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botanin5
2024-11-14 03:10:59
14175文字
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薬さに♀(小説)
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雨のち浮かれ気分
ハッピーエンド
突然、浮気するようになった薬研のお話
・薬研が他の女性を口説く描写があります
・名前の無い女性モブがちょいちょいしゃべります
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「あれ、主なんか機嫌良いね。いいことあった?」
「わかる?今日ね、午後から薬研と出かけるの!」
久しぶりにニコニコと口元が緩みきっている私を見て、加州は呆れたように笑った。
「恋人と出かけるのって、普通じゃない?」
「だって、ここ最近薬研と恋人らしいことできてないもん。やっとかまってもらえて嬉しい」
「主がそんなんだから、あいつ調子乗るんだよ」
「
…
いいの!」
なんて廊下で立ち話をしていれば、奥から薬研が歩いてくるのが見えた。一瞬で心が浮つくが、隣にまた綺麗な女の人がべったりと腕に絡まり親しげにしているのが分かって一気に気持ちが萎んでいく。先日部屋にいた人だ。加州が「うわ」と小さく呟くのが聞こえた。薬研、私と出掛けること忘れてないよね?もやもやがまた胸に集まってくる。こちらに気づいた薬研が、よぉと声をかけてくる。どうしてそんなに普通でいられるんだろう。ほんとに、分からない。
「こんなとこで突っ立ってなにしてたんだ?」
「ちょっと話してただけ。それより薬研さ、今日は主と出掛けるんじゃないの?」
「ん?あぁ、そうだぜ」
忘れていなかった様子にほっとする。よかった。こっそり息をつくと、薬研の隣にいた女の人がそっと彼の腕を引く。
「あら、今日は私とお出かけしてくれるんだとばかり思ってましたのに。私、もうすぐ誕生日なんですよ」
ちらりともこちらに向かない彼女の視線は、試すように薬研をじっと見つめている。まるで、私なんていないみたいだ。薬研はこの人が気に入ってるみたいで、あれから他の人を部屋に連れ込むのは見ていない。そのことは、余計に私の心を曇らせていた。ついに薬研が、本気になってしまったんじゃないか。誕生日だなんて、余計なこと言わないでほしかった。醜い感情が渦巻いていく。ぎり、と唇と噛みしめる。
「悪いが、大将との約束が先だからな」
そう言った薬研に、ほっと肩の力が抜けた。よかった、よかった!薬研が私を優先してくれたことがとても嬉しい。付き合っているはずなのに、片思いの時より苦しい思いをしている気がした。ぱっと顔を上げると、薬研の隣にいた女の人が「よかったですねぇ」とほほ笑んだ。それが全然嫌味な顔じゃなくて、まるで本当に良かったと思ってくれているようで、毒気が抜かれてしまった。この人は薬研と一緒に居たいというわけでもないのだろうか。呆けていると、では私はお暇しますね、と薬研のほほに口づけてから廊下を去っていった。やはり敵だった。
「ほっぺにキスした!!!」
「
…
ほら大将、出かける準備しようぜ。玄関で待ってるからな」
「
……
加州、薬研のこと見張っててね」
「はいはーい」
「大将、そんなにくっつかれると歩きにくいんだが」
「
……
。」
ぎゅうぎゅうと薬研の腕をしっかりと掴んで街中を並んで歩く。歩きにくいと言いながらも絡む私の腕を無理に解いたりせずに笑う薬研はやっぱり優しい。でも、誰にでも優しいのだ。
店先の商品を見たり甘味を食べたりと、久しぶりのデートを満喫しようとしていたのに、薬研はその先々で女の子を口説いて回っていた。やれ、こんな綺麗なお姉さんに言われたら買うしかねぇなだの、やれ可愛らしいお嬢さんが運んでくれたお茶は格別に美味いなだの、私が隣にいるというのによく口が回るものだ。外でぎゃんぎゃんと泣きわめくわけにもいかず、薬研の腕を引っ張って早く行こうと急かす私は態度の悪い客だっただろう。でも、泣かなかったことを褒めてほしいくらいだった。
楽しいお出かけのはずだったのに。すごく楽しみにしてたのに。どうして薬研は他の女の子ばかり気にかけるんだろう。私に冷たいわけじゃない。でも、恋人でもない女の人とあんなにべったりくっつくものだろうか。あんなに優しく囁くものだろうか。分からなくなってきた。恋人ってなんだろう。睦み合うのは恋人の特権ではないのだろうか。私と彼女たちの違いなんて、薬研とキスできたり抱かれたりするかどうかくらいの差じゃないのか。いくら身体を許されてたとしても、与えられる気持ちの度合いが同じだったら、むしろ少なかったら。空しいだけじゃないか。恋人という鎖が繋ぎ止めることができるのは、薬研の身体だけなのだろうか。心は?私は、薬研の心が全部ほしい。
ぐるぐると考え込みながら、薬研に体重を預けて歩いていると、ぽつ、ぽつと雨が降ってきた。ひとまず腕を離して、手をつなぎ直すと二人で近くの民家の屋根下に移動した。
「降ってきたな
…
」
「このまま夜まで降るんだっけ、傘持ってきてよかったね」
ごそごそと鞄から折り畳みの傘を取り出す。出かける前、加州に「今日は雨降るよ」と持たされたのだ。同じように薬研も持たされていた。持ち手を掴んで伸ばし、ぱっと傘を開く。薬研は、折り畳み傘を手に持ったまま道向かいの屋根下を見ていた。視線を追ってみると、着物を着た女の子が困ったように空を見上げていた。
…
傘を持っていないようだ。薬研が開いた私の傘を見る。二人で入るには少し狭いが、本丸に帰る程度の距離で使うなら大丈夫だろう。分かっている。今、薬研が考えている事は、分かっている。
「大将、ちょっとここで待っててくれるか」
「行かないで」
屋根下を飛び出そうとした薬研の服を掴む。彼は少し驚いた顔をした。自分の手が、変に力んで震えた。分かっている。あの子に傘を貸すべきだ。でも、薬研があの女の子の元へ、この雨を厭わずに向かうところなんて見たくなかった。みっともない嫉妬だ。
服を掴む私の手を、薬研がそっと包む。服から手を離すと、諭すように優しく私の頭を撫でた。
「大将。もし、向かいにいるのが小さな子どもだったら、俺を止めたか?」
「
……
。」
「大将」
「
…
止めない。止めないよ、ごめん。わがまま言った」
「
…
すぐ戻ってくる」
降り始めより雨足が強くなっている。このままではあの子は帰れないだろう。薬研に開いた自分の傘を渡し、待ってるから行ってきてあげてと笑顔を作る。「それでこそ俺の大将だ」ともう一度私の頭を撫でた薬研は、こちらに背を向けると私の赤い傘を差して小走りに向かいの屋根下へと向かった。突然話しかけられた女の子が驚いている様子が見える。傘が邪魔して薬研の顔は見えないし、雨音で声も聞こえない。最初は遠慮していたようだったが、いくつか会話をしていくうちに彼女が笑った。
見ていられなくなって、逃げ出した。
雨が冷たい。なのに、自分の頬を流れるものだけ温かくて、涙がこぼれていると分かった。薬研は、呆れただろうか。傘が無くて困っている人がいたら、助けてあげるべきだろう。私は、相手が可愛い女の子だったから止めた。自分のわがままで、嫉妬で、冷静な判断ができなくなっていた。薬研がしてあげようとしたことは、普通の優しさからの行動だ。境目が、分からなくなっていることに愕然とした。私はどんどん醜くなっている。このままでは、可愛い女の子や綺麗な女の人みんなに優しくできなくなるかもしれない。
引き際は、とっくに訪れていたのだ。
「おい、なにしてんだ大将!!」
ばしゃばしゃと後ろから駆けてきた薬研に腕を掴まれる。はぁ、と息をついた彼が、必死に追いかけてきてくれたのだと分かる。怒った顔で私を見ている。どこまでも優しい。
「待ってろって言っただろ。ったく、べたべたじゃねぇか。手ぬぐいは
…
」
自分の荷物からハンカチを取り出し、私の顔を拭こうとしてくれた薬研の手を掴んで止める。訝しげにこちらを見る薬研を、真っ直ぐ見つめる。心は凪いでいた。
「終わりにしよう」
薬研は訳が分からないと言う顔をしている。視線を下げて、掴んでいた薬研の手をぐいと押しのけた。つい早口になるが、不思議にもするりと言葉がでてくる。
「別れるの。恋人はもう終わり。今から私たちは、普通の審神者と刀剣男士に戻るの」
「は?
……
なんで急に」
「薬研は
……
薬研は、私のこと好き?」
「
…
あたりまえだろ」
「そっか、ありがとう。薬研は優しいね」
「大将、どうしたんだ?」
「私は、私はね、
……
薬研の優しい所が、大嫌いだよ」
「っ」
薬研の手に力が入るのが見えたが、顔を見る勇気はなかった。大嫌い、だなんて、恋人だったという前提がなければ、随分酷いことを言う審神者だ。これが最後の甘えだった。もう、薬研に大好きも大嫌いも言うつもりは無い。私たちは普通の主従に戻るのだ。
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