小さな存在を見た。自分よりずっと小さなその存在を、認めた。その視線に、小さな瞳はにっこりと微笑み返す。
「解析は終わった。こちらも答えを返そう。君に協力する」
そういって研究者も立ち上がる。十数分越しの返答だ。その答えに歌姫は意外そうな顔をした。
「あなたは研究者、なんでしょう? 圧倒的不利であることをあなたが一番理解していると思っていたけれど」
「凡庸な思考を持つ君たちでも分かるくらい、この戦いの勝率が低いことは覆らない事実だ」
「アンタも皮肉を言わなきゃ喋れないタイプなの?」
「だが不利であることは関係ない。何より、低い確率を覆すほどの要因が存在しうること、そしてそれが結果として起こりえる仮説とプロセス、そしてその結果。これらは我々をこの道へ駆り立てているのだよ。この世界へ踏み込んだ研究者の性というものでね」
憎まれ口など聞こえていないのか、男は今までと比べ物にならないほどの饒舌を披露する。彼の目は今、好奇心という狂気の色を滲ませこの場にいるものたちに向けられていた。
小さなリーダーは、その目の色にも臆することはなかった。そして、自分よりいくらか年上の、まだ大人になり切れない人間へその目を向ける。
「あなたは。手伝って、くれる?」
まだ答えを出していない、少女への問いかけ。ぐ、と彼女は息をのみこんだ。
(大人たちに囲まれて、逃げ道を絶たれて、二択と言いつつ実質イエスしか残されていない理不尽な状況はこれまで何度もあった)
(そういう時は、大人のせいにできた)
(そうするしかなかった。わたしは、悪くない、って)
(だけど)
目の前の自分より幼い存在は、明確に二択を残している。幼さやかわいらしさで言いくるめられているわけでもない。ただ純粋無垢な目は、無自覚に、そして残酷に、選んだ選択の責任を彼女自身に取らせようとしていた。
「あたしにできることなんて、」
「君の経歴および実績は確認済みだ。その容姿と存在感、立ち居振る舞いは人々の心理状況に作用することができる。瞬発的で短い時間であるうえに少々過剰表現ではあるが一種の偶像崇拝のようなものが起こっていると思ってもらえればよろしい。当然、これは人間の心理を模倣しているアンドロイドたちにも同様の効果がある。戦況展開の起点としての活躍も期待できよう。もっとも、きわめて特殊なケースにしか対応できないが。嗚呼、これは非科学的理論のように思えるかもしれないが科学的根拠と数字によるデータに基づいたものであり君たちにもわかりやすいようかみ砕いて話している正確性に欠けているのが歯がゆいが」
「まったく分かんないんだけど!」
「お前でも役に立つという話だろう」
「思考力が著しく低いのであればそこだけ理解できれば及第点としてやっても」
「必要のない悪口をいちいちねじこまないで!」
「わかった! わかったわよ! やれば、いいんでしょ!」
自暴自棄のように少女は答えを吐き出す。
「ほんとうに?」
「ちゃんと、考えたわよ。やる」
心配そうに確認する声に、念押しするように再度返事を返す声。それを噛み締めるように、抱きしめるように、小さな両手はその胸の前でぎゅっと結ばれた。
「わかった」
「いこう」
集められた五人と一匹。
推定勝率12.35%。
"人類軍"の戦いが、始まる。
BATTLE1 ★5偶像 6愚者
BATTLE2 ★4博士 2魔道師
BATTLE3 1無垢 3創造者★
BATTLE4 8歌姫 11戦士★ →※戦士の効果適用ミス!
BATTLE5 ★13弾丸 12超越者
BATTLE6 ★9獣 10兵団 →獣により愚者の効果コピー
伏せ:7内通者
勝者:人類軍
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