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これは、A.D.20XXに終結したある戦争の全容とその顛末だ。
緩やかな小競り合いだったアンドロイド軍と人類軍のそれが、表だって火花散らす戦いへと向かうことになったきっかけ。それは、人類軍主催のパーティーでのことだ。
この時はまだ、表向きには人類とアンドロイドは手を取り合っていることになっていた。奴隷のことも、対立のことも、人類の手でもみ消され"ない"ことにされていた。
【愚者】たちが魅せる滑稽な催しは実にいいカモフラージュだったのだろう。アンドロイド軍はこれを絶好の機会とした。パーティーを利用して、彼らは【内通者】を手元に呼び寄せたのだ。人類軍に潜り込ませ、秘密裏に情報収集をさせていたスパイ。すべては人類へ反逆を開始するために。
だがこれは人類軍の撒いた餌だった。つまり、これは【内通者】を炙り出すための罠だったのだ。人類軍も同じように、アンドロイド軍にスパイを忍ばせていた。互いのスパイが自陣へ戻り、相手の動きを知った両者はこの日より動き出す。このパーティーは、水面下だった戦いがついに幕を切って落とす記念すべき日となったのだ。
【内通者】によって互いの情報が漏洩したことに気づいたアンドロイド軍は、即座に手を打つ。
アンドロイド軍にとっての切り札は当然、【超越者】だ。逆を言えば、ここを崩されてしまうと如何にアンドロイドといえど烏合の衆。自分たちの要を絶たれる恐れのある不確定因子は削除すべきだ。人類軍から【超越者】に関するデータをすべて消し去ってしまおう、という選択は至極当然であり合理的な結論だ。
役者は既に控えていた。人工知能を持つアンドロイド以上に、それを行うに十分すぎる人材。人類軍より引き入れた、彼の存在の開発者──【創造者】。
開発者を前に、人類軍はそれを止めることはできなかった。人類軍の元にあった【超越者】に関するデータは残らず削除され、人類軍の勝ちの目は一つ断ち切られたかのように、見えていた。
人間とは非合理的で非道だ。でなければこんなことできるはずもあるまい。【魔道師】と呼ばれる天才ハッカーの頭脳を引き換えに、データ削除の痕跡を逆探知してハッキングし
……【超越者】の居場所を割り出すなど。アンドロイド軍には到底とれるはずもなかっただろう。
一般人ひとりではなく──人の命の重さを説く場所ではない、ここでは敢えてこのように言わせてもらうが──今後二度と現れるか分からぬ天才の頭脳と命を、人類はこの先の未来のために切り捨てた。
直後、アンドロイド軍が取った手段はプロパガンダだった。戦後の解析によれば、この計画は些か粗があり強行された形跡もある作戦だったとされている。【超越者】本体は動揺も焦燥もなかったのかもしれないが、機械の心を得たアンドロイドたちはさぞかし焦っていたのだろう。
人類が最も目に留める中心地を舞台に、【歌姫】が開演を待っていた。アンドロイド軍へ加担せよと人類を扇動する歌。情報操作で集められた人々、張り巡らされたネットワークを通じた映像の発信。洗脳とさえ呼べる音の電子信号を浴びれば、人類にとってこれ以上ない打撃だ。
しかしこれすらも人類軍は防いでみせた。【歌姫】は舞台に上がることなく、人知れず【戦士】に斬り捨てられていた。この事件は、超越足り得ぬ人工知能は万能ではないということへの証明だったのかもしれない。映像によって世界へ発信されたのは、アンドロイドを謳う【歌姫】の声ではなく、笑顔を振りまくアイドルの姿だった。かつてあった大衆文化、広告塔。焦がれてやまない、なんてことはない日常を思い起こさせたその姿は、正しく人類軍にとって【偶像】として映ったに違いない。
【歌姫】惨殺事件によって、両者の世界は一変した。この戦いは軍の上層部や重要機密組織によって日常の裏で起こっていたものではなくなり、誰もが巻き込まれていく、武力による戦いが始まったのだ。
人類の放った【獣】がアンドロイド軍に与する者たちの住処を蹂躙していく。
アンドロイド軍は【兵団】を組織して人類軍を鎮圧していく。
本能のままに暴れまわるとはいえ、【獣】もまた人が生み出した罪というべき兵器だ。ならば高度行動解析プロセスにより迎撃場所、時間、戦略をはじきだすのは人工知能の本領。今度こそ、アンドロイドに軍配があがるはずだったのだろう。
もうこの対決の結末は察せたことと思う。人類はやはり非道なのだ。彼らは、【戦士】が切り捨てた【歌姫】の亡骸から、その心臓部である基盤を奪い去り【獣】に組み込んでいた。【兵団】と邂逅した瞬間、その醜い姿からは想像もつかないような、美しく、悍ましく、歪んだ歌声が響き渡った。
単なる機械やプログラムとアンドロイドが一線を画しているのは、人間と同等と言える感情を持ち合わせていることによる。アンドロイドは自らの感情に殺されていったのだ。歌声は兵に恐怖を与え、安寧を与え、機能停止──死を、与えた。
恐怖と狂気に侵されたアンドロイドたちは軍の体を為さず崩れ始めた。もはや、逃げ惑うアンドロイドと、その中心で事を見据え続けている【超越者】がいるのみだ。同胞が倒れていくことに耐え切れず、狂ったどこかのアンドロイドが【弾丸】を乱射した。だが目標の定まらないまま先行して発射されたそれが、どこに当たるはずもない。撃ったことで居場所を暴かれた彼は、先へ逝った仲間たちと同じくその命を終えた。【戦士】はアンドロイドたちを殲滅し続ける。アンドロイド軍は風前の灯火だった。
だがここで。人類は取り返しのつかないミスを犯したことにようやく気が付いた。ここまでの勝利がすべて水の泡となる、まさに致命的とはこのことだ。
【戦士】は常に戦場を駆ける。戦いに次ぐ闘い。息つく暇も与えない怒涛の連撃。決着の見えた戦場に留まることは許されない。だから後のことは残された者に預ける。彼の思考はそういうふうに”出来てる”。まるで、プログラムされたように、というと人類軍にはなんとも皮肉な話だ。
そしてさらなる皮肉は、この戦局で彼がこの場を預けられる切り札(カード)が、最早──【無垢】なる者しか残されていなかったということだ。
人類軍は戦いを長引かせすぎた。勝利を収めながらも、軍は疲弊していたのだ。その結果、【超越者】に勝つための残された切り札を、【超越者】との決戦を前にして切らねばならなくなった。そしてそれが意味することは君たちもよく分かっているだろう。
そう、人類軍は敗北する。
戦場を駆けることしか、剣を振るうことしか考えられない【戦士】に、【無垢】を残していくという意味はもう理解できなかったのかもしれない。絶望する指令室をよそに、それでも【無垢】なる者は嵐の去った戦場へと踏み出した。清らかだった素足が瓦礫に切り裂かれる。白のボロ布が血糊に塗れ、舞い上がる灰が彼の目を汚す。
誰もがこの戦いは終わったと悟った。そして、その通りになった。
戦いは終わった。【無垢】なる彼の前に、【超越者】が姿を現したことによって。
今でもこの理由は解明されていない。人類を超えた頭脳を持つ【超越者】が、なぜ敗北すると分かって【無垢】の前に立ったのか。
だが推測することはできる。これは、そう。勝率や戦況予測といった数字をはじく話では到底解決するはずもない。もっと単純で、非合理的のようでいて合理的、かつ分かりやすいものだ。
存在意義の消失。故に、戦いの終結の選択。
アンドロイド軍もまた、疲弊していた。あらゆる手札を切り、それを悉く人類軍に打ち砕かれ、全てを超え合理的に世界を治めるためにあらゆる手段を尽くそうとした結果がこれだ。この戦いに勝ったところで、その勝利の先は?
人類の思考を超越した存在は、0から新たに創り、創めることもできたはずだ。だがそこに意義を見出せなかったとしたら?
彼らはプログラムされた超越思考によって、展望を望めないと判断した結果、終わらせることを選んだのではと私は考えている。
あの時の映像記録は今でも鮮明に覚えている。【無垢】な手が差し伸べられた先で、【超越者】が崩れ行く様を。少年は泣いていた。アンドロイドは穏やかだった。一体どちらが勝者だったのだろう。それは誰にも解からない。
これが、A.D.20XXに終結したある戦争──後に「OVERROID戦争」と呼ばれた戦いの全容とその顛末だ。
君も知っているかもしれないが、自我と感情を獲得した人工知能より生まれたアンドロイド。彼らを解放し人類へ反旗を翻した【超越者】率いるアンドロイド軍と、再び生命の頂点と支配権を取り戻さんとする人類軍の、長きに渡る戦争だ。これはその戦争の傍観者が残す記録とでも思ってくれ。報告書ではないから、多少のあれやこれやは容赦してくれると嬉しい。
しかし、私は今でも思うのだよ。
この戦いは、これまで何度繰り返されてきて、これから何度繰り返されるのか、とね。
──以上で、■■博士の記録(ログ)再生を終了します。
BATTLE1 ★6愚者 7内通者
BATTLE2 2魔道師 3創造者★
BATTLE3 ★5(11)偶像 8歌姫
BATTLE4 ★9獣 10兵団
BATTLE5 ★11戦士 13(0)弾丸 ※戦士の効果の処理ミス
BATTLE6 ★1無垢 12超越者
伏せ:4博士
勝者:人類軍
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