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gib_fox
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hq治北
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夢のような、これから
pixivから再掲
治と北さんの馴れ初めのお話。高校時代から大人になるまで、忙しい青春を駆け抜けた二人が惹かれあい、大人になってようやく気持ちを確かめ合う話です。
北→侑と治が思い込んでいる描写や、侑に彼女がいる設定、大耳さんの元カノの話が出てきますので、苦手な方はご注意ください。
当初の設定では大耳さんに恋愛指南を受けている北さんって話にしたかったんですけど、その設定はたち消えて、カケラだけ残ってます。
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「侑! お前、見たで! 彼女と歩いとったやろ!」
俺はこの日ほど、アランくんを呪った日はない。
北さんと、俺と、侑と、大耳さんと。わらわらと人が出入りする部室でのんびり話してた中に、バン! と勢いよくドアを開けてうきうきしながら入ってきたアランくんは、開口一番そう言った。侑も思わずぎょっとしていたが、すぐデレデレした顔になって目を細める。
──今朝、「嘘ついてたやろ」って俺に言われて溶け切った顔で「隠してコソコソ行くの、付き合いたてっぽくて良くない?」と開き直る侑は、最後にちらっとこう言った。
「嬉しかってん」
実は俺らはそんなに女の子引っ掛けたことない。だからあれは侑にとってのちゃんとした初デート。バレーバカで女の子のことは二の次だったけど、無性にええなと思う時はある。彼氏がいる、彼女がいる、そばに誰かがおる心地よさを、これからを歩む道の怖さの中に知っときたい、というのはある──
侑にとっては、それが今だった。そんでもって北さんにとっても、今だったけど、理想は砕けた。
「バレーに支障出すなよ」
それだけを言うと北さんは呆れたため息をついて笑っている。侑もないしっぽ振って「わかってますぅ」と甘えた。
(お前、北さんの気持ちも知らんとなんてこと言うんや)
全ては俺一人の中で消化しなきゃいけないことだった。腹が立つ。こんな損な役回りする立場、いつもなら嫌なのに。
パタン。
体育館へ向うために部室のドアを閉めて、一人出て行った北さんのあとを追いかけた。「治?」と呼ぶ大耳さんの声が聞こえたけど、無視してしまった。
銀髪の、見慣れた後ろすがたを呼び止める。
「北さん」
振り返る顔は、全くいつもと変わらない。
(あれ、ショックとか受けとらんのかな)
俺は伸ばしかけた手を慌てて引っ込める。そして北さんに手が伸びてたことに、引っ込めてから気づいた。
(なにやってんねん、俺。北さんに触って、どうにもならんのに)
「あの、」
俺は言いたいことがわからなくなって、そのまま押し黙ってしまった。北さんは不思議そうに首をかしげている。本当に、いつもと変わらない顔。
(そやって、自分を押し込めるん、慣れとんのかな)
俺はグッと拳を握って、つとめて思い切り明るく喋るようにした。
「こ、今度、飯、美味いとこ行きませんか?」
言ってから俺は、心の中で激しく頭を抱えた。
(
……
ああー俺のアホ、ポンコツ
……
何やその言葉
……
好きな人とおんなし顔の奴がホイホイついてって一緒に飯食うて、どんな地獄や。北さんにとって迷惑以外の何者でもないやろ。しかももうそいつは彼女がおって、デレデレしとんのに)
北さんは、ちょっと迷っている。わずかだが、黒目が左右に揺れた。そもそも急な誘いだしダメかもしれない。俺は冷や汗をかいて相手の答えを待つ。あらかじめ予測をたてながら。
──大事な時期に、何言っとんねん。ええから変な気回さんと、バレー専念しい。
吐かれるセリフはきっとこんな感じか。俺は覚悟して目を瞑った。
そしたら笑いの混ざった声がする。
「ええよ、美味いとこ、あるん?」
──「へ?」と間の抜けた声が出た。部室棟の錆びついた手すりに掴まってこっちを見ていた北さんは、ほんのり笑って頬が赤い、気もする。手すりを擦ってすぐにプラリと腕を下ろす。錆びた鉄特有の、ざらついた音がした。
(何やろ、この気持ち)
一握りの砂がぼとっとバケツの底に溜まって固まり、自分の気持ちがなんていう感情か見えなくさせてる。もう少しで見えそうなのに見えない、むず痒い北さんへの気持ち。
「いいんですか?」
もう一度聞くと、
「くどいで。なんや、ほんまは行きたくない?」
とほくそ笑むから、俺はブンブン勢いよく首を振り、慌ててスマホのカレンダーにメモをする。北さんは小さく息を吐いた。
「そんなら、一日付き合うて? 寄りたいとこ、あんねん。飯の場所は任す」
そう言って北さんは、日にちと時間を足早に決めて、「もうすぐ集合やからあいつら呼んでこい」と、まえを向いて体育館の方へ行ってしまった。
……
俺はスマホに入った自分の予定が、面白いほどなにもない中に一つだけぽつんと、「北さんと飯」と書かれていることに今さら驚いて、じいっと見つめる。
北さんと飯。
言葉にしてわずかこれだけ。それなのに、どんな表現をすればいいのか。心臓が、とくんとくんとやや乱れて鳴った。部室へ戻る足取りも、右手と右足を一緒に出しそう。歩き方を忘れた。北さんと飯、の破壊力は俺の体に支障をきたす。
(
……
こんなんで、支障をきたすんや)
彼女ができた侑も、間接的に振られた北さんも、浮かれたり落ち込んだりで、バレー大丈夫なんかな。いや、俺の心配なんて、いらんやろうけど。
ぐぅ。
慣れない神経を使ったせいで、腹の虫が鳴る。俺は鞄の中のおにぎりのことを考えた。たぶん移動中にちょっとつぶれたオカンのおにぎり。あれを集合前にパパッと食らって考えよう。二人のこれからの対処法。
あとは、北さんとの、飯の場所。
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