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無窓居室
2024-06-28 20:46:09
33501文字
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鶸の巣
既にカップルになっている😈👹の出産ネタ。でも妊娠するのは😈の方というツッコミ所が満載の話。
男性の妊娠・産卵・悪阻の描写があり、👦と👸が大学生になっています。他あらゆる捏造が大丈夫な心の広い方のみご覧下さい。また、15歳未満の方の閲覧は推奨しません。
シーンによって😈👹っぽかったり👹😈っぽかったりします。
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ブラックが玄関からの物音で目覚めたとき、時刻は夜になっていた。月も星もない晩で、カーテンの隙間からは薄明かりも差し込まない。
軽い足音が廊下を近づいてきて、寝室のドアが開いた。見なくてもアカネだと分かる快活な気配が、ベッドのそばまで来て立ち止まる。自分が眠っているものと思って遠慮しているのかもしれないと考えたブラックは、寝床から飛び起きて灯りを点けた。同時に孵卵器を両手で指差す。
「おめでとうございます!産まれましたよ!!可愛い双子の卵ちゃんです!」
アカネは目を丸くして、それから「ブラックこそ、おめでとう」と言った。
孵卵器に歩み寄り、元気そうな卵の様子を見てから「かわいい」と呟く。予想通りの反応だ。ただ、声のトーンと物腰はブラックが想像したよりはるかに落ち着いたものだった。覗き窓から視線を外すと、アカネはブラックの方を向かないまま口を開いた。
「知らせてくれると思ってた」
この台詞も想定していなかったわけではない。もっと怒り出しドタバタになると思っていたので意外なほどだった。ブラックは悠然とベッドに座ったままでいる。魔王の強靭な肉体は僅かな休息だけで妊娠前と変わらない生命力を取り戻していた。
「ああ、お産が軽かったので。電話する前に産まれてしまったんですよ。すぐお伝えしようかとも思いましたが、どうせなら
——
」
「嘘つけ!すごい血の匂いだぞ!!
……
全部ブラックのだろ?アタシには嗅ぎ分けられる
……
鬼の嗅覚、なめるなよ」
ブラックの胸ぐらを掴みかけた手が、躊躇うように震えてから握り込まれた。強く拳を作ったままアカネは俯く。
「連絡する約束だったじゃないか。サポートが必要だって言ってくれたのに
……
信じてたのはアタシだけだったんだ」
「必要のないサポートまで頼みませんよ。アカネさんこそオレちゃんを信じていないんですか?」
アカネの言い分はもっともだ。しかしそんな気遣いは出産で命を落としかねない並の悪魔に対してするものだ。些かプライドを傷つけられてブラックの口調も剣呑なものになっていく。何より、自分が浸っていたアカネとの一体感を当の本人に否定されたことが癪に障った。
「信じてないのはアンタだろ!なんでだよ
……
アタシが年下だから?魔術を使えないから?何も知らない頭の悪い鬼だから?」
「ええ、アカネさんは本当におつむが弱くて話になりません。もしかして、まだオレちゃんが優しい気持ちかなにかで産む側を引き受けたと思ってるんじゃないですか?」
ベッドから降りるや否や、アカネの顎を捉えて目を合わせさせる。怯まないアカネが睨み返してきたことには少しだけ機嫌を直した。
「YouTuberとして大事な時期なんですから活動に集中して欲しいと言いましたよね。それにアカネさんは困っている人のためなら危険に飛び込んで行くことに躊躇がない。オレちゃんが一々弱味など見せて、いざというときに後ろ髪を引いたりしたらどうなります?オレちゃんを心配して心が乱れればアカネさんが犠牲になるかもしれません。掴めないチャンスや救えない命があれば一生の悔いになるでしょう。そんな形でアナタの魂を奪うのも、心に残るのも、オレちゃんはご免被ります」
アカネが眉を寄せる。手を離してもアカネはブラックから目を逸らさず、ただ困惑した表情を浮かべていた。
「それは
……
アタシには、やっぱりアタシや周りのことを思いやってくれてるように思える、けど
……
違うのか?」
「違います。コラボ関係にあるYouTuberとしての合理的判断と、悪魔としての矜持の問題です。アナタが思っているよりはるかに利己的な理由ですよ」
突き放すような物言いに、さすがにアカネが視線を伏せる。そのまま孵卵器の方を見て寂しそうに言った。
「じゃあ、分かんないな
……
。正直さ、赤ちゃんが欲しいって言ったとき、ブラックとの間に子どもができればブラックのこと、もう少しくらい分かるようになるんじゃないかって思ってたんだ。YouTuberとしては自力で近づかなきゃ駄目だけど、恋人っていうか
……
パートナーとして、もっと理解し合えたらいいなって気持ちもあったこと、後になって気づいたよ。この子達はそんなことのために産まれてくるんじゃないのに
……
でも、子どもができたのは本当に幸せで、ブラックが産んでくれるっていう気持ちも嬉しくて」
まるで卵に直接触れているように、覗き窓をそっと撫でる。その手つきはブラックの腹に卵があった頃と変わらなかった。
「でも、アタシにはやっぱり分からない。ブラックの言うことも、考えてることも。
……
ごめん」
手を止めたアカネは踵を返すと、小走りに寝室を出て行った。ややあって玄関のドアが閉まる音がする。
開け放たれた廊下へのドアの影から、カメラちゃんと青鬼ちゃんが姿を見せた。二人が喧嘩をするたび宥めたり諌めたりしてくれる助手達も、あまりのことに口を挟めなかったようだ。ベッドの近くの床に紙袋が落ちていたのでブラックが拾い、開けてみると、それは小ぶりの花束だった。カメラちゃんが足止めしていた間にこれを買っていたのかもしれない。片手で軽く持てる大きさのそれは白いバラの周りにミントやレモンバームの葉があしらわれたもので、袋から出した瞬間から清涼感のある香りがした。
長く悪阻が治まらなかったブラックのことを、アカネは態度に出さないまま案じていたのだろう。明るい笑顔の底に押し込めていた不安と思い遣りを嗅ぐ思いだった。青鬼ちゃんと目が合ったので、お礼を言って花束は孵卵器のそばにグラスへ置いて活ける。夕食は何が良いかと尋ねても芳しい返事がないので、とりあえず二人ともお風呂に入っておくように伝えた。そんな気分ではなさそうな助手達に、安心させるように目配せながら。
お風呂を沸かす間、転卵のために孵卵器の扉を開けたブラックは、卵達に初めて直接語りかけた。
「さっきはびっくりさせてしまいましたね。いつもこんなではないんですよ。アカネさんは、本当は大事なことをよく分かってらっしゃる良いお母さんですから
……
お母さん?お父さん?結局どっちでしたっけね~、とにかく、帰って来てくれるのを待ちましょ
「ただいま!!」
待つ必要は思ったよりもなかった。戻るなり寝室へ駆け込んで来たアカネは、手に何か布のようなものを抱えている。息を弾ませているせいか頬が赤らみ、目が潤んで、近頃なかったほどに少女めいて見えた。
「これ、さっき花束買った帰りに見かけて気になってたんだ!でもどんな卵が産まれるか分かんないから、似合わなかったら困ると思って。だけどもう産まれたわけだから、こんな可愛い卵が」
「落ち着いて下さいアカネさん、何かまたお土産ですか?」
「うん、使ってみて!」
ブラックが手を伸ばして確かめると、それは薄いグレーの柔らかいおくるみだった。軽くて暖かいが持っていても蒸れることがない。上等な品物なのだろう。色味も鶸色の殻によく馴染みそうだ。卵の保温は基本的に孵卵器に任せるつもりでいたブラックだが、これがあれば卵を抱いて外出するのも良いかと思えてくる。
「ありがとうございます
……
ほら、お母さんから
——
でしたっけ?お父さんかもしれませんけど。初めてのプレゼントですよ」
「そういやその話まだ決まってなかったな」
難しい顔になりかけたアカネに向き直り、ブラックは悪魔らしからぬ笑顔を見せた。
「オレちゃんはどっちでもいいです。アカネさんがそばに居て下さるなら」
「よせよ、らしくないぞ」
「戻って来てくれて嬉しいです」
「来ないわけないだろ!?まさかあのまま失踪するとでも思ってたの?」
やれやれと目を閉じるブラックの隣で、アカネはすっかり朗らかさを取り戻した表情で、しかしやはり少しだけ寂しそうに言った。
「アンタのことを分かると思えたことなんて、出会ってから一度もないもん。今更だよ。分かってるのはアタシがブラックのことを好きだってことだけなんだ」
「アカネさん
……
」
走ったら汗をかいたと笑うアカネに、ブラックはカメラちゃんと青鬼ちゃんの後でお風呂へ行くよう勧めた。しかし助手達は卵を見ておくから先に二人で入るといいと言う。散々気を揉まされた仕返しとでも言わんばかりの、あからさまな冷やかしの視線を寄越す二つの眼に、卵の親達はきまり悪そうに肩を寄せ合うのだった。
*
夜更け、ふと眠りから覚めたブラックは孵卵器を見た。中の卵は相変わらず無事に温められている。もう一度目を閉じようとしたとき、隣のアカネもうっすらと目を開けて自分を見ていることに気づいた。
「眠れませんか?」
子守唄のような甘い声で囁くと、アカネは曖昧に首を横に振る。言いたいことを言うべきか言うまいか迷っている様子だったので、ブラックはどちらも強制してしまわないように枕へ顔を埋め、耳だけをそば立てた。続く言葉がなければそのまま寝てしまうつもりだった。
「あのさ
……
ブラックにとっては嫌なことかもしれないけど
……
こんな勘違いは要らないって思うかもだけど」
小さな声が聞こえてきたのでアカネの方を向く。アカネは天井を見つめ、また少し躊躇ってから言葉を継いだ。
「アタシにとってブラックはいつも良い奴で、優しい悪魔だよ。そりゃ、悪魔だからお仕置きは厳しいし酷いこともするけど
……
でも、少なくともアタシは、アンタには普通の悪魔や人間よりも、ずっと優しいところもあるって
……
」
繊細な響きの口調はさりげない。最後まで言わないのがアカネの思いやりであることをブラックは知っていた。もし答えを求められれば、ブラックはその言葉を受け入れるか否定するかを迫られていただろう。契約書を前にした動画の出演者達のように。
口をつぐんだアカネの意を汲んで、ブラックは閉じた相手の唇に、音もなく自分のそれを重ねた。
夜明けはまだ遠く、暗闇が優しく悪魔と鬼の眠る寝所を包んでいた。
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