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無窓居室
2024-06-28 20:46:09
33501文字
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鶸の巣
既にカップルになっている😈👹の出産ネタ。でも妊娠するのは😈の方というツッコミ所が満載の話。
男性の妊娠・産卵・悪阻の描写があり、👦と👸が大学生になっています。他あらゆる捏造が大丈夫な心の広い方のみご覧下さい。また、15歳未満の方の閲覧は推奨しません。
シーンによって😈👹っぽかったり👹😈っぽかったりします。
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「おはようございます」
「おはよう!朝ごはんできてるよ」
「いつもありがとうございます、美味しそうですね」
ダイニングにやって来たブラックをキッチンから顔を出したアカネが出迎える。気をつけて座るように促され、ブラックは小さく笑った。妊娠初期の日々は順調に経過しつつある。
まだ腹も出ていないのに椅子には妊婦用の腰痛対策クッションが置かれている。あの満月の夜の次の日にはアカネが人間界で買って来ていたものだ。人間用のマタニティー用品が悪魔に効果を発揮するものかどうか分からないが、アカネが安心するらしいので使うようにしている。ブラックとしても、悪い気はしないから。
「カメラちゃんと青鬼ちゃんも呼んでくる」
エプロンを外しながらアカネが廊下へ出ていく。髪を結び直す仕草は颯爽として、それでいて優美な雰囲気を漂わせていた。鶸の月の下、そしてその前に閨で見たアカネの美しさをブラックはありありと思い出せる。同じくらいに、帰宅した後、布団を跳ね上げ臍を丸出しにして眠っていたあどけない寝顔も。
やがて助手達もやって来て朝食が始まった。アカネはカトラリーを渡したり飲み物を注いだり何かとブラックの世話を焼き、合間にカメラちゃんや青鬼ちゃんの口元を拭き食べこぼしを片付ける様子はまるでもう母親になったかのようだった。鬼子母神の逸話もあるように、鬼の女性には元来、母性本能の強い個体が多いという。アカネにもその血が強く出ているのかもしれない。ほんの短期間で見違えるように大人びたように思えた。
もっとも、そのせいで出来なくなったこともある。ブラックがおそらく子ども達は卵生で産まれると教えたせいで、アカネは卵を料理できなくなってしまったのだ。このところ目玉焼きの半熟加減もずいぶん上達していたのでブラックは内心悔やんだが、「ブラックのお腹に同じものがあると思うとどうしても割れないんだ、情けないよな」と無理に笑おうとしていたのを思うと余計な苦労はさせられない。
バターとジャムが塗られたトーストを、コーヒー代わりのハーブティーで流し込みながら一日の予定を確認し始めた。
「今日は予定の動画をアップし終わったら買い物ですね。カメラちゃんにはお願いしたい編集があるのでオレちゃん一人で行って来ますよ。夕方には帰ります」
「一人でなんて駄目だよ!アタシも着いてく」
「しかし、アカネさんには撮影があるでしょう?」
「それは
……
」
言葉に詰まったアカネに、青鬼ちゃんとカメラちゃんが助太刀に入る。
「ニーッ!ニーッ!!」
「じっ!じじじっ!!」
青鬼ちゃんはアカネが映らないシーンの素材撮りなら一人でできると言い、カメラちゃんも編集が終わったら青鬼ちゃんを手伝うと主張した。すっかり味方を奪われたブラックは少し拗ねてみたいような気になったものの、目に見えて明るくなったアカネの表情に免じて素直に厚意を受けることにした。
*
魔界のショッピングモールは混み合っていた。行き交う魔物達とぶつからないよう注意深く手を引いてくれるアカネに、ブラックは大人しくついて歩く。試しに指の絡ませ方を変えていわゆる〝恋人繋ぎ〟をしてみると、自分の手の取り方では痛かったものとでも思ったのか、アカネはちょっと済まなさそうに眉を下げてから同じように繋ぎ返してきた。
少し前の相手なら恥ずかしがって一騒ぎするところだったのに、変わるものだ。大型の魔物とすれ違うとき当たり前のようにブラックを逆側へ庇う動作を男前だなと感じた。腕を引っ張る力はやや強過ぎるけれど。
「あっ」
急にアカネが足を止めた。目当ての店へ向かう途中にある子ども服店に、ベビーウェアとスタイのセットがディスプレイされている。薄いブルーとピンク色で、一揃いずつ並べられているところからして男の子用と女の子用だろう。
「可愛い
……
ブラック、これ子ども達にどうかな?」
ショーウィンドウのガラス越しにセットを見つめるアカネの目は、赤い宝石のようにきらびやかだった。まだ幼さを残した頬の丸みの中で、花びらを思わせる唇がほころんでいる。道行く客達はおそらくアカネの方が身籠っているか、いずれそういう予定があるのだろうと思い込んだに違いない。あまり完璧に幸福そのものの光景なので、悪魔としては混ぜ返してやりたくなる。
「気が早いですね~、こういう全身を包むタイプのベビーウェアは難しいですよ。子どもがどちらの性質をどのくらい受け継いで産まれてくるか、まだ分からないんですから。手足の数も、翼の有無も、尻尾の本数も」
「そ、そうか。言われてみれば
……
」
しゅんとしてしまったアカネを前に、ブラックは口調から揶揄を抜いて続けた。
「スタイくらいなら良いかもしれません。買って行きますか?」
「いや、よく考えたらやっぱり最初に着せるのは赤い腹掛けがいいかなって。菱形で真ん中に〝金〟って書いてあるやつ。お腹が冷えずに丈夫な子に育つらしいぞ!」
「あの~、片方は女の子なんですよ」
「女だって強くなきゃ、それが現代の価値観ってやつだろ」
「腹掛けつけて現代もなにもない気がしますけど。それに腹掛けで有名な金太郎って鬼退治のヒーローですが、いいんですかねぇ?」
「えっ!そうだったの!?」
ブラックにとってアカネは興味深い観察対象だった。目覚ましい早さで成長していくのに出会ったときのまま変わらないところもある。未熟な後輩だと思っていたら不意に大人の表情を見せられる瞬間もあり、とても力強い面も、ひどく繊細な顔も知っていた。
アカネの凛々しいところを見れば可愛がってやりたくなり、あどけないところを見ればそんな脇の甘い女の子が魔王を守ろうと一生懸命になっていることが愉快で身を任せてみたくなる。近しい知り合いなどはブラックの倒錯を〝あまのじゃく〟と笑うが、ブラックは人の裏側を暴く己の性質として順当なことだと思っていた。
けれども妊娠してからどうもその均衡が崩れがちだ。アカネがあまりに熱心にブラックを支えようとし、ブラックの側にもそうされる正当な理由があるので、悪魔としての節度もパートナーとしての一線も忘れて、その熱意に芯まで絆されてしまいたくなることがあるのだ。
(良くないことですね)
先を歩くアカネの赤い髪を見ながら、ブラックは独白する。
(悪魔にも自制心が必要なんですよ。悪魔なりの)
家電量販店で二人は孵卵器を買い、配送の手続きをした。
「この間読んだ本には親が体温で温めた方がいいって書いてあったけど」
「そんなのは精神論ですよ。オレちゃん達に合った温め方のほうが卵のためにもなります」
「あと、このくらいの機械ならアタシ持って帰れるぞ」
「やです。こんな大きなもの持ってたら帰りは手を繋いでもらえないでしょ?」
ありふれたカップルと何ら変わるところの無いやり取りを交わしながら。
*
帰宅するとブラックはカメラちゃんが編集しておいてくれた動画の確認を終わらせ、その後は夕食もとらずにソファでTVを見たり、漫画を眺めたりしていた。
「じじっ?」
「ニー!」
心配してそばへやって来る助手達に笑って見せながらブラックは呟く。
「ええ
……
悪阻かもですね。お腹の子も自己主張するようになったみたいです」
喜ばしいことだとアピールするブラックに、アカネが薄切りのレモンを浮かべた水を差し出した。
「しばらくは無理しちゃ駄目だぞ。って言ってもアンタが動画に手を抜けないことは、分かってるつもりだけど
……
」
「更新頻度は少し抑えようと思っています。クオリティを保つためにも」
「本当か?よかったぁ」
ブラックに対しYouTuber活動について意見することは、アカネにとってずいぶん覚悟の要ることだったらしい。ソファの背もたれ越しに抱きついて来てから、カメラちゃんと青鬼ちゃんの前だったことに気づいた様子で赤面していた。
「お、お風呂沸かすよ。それまで休んでて」
スタイリッシュな黒いバスルームの床面に貼られた滑り止めのシートも、熱い風呂好きには物足りないぬるめの湯も、今だけのことと思えば悪くない。
何より、最強の魔王であり魔界では並ぶもののないトップYouTuberとして生きてきたブラックには、日常的なことにあれこれと世話を焼いてもらえることが珍しいのだ。命を賭けて忠誠を誓う者も、捧げ物として全てを差し出してくる者も、決して少なくなかったが、一個人として体調やその日の行き帰りの道など、当たり前の気遣いをしてくれる相手には数えるほどしか巡り合わなかった。
(やっぱり、良くないことですよね)
リビングを出ていくアカネに礼を言いながら、既にぬるい湯に浸かっているような甘くこそばゆい陶酔を振り払う。
悪魔にとって、優しさは騙して盗み取るべきものだ。アカネと恋人になる前、無人島で死んでしまうフリをしたり警察に捕まったドッキリを仕掛けたりしたときのアカネの反応こそ、悪魔的な悦びに満ちたものだった。心の隙につけ込んで搾り取られたものではない〝正しい〟愛や慈しみなど悪魔の手に余る。余るものを呑めば、満たされるどころか更に強欲になるのが悪魔という存在なのだった。
(よくよく節制しないと──オレちゃんいずれアカネさんの魂を食べてしまうかもしれません。ただでさえ悪阻中には、珍しいものを食べたくなるって言いますから)
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