botanin5
2024-11-14 03:10:59
14175文字
Public 薬さに♀(小説)
 

雨のち浮かれ気分

ハッピーエンド
突然、浮気するようになった薬研のお話
・薬研が他の女性を口説く描写があります
・名前の無い女性モブがちょいちょいしゃべります






今日の演練は、薬研を隊長に極の修行を終えた子たちで迎えることになった。強くなったことでしばらく出陣ばかりしていたのだが、同じ刀剣男士から技術を学ぶ機会も欲しいらしい。相手の部隊にも修行を終えた短刀の姿を見かけ、こちらの士気も十分に上がっていた。隊長である薬研を連れて、相手の審神者さんと挨拶を交わす。ふわりと笑う可愛らしい人でどぎまぎしていると、薬研が突然相手の髪をすくって微笑んだ。

「へぇ、今日の演練は当たりだな。こんな綺麗なお人が相手とは」

その場にいた誰もがぽかんと驚いた顔をした。一番早く意識が戻った私は、何してるのと肘で薬研をつつくと急いで相手の審神者に頭を下げた。

「突然ごめんなさい!薬研、手を離して。失礼でしょ!」
あ、大丈夫ですよ、少し驚いただけで。うちの薬研とは随分違うのねぇ。うちの子は戦うのが好きなばっかりで、私、薬研藤四郎から綺麗だなんて言われたことないわ。ありがとう」
「そりゃ本当か?あんたのとこの俺は勿体ないことしてんなぁ。こんな別嬪さんが大将だってのに。俺だったら毎日褒めてやるのによ」
「ふふ、お上手」

嬉しそうに頬を染める相手の審神者さんの様子に、心臓がじくじくと痛みだす。薬研が、演練場でも女の人に声をかけるなんて思わなかった。隣に立つ二人がまるで遠くにいるようで、会話が全く耳に入ってこない。この審神者さんに惚れてしまってのだろうか?いますぐ薬研の手を掴んで逃げ出したかった。この綺麗な人から離れたかった。
涙がこぼれないようにぎゅっと唇を噛んでいると、つんつん、と肩を突かれる。驚いて見ると、相手部隊の隊長である不動行光がじっとこちらを覗きこんでいた。

あんた大丈夫か?」
「えっ、あはは、大丈夫ですあはは

うちの本丸にはまだ不動くんがいない。次の戦力拡充時には絶対に迎えに行く予定だ。甘酒の香りがなんだか物珍しくて、零れそうだった涙はひっこんだ。

「ひっく、あんた、あの薬研に気があるのか?」
「えっ!?」
「なんか泣きそうな顔で見てたからよぉ、ダメ刀が急に話しかけて悪かったな」

心配してくれたのだろう、最後に拗ねたような声を出す。話しかけてくれたことが意外だったが、嬉しく思った。うちに来てくれる不動くんも、こんな感じだったら嬉しいな。なんだよとお酒で赤くなっている目元をこちらにむけて、軽く睨んでくる。ぜんぜん怖くなくて、自然と和んだ雰囲気につい口が緩んでしまう。

「実は、お付き合いしてるの」
……はぁ?」
「でも、すぐにああやって他の女の人のことばっかりで、っ、こんなことで狼狽えちゃだめだね」
「ふぅん。ひっく、まぁ、あいつ性格わりぃからな~。」
そんなことないよ」
「うちにいる薬研はよぉ、まだましだけど。あいつは止めた方がいいな。ひっく」
「どういうこと?」

聞き返すが、さぁね、と気のない返事をして不動は自分の部隊へと戻っていった。どういう意味だろう。不動の背中をじっと見つめていると、突然、肩を掴まれて振り向かされた。

「なに話してたんだ?」

薬研が、真剣な顔でこちらを見ている。掴まれた肩が少し痛い。

「審神者さんはもういいの?」
質問してるのはこっちだ」
「別に、ちょっとした世間話だよ。薬研が、あの審神者さんと話しこんでたから、相手してもらってただけ。……それより、薬研あの人のこと好きになっちゃったの?」

確認しながら不安になって、止まっていた涙腺が再び緩みだす。薬研はぱちくりと目を瞬かせると、ふっと笑った。

「そんなわけねぇだろ。俺にはこんな可愛らしい恋人がいるからな。ほら、泣いてるとあいつらに心配されるぜ」

ぐっと優しく涙を親指で拭われる。じゃあどうして他の女の人ばかり見るの、という言葉は、やはりつっかえて出てこなかった。