botanin5
2024-11-14 03:10:59
14175文字
Public 薬さに♀(小説)
 

雨のち浮かれ気分

ハッピーエンド
突然、浮気するようになった薬研のお話
・薬研が他の女性を口説く描写があります
・名前の無い女性モブがちょいちょいしゃべります






雨は止む気配を見せず、相変わらず瓦を鳴らしている。
もう一度和室に戻った私たちに、彼女は温かいお茶を出してくれた。今度本丸に来たら、いっぱいお礼をしなくちゃいけないなぁ。不動くんを隣に引っ張り、机を挟んで薬研の向かいに座った。薬研は相変わらず機嫌が悪く、こっちを見ない。お茶を置いた彼女は、机から少し離れた所に座った。他人の別れ話に巻き込むのは申し訳なかったが、居てくれるのは心強い。いや、彼女は薬研の浮気相手だし、当事者ではないだろうか?しかし、彼女は私の味方だとなぜか確信していた。さらに関係ない第三者である不動くんの服をぎゅっと掴んだまま、こちらを見ない薬研に話しかける。

「もう終わりにしよって言ったよね」
「俺は納得してない。それより、そいつ必要かよ。邪魔だから帰らせてくれ」
「話を逸らさないでよ」
「不動の方がいいのか?」
「そんな話してない!!」

だんだん腹が立ってきた。さっきからなんなのだ。ずっと機嫌悪いし、不動くんにあたるし。何を言ったら話が進むのか分からなくて、頭が痛くなってきた。じわじわと涙が集まってくる。こぼれないように唇を噛んでいると、隣に居た不動くんが甘酒をあおってふっと笑った。

「みっともねぇなぁ薬研。自業自得だろぉ?」
「あ?」
「な、あんた騙されてんだぜこいつに。ひっく。ほんとい~い性格してんなぁ」
「どういうこと?」
「こいつは、あんた以外に欠片も興味ねぇってこと」

ますます分からない。私にしか興味がないというのなら、なんで他の女の人を口説いて回ったりするのだ。どういうことなんだと薬研を見れば、苦虫を噛み潰したような顔をしている。こんなに余裕がない薬研は初めて見た。いつも、大人で頼りがいがあって、何か起きても動じることは無いのに。

「ひっく。あんたの気を引きたくてしょうがねぇんだよ。演練のときも思ったけどよぉ、あんたす~ぐ顔に出るからな」
「えっ、うそ恥ずかしい」
あんたの泣き顔そそるからなぁ。そこがいいんだろぉ?なぁ薬研よぉ」
「えっ!?」

思わず両手を自分の顔に添えると、薬研はだぁん!と机を叩いて身を乗り出し、不動くんの胸倉を掴んだ。

「なんだよ図星かぁ?」
「ちっ」

煽る煽る。薬研と不動くんって仲が悪いのだろうか?舌打ちする薬研なんて初めてだ。今日は、初めて見る薬研ばかりでなんだか新鮮な気持ちである。先ほどまでのいらいらはすっかり消えていた。えっと、つまり、私を嫉妬させたくて、他の女の人を口説いていたということだろうか?

本当?」

少し不安に思いながらも薬研を見る。彼は不動くんを掴んでいた手を離して、どっかりと座り直した。ぶすっと機嫌の悪い顔のまま視線をそらして頬杖をつく。

……他じゃ勃ちもしねぇよ」

あけすけな物言いに、顔が熱くなった。

でもあの、そうだとしたらやりすぎじゃない!?私がもっと早く怒って、他の人のとこ行くとか言い出したらどうするつもりだったの?」
「だから他の女連れ込んでたんだよ」
「いや待って意味が分からない」
「本丸に女がいれば、他のやつが大将に手ぇ出そうと思わねぇだろ」

えっ、そういうものなのだろうか?薬研の考え方には全く同意できないが、たしかに薬研が浮気するようになってから、他の刀剣たちも女の人を連れ込むことが増えていたし?いやでも?混乱していると、少し離れたところで話を聞いていた女の人がくすりと笑った。思わずそちらを見る。

「あぁ、ごめんなさい。可愛らしくてつい。このひとね、部屋に連れ込んでおいて第一声が『悪いが、あんたを抱く気はない』だったんですよ。私はお話してるだけでお小遣いを頂けたから楽でしたけど。女からしたら嫌よねぇ」

くすくすと笑う彼女がそのまま教えてくれたのだが、今まで連れ込んだ女性にもその態度を貫いていたうちの薬研は、利用が多い割に抱きもしないため界隈では不能なんじゃないかと噂されていたそうだ。なんてこった。事情を察した彼女が面白がって、よくうちに来ていたらしい。

すっかり暴露されてしまった薬研は、居心地が悪そうにしていた。ほんとだったら、浮気がばれた時点でこの態度のはずだろう。全て自分を中心に画策されていたと分かり、どう反応したらいいのか分からなかった。

薬研が他の人といちゃいちゃしてるの、嫌だった」
……
「すぐ女の子に綺麗とか可愛いとか言うのも、すごく嫌だった」
……悪かった」

先ほどまでの不機嫌は鳴りを潜めて、少ししゅんとしている薬研がなんだか可愛く思えた。すす、と膝を擦って薬研の隣まで移動する。戸惑った不安そうな視線がくすぐったかった。そっと薬研の服を掴む。

「抱きしめてくれなきゃ、許さない」

ぐっと何かを堪えた薬研は、すぐに強く抱きしめてくれた。なんだか久しぶりに薬研の匂いを嗅いだ気がする。そっと背中に手を回すと、私に回る手がますます強くなる。それが嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。


「あ~あ、邪魔な刀は帰ろうかなぁ~っとぉ!」

ひっく、と不動が立ち上がる。お礼を言わなくちゃと身体を起こそうとしたが、私を抱きしめる薬研の手はぴくりとも動かなくて焦る。

「ちょっと、薬研一旦離して!不動くんにお礼言わないと」
「ん?なんでだよ」
「迷惑かけたし!」
「そうか?こいつ邪魔してただけだろ」
「そんなことないから!!」

はなせ~~と薬研の体を押すが、全然解放されない。

「じゃあな。次、演練で会ったら一発でのしてやるよ」
「ひっく。お~こわ。当らねぇように祈っとくよぉ」

最後まで顔を上げる暇もなく、不動くんは出て行ってしまった。足音が聞こえなくなると薬研の腕が緩み、ようやく顔を上げる。部屋を見回すと、あの女の人もいなくなっていた。不動くんを見送りに行ったのかもしれない。

「お礼
「もうあいつのことはいいだろ。大将は俺の事だけ考えてろよ」

なんて独占欲の強い神様だろうか。でもそれが嬉しくて、ぽすっと肩に頭を預ける。きっともう薬研が浮気することもないだろう。嬉しくて体温にまどろんでいると、もぞもぞと、浴衣の隙間から手が入り込んできた。そのままずるずると畳に倒される。

なにしてるの?」
「ご無沙汰だし仲直りの印に一発」
「ここ人ん家!!!」

というかご無沙汰って、それこそ自業自得じゃないか!!