Hizuki
2019-01-27 23:06:52
11906文字
Public FF14
 

Hope but Release

【FF14】エス光。平和になったエオルゼアを離れたヒカセンの話。捏造の塊+NPCではない名前ありのキャラの出番がそこそこあります。『Praise or Fear』の続き。1ページ目にリンクあります。全てを手放す覚悟を決めた。



鳥の鳴き声を目覚まし代わりに。
キッチンで朝食の用意を始めると、匂いにつられて子供達も目を覚ます。
両親の不在を埋めるように努めている年上のカイト、兄を支え姉として弟の面倒を見ているシャル、そしていつもシャルと一緒にいて元気いっぱいのノイ。
子供達と4人でテーブルを囲み、昨日見た夢や、今日の予定を話し合って1日が始まる。
エオルゼア、という名前すら知られていない遥か彼方の土地。
私は今そこで出会った子供達と訳あって一緒に暮らしていた。

「お姉ちゃん、お客さんだよ!」
「お客さん?」
「にいちゃんがつれてきてる!」

勢いよく開かれた家の扉、夕食の準備をしていた手を止めて表に出た。
2人がお客さんと呼び、カイトと一緒に歩いてくるその姿には見覚えがあった。
肩にかかる雪色の髪に、深い青のシャツ。
そして、背負った禍々しくもある紅い槍が何よりの証。

「エス、ティニアン?」

名前がぽろりと零れる。

「ようやく見つけたぞ、相棒」
「やっぱりお姉さんの知り合いだったんだ」

どうしてエスティニアンがここに。
突然姿を見せたこの人に思わず言葉を失った。
思い当たることがないわけではない。
何も口にせずとも、彼の顔には話があると書かれていた。
3人を私達の話に同席させることに躊躇いを覚え、どうにか一時的にでも家から引き離す方法を探す。

3人にお願いがあるんだけど、いいかな」
「なぁに?」
「ちょっと買い忘れたものがあってね。おつかいに行ってきてくれる?」
「まかせて!」

自信満々に胸を叩く弟と、何かを察した様子の兄と妹。
3人で持てるだけの量で普段の量よりも少し多めに見積もって、リストと買い物袋を渡した。

「気をつけてね」
「行ってきます」

子供達を見送ってようやく玄関の横で待ちぼうけになっているエスティニアンに目を向ける。

お待たせ」
「気にするな」

エスティニアンを家の中に招き、ダイニングから繋がる形だけの応接間に案内する。
ポットに水を入れてコンロにかけ、戸棚の奥にしまってある茶葉の缶を取り出した。
偶然街に来ていた行商人が掘り出し物として持っていたイシュガルド産の紅茶缶。
流石に少し値段は張ったけれど、懐かしさには勝てなかった。
2人分の用意をして、エスティニアンの斜め向かいに腰を下ろした。

さて、色々聞かせてもらおうか」

カップに口をつけて一呼吸置いて、エステニィアンが口を開く。

「さっきの子供らは?」
「ここに初めて来た時に会ったの」

それは半年くらい前の話。
森の中から悲鳴が聞こえて反射的に駆けつけた先には、震えながら短剣を構える少年の姿。
その少年に思わず目を奪われた。
暗めの青色の瞳、肩に付くほどの雪色の髪。
まるで、自分のよく知る人物をそのまま幼くしたような。
後ろに庇っている2人は少年よりも若く、妹と弟なのだと察する。
視線の先には今にも襲い掛からんとする魔物達。
迷うことなく槍を抜いて魔物を屠れば、子供達は安心したように息を吐く。
剣を構えていた少年は、礼を述べると『カイト』と名乗った。
助けてくれたお礼をしたいと3人に招かれたのがこの彼らの家だった。

「私が冒険者だって言ったらみんな目が輝いちゃって。話聞かせてって言われてね」
「この辺りじゃ珍しいのか」
「ううん。両親が冒険者らしくて、今は旅に出てるんだって」
3兄弟を残してか」
「定期的に手紙が来てるよ。町の人達もサポートしてくれてる。迫害されたりしてるわけじゃないから、そこは大丈夫」

両親はお互いに別の場所から来た冒険者で、周囲の魔物の討伐依頼を受けたのが出会ったきっかけだったらしい。
家の中には各地の名品やら、地図やら手紙に添えられた両親からのお土産が置いてあった。

「魔物もちょこちょこ出るみたいなんだよね、この辺り。そんな場所に子供達だけってのも危ないから、次に両親が戻ってくるまでって期限付きでいさせてもらってる」

街の中心からは少し外れた森の中にこの家はある。
もし何かあった時に子供達だけでは対処ができない、というのは町の大人達も当然理解していた。
そこに私が来て、しばらく滞在すると申し出たことで一時的であるとはいえその心配も解消された、と。

「なるほど、お前らしいな。ここにいる理由は分かった」

納得したようにエスティニアンは首を縦に振る。
けれど、本当に聞きたいことは、そんなことではないはず。

何故、何も言って行かなかった」

懐かしい味を飲み込んで、エスティニアンから視線を外した。
もしもう一度会うことがあれば、聞かれるだろうと思っていたこと。

言ったら引き留めたでしょ?」
「当然だろう」
「だから言わなかったんだ」

エオルゼアから脅威を払った。
人々に平和をもたらしたのならば、その地に過ぎた力を持つ者が留まるべきではない。

「私の力はもう脅威にしかならない平和になった世界に、力は要らないんだよ」

ふぅと小さく息を吐いた。

「平和だからこそ、必要な力もある」

各国にはグランドカンパニーがある。
実力のある冒険者達もいる。
ならば、それ以上の巨大な力は必要ない。
維持をするのなら、今のエオルゼアには十分な力がある。

「それに、勝手にいなくなるなと言ったのは誰だった?」

うん、私だ。
ニーズヘッグから解放されて、病院から抜け出して、それから別の場所でもう一度ちゃんと会えた時。
アルフィノと2人で問い詰めたんだった。

冒険者だもん。興味を引かれるものがあればそっちに行くよ」
「誰にも何も言わずにか」
「そう。ただの冒険者なのに、誰かに言っていく必要がある?」

元々一人で動くことが多かった身。
確かに同じ目的のために、一時的に連絡を取り合う仲間達がいたこともあった。
それももうどれくらい前の話になるか。
だからこそ、他の誰にも何も言っていかなかった。
盟主達にだけエオルゼアを離れると告げて。

どうして探しにきたの?」
「言いたいことがあるから来た。それだけだ」

私の問いかけにエスティニアンが答える。

「相棒、俺と一緒に来い」
「私はエオルゼアには帰らないよ」
「構わない。それともう一つ聞かせてくれ」

そう言ってエスティニアンがテーブルに置いたのは、見覚えのある白い封筒。

これは何だ」

私がアイメリク卿に託していった手紙。
彼が来たら渡してほしい、と。

「それは

何を書いたのか、忘れるはずがない。
直接伝えられなかった言葉。

「この想いも過去のものなのか?」

灰がかった蒼い瞳が真っ直ぐにこちらに向けられる。
確かめたい、と語りかける。

「正直に言う。俺は
「ありがとね、エスティニアン」

エスティニアンの言葉を遮った。
私を探しに来てくれたということがきっと何よりの証。
その言葉の先を今は聞けない。
聞いてしまったら、心が揺らいでしまう気がして。

でも、今あの子達を置いては行けないよ」

応えることもできない。
両親が戻ってくるまでここにいる、と約束したのだから。

「もうそろそろ日が暮れる」

重い沈黙が落ちそうになった空気を断ち切ったのは、外から聞こえた子供達の声だった。
開かれた扉に飛び込んでくる声。
ソファから立ち上がってみんなを迎える。

「今日は泊まっていって。みんなにエスティニアンが見てきたものを話してくれたら嬉しい」

窓の外は橙色が濃くなり、少しずつ夜の気配が漂ってきていた。
3人が帰ってきたことで家の中はいつもの賑やかさを取り戻す。
今日の夕食をシチューにしようと思ったのはただの偶然か、それとも。
何度作ってみても決して同じ味にはならないのに、今日のシチューは少しだけあの時に近かったような気がした。